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帰ってくると


「うわぁ~!街の中ってこうなってたのね!!あの店なんか綺羅びやかでこの私にぴったり!」


「そうだね…」


学院に来た事はあっても、王都の町並みはまだ見た事がなかったのか、ティはとてもはしゃいだ様子を見せていた。だけど、馬車に揺られながらやっと帰って来た王都にすら、僕達は素直に喜べずにいた。


「何よ!やっとこの不便な馬車の旅から開放されるって言うのに辛気臭いわね!」


「いや…お前が元気過ぎるだけだろ…」


少し不満そうな声を上げるティに、うわべだけを取り繕うような返事をバルドが返しているけれど、怪談話しをした後から、妙に沈みきったような空気が馬車の中に流れていた。


「アンタ達、あの話しをしてから明らかにおかしいわよ?そんなに、その幽霊って奴がそんなに怖いの?」


「お、俺はそんなの怖くもなんともないぞ!」


「私もそんな非論理的な事なんて信じてませんよ!」


ティの不思議そうな声に、2人は強がるように否定の言葉を口にするけれど、僕にはそんな勇気さえない。


「むしろ、どうしてティは怖くないの?」


幽霊と言う存在自体を知らなかったティだったけど、僕達が詳しく説明しても全く怖がる様子もなかった。その事を不思議に思って問い掛ければ、逆に不思議そうな顔で首を傾げられた。


「えっ?そんなの当たり前でしょう?私達妖精は魔力から産まれる存在だから、最初なんてそこら辺を漂っているだけの存在だしね。だから、そんな親戚みたいなもの怖がるはずないでしょ?」


「親戚…」


「それなら…まぁな…」


ひょんな事から妖精の秘密めいた事を知ったけれど、ティの親戚だと思い始めたら途端に怖さが薄れて来たのか、2人からは歯切れ悪い返事が返ってきた。だけど、例え似たような存在なのだとしても、やっぱり怖い物は怖い。


「まぁ、そんな事はもうどうでも良いとして、本当に私は街の中を移動出来るようにしてくれてるんでしょうね?」


「父様はもう手を打っているから、大丈夫だとは言ってはいたけれど…」


ティに駄目だと言っても、勝手に街まで行ってしまいそうだったため、それなら最初から街に行けるように手配した方が簡単だと父様が言っていた。だけど、妖精が街にいると知られるのは不味いから、知られないようにするとは言っていたけれど、どうするのかと尋ねても、直ぐに分かるよと言うだけで詳しくは教えてくれなかった。それに、お姉さんの屋敷にいる時から、何処かと頻繁に連絡を取ってはいるようだったし、ドミニクが先に返って準備しているようだった。


「ママ!見てー!妖精さん!!」


僕があれこれ考えていると、馬車の外から急に聞こえてきた幼い声に、揃ってギクリと身体を震わせる。とりあえず急いでティを隠すさなければと、みんなでティを隠しながら両手で窓際から引き離すように馬車の中へと押し戻すと、手の中から抗議の声が上がる。


「ちょっと!何するのよ!?」


だけど、それにかまっている余裕がない僕達は、馬車の騒音の中聞こえて来る外の声に耳を澄ます。


「今話題になっているお人形ね」


「私も欲しいー!!」


「また今度ね。でも、動くように改良された物を持っているなんて、やっぱり貴族は違うのね」


馬車が直ぐにその場を通り過ぎてしまってしまったせいで、その後の会話は聞こえては来なかったけれど、ティの事を気付かれていなかった事にホッと胸を撫で下ろしていると、小さな手が僕の手を叩く感触がした。


「アンタ!私を殺す気!!」


「ご、ごめん…」


「ごめんじゃすまないわよ!!」


慌ててティの口を塞いでいた手を離すけど、物凄い勢いで抗議の声が上がって来て謝罪の言葉を口にするけれど、怒りは収まらないようだった。


「でも、人形って何の事だ?」


「アレの事だろ」


そんなティを無視するようにバルドが疑問の声を上げれば、ネアがそれに追随するように馬車の外を指差す。その方向へと目を向ければ、ティによく似た人形を持っている小さな女の子が歩いていて、よく見れば他にも同じような人形を持っている子がいるのが見えた。


「何だアレ?」


「人形…なんですかね…?」


本物に似せながらも、小さな女の子受けするように可愛らくデザインされて、本物よりも可愛いような気もする。それに、騒がしくないって言う所も、好感度が高いと思う。


「父様が言ってのってこれなのかな?でも、みんなが持ってるなら人気なのかな?」


「人気なのか?だけど、そんな急に人形なんて作れる物なのか?」


「金があれば可能だろう」


さも当然の事のようにネアは言うけれど、こんな短時間でするとなったら色々と大変だと思う。だけど、そんなのはティには関係ないようで、自分に似た人形が人気なのが嬉しいようだった。


「まぁ、私の可愛さなら人気が出て当然ね!でも、とりあえずアンタ等と一緒なら街の中に出掛けても大丈夫そうね!」


「でも、誰がティを連れて歩くの?」


ティが安堵の声を上げているけれど、街で人形を持っていたのは小さな女の子ばっかりだった。だから、僕達の誰が持っていたとしても周りに変に思われる。そう思ってみんなに声を掛けたけど、やっぱりと言うか何と言うか、何時かのような空気になっていた。


「別に、リュカなら持ってても違和感ないんじゃないか?」


「確かに、上級生の女性生徒から可愛がられそうですよね」


「引き立てアイテムにゃ?」


「誰が引き立てアイテムよ!!むしろ、引き立つのは私でしょ!?」


ティはルイの言葉に怒っているけれど、僕としてはどっちも遠慮したい。それに、僕達の中で1人選ぶなら、僕が一番違和感がないのは分かっているけれど、それでも全力で遠慮したい。


「僕じゃなくて、ネアがルイのオマケとしてティの事を連れ歩けば良いんじゃない?」


「アンタ!今私の事オマケって言った!?」


今もルイを膝に乗せていて、細かい事をあまり気にしない所があるネアなら、ティを連れて歩く事も然程嫌がらないと思って、抗議するように僕を叩いて来るティを無視しながらそう提案したら、意外な所から反対の声が上がった。


「ルイはこんにゃ煩いのと一緒にいたくにゃいのにゃ!それに、これはルイの座椅子にゃのにゃ!」


「はぁっ!?それはこっちのセリフよ!!そもそも、さっきから私の扱いは何!?私は女王なのよ!!」


いつの間にか、ルイの中でネアの存在が座椅子にまで下げられていたけど、言われた方の本人は凄く満足そうな笑みを浮かべており、ティは自分の扱いに地団駄でも踏みそうな勢いで怒っていた。僕はそんな様子を横目に見ながらバルド達の方へと視線を向ければ、途端に慌てた様子で言い訳を口にする。


「ほら、俺だと違和感があり過ぎて似合わないから!」


「王族を連れ歩くなんて、私にも分不相応ですから!」


バルドもこういう時に直ぐに逃げようとするけれど、普段から爵位とか身分を気にしてはいるコンラットも、こういう時にそれを利用するのはズルいと思う。今までの恨みも込めて、じっとりするような目で2人を見ていたら、ちょっと気まずそうに視線を反らした後、バルドが何かを思い付いたような顔で言った。


「それなら、普通に連れて行っても大丈夫そうな店に行こうぜ!」


「大丈夫そうな所?」


バルドが何処の事を言っているのか分からなかった僕は、首を傾げながら問い掛ければ、少し自身あり気な顔で言った。


「オスカーさんがやっているお店なら路地裏にあるし、客とかも少ないから人の目とかも気にならないだろ?」


「あぁ!そうだね!」


あれからお店は綺麗にはなったけれど、従魔の店だからか、何度かお店に行ったりもしているけれど、まだ誰ともあの店で会った事がなかった。それに、色んな魔物も見ているオスカーさんなら、ティを見ても差程驚かないんじゃないかと僕が納得していると、それに対して直ぐに反対の声が上がる。


「嫌よ!そんな路地裏にある店なんか見に行ったって、何にもつまらないでしょう!!?私はあそこにあるような店とかに行ってみたいのよ!!」


「あんな可愛い小物しか売ってなさそうな店に、俺達だけで行けるわけないだろ!!」


「確かに…見事に女性客しかいないですしね…」


「僕達だけで行ったら、完全に浮きそうだね…」


馬車の窓からティが指差した店は、店先も可愛らしく装飾されている完全に女性向けのお店だった。だから、僕達が幾ら子供とは言っても、男同士ではとても入り難い。


「それに、あんな店に入る所をクラスの奴等とかに見られでもしたら、確実にからかわれるだろう!」


確実にからかって来そうな人がクラスに1人いるけれど、バルドだったら僕と違ってからかわれても平気でやり返しそうではあった。だけど、やっぱり恥ずかしい物は恥ずかしいみたいで、少しだけ頬が赤くなっていた。


「ふんっ!そんな細かい事を気にするなんて、アンタもまだまだ子供ね!そんなもん、言いたい奴は言っとけくらいの余裕を持ちなさいよ!」


「自分だって、子供みたいな事を前に言ってただろう!」


「私は良いのよ」


何処までも自分本意なティに、僕達は怒れば良いのか分からずに呆れていると、ティは何を勘違いしたのか、仕方なさそうに肩をすくめた。


「でも、しょうがないわね。大人の私が折れて上げるわよ」


「……っ!」


「バルド。気持ちは分かりますが、此処は堪えて下さい!」


「わ、分かってるって…」


若干イラっとしたような表情を浮かべるバルドに、コンラットが直ぐ様宥めるように静止の声を掛ける。バルドも、此処で怒ったら負けのような気になったのか、その怒りを何とか抑え込んでバルドも若干落ち着いたようだった。けど、残り少ないはずの休すにも、もう少しだけ騒がしくなりそうだった。

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