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こうして


森の入り口まで帰って来ると、僕達の帰りを待っていたかのように母様が屋敷の方からやって来るのが見えた。


「やっぱりアル達はリュカ達の方に行ってたのね」


「やっぱりって、母様は父様達がこっちに来てるのを知っての?」


僕達の前で止まると、まるで一緒にいるのを知っていたかのような言い方をする母様に僕が問い掛ければ、母様は良く聞いてくれたとでもいうような顔で答えた。


「シェリア様がそうおっしゃっていたのよ。もう、リュカ達の所に行くなら、私も一緒に誘ってくれたら良かったのに」


「しかし、ドレスで森の中を移動するのは中々大変だろう。それに、女性同士の話しを邪魔をしては悪いと思ってね」


自分一人だけ除け者にされて拗ねたような顔で言う母様に、父様は少しだけ困ったように眉を下げながら、宥めるような声で声を掛けていた。


「それにしても、よく僕達が帰って来るって分かったね?」


「私だってフィーの気配が近付けば、リュカ達が帰って来ている事くらい分かるわ」


まだ拗ねたような声で答えながら母様が屈めば、母様に駆け寄るようにフィーが走り出し、母様はフィーを優しく抱き上げると静かに背を撫でていた。


すると、今まで何処にいたのかと言いたくなるくらい全く姿を見せなかったカルロも、父様の元へとヒラリと舞うように戻って来ると、そっと肩へと止まった。だけど、その姿は何処か一仕事を終えたような、少し疲れたような雰囲気があった。


「それより、シェリアはどうしたんだい?てっきり一緒いるのかと思ったのだが?」


フィーが戻ってきたからか、少しだけ機嫌が良くなったように見える母様へと父様が声を掛けると、先程よりも和らいだ声が返ってきた。


「シャリア様なら、厨房に昼食の時間をずらして貰えるよう頼みに行っているの。だけど、使用人の方が見つからないのか、まだ戻って来てないわ」


「へぇ…そうなのか…」


「アル。まるで他人事のような態度で言っているけれど、貴方も当事者の一人なんですからね?」


「す、すまない…」


母様の言葉に薄っすらと目を細めた父様だったけれど、そんな態度を取る父様に不満なようで、母様の語尾が少しだけ強くなる。そんな母様に父様が少しだけたじろいだような様子を見せると、それを見計らったかのように間延びした声が響いた。


「あら~?帰って来てたのね~」


声が聞こえたに視線を向けると、庭園の端の方からやって来るお姉さんの姿が見えた。


「何でそっちから来たの?」


「ん~?長期旅行に行くお母様のお見送りしてたから~?」


屋敷の中にいると思っていたお姉さんが、外からやって来た事に疑問の声を上げれば、お姉さんが答えたその声に母様が驚きの声を上げた。


「えッ!?お義母様がご旅行に行かれたんですか!?何時ですか!?」


「今さっきよ~?」


「何で声を掛けて下さらなかったのですか!?教えて下さればご一緒にお見送り致しましたのに!?」



呑気な様子で答えを返すお姉さんに、慌てふためく様子で返す母様達のやり取りを見ていると、母様には悪いけれどルイとティみたいだと思ってしまった。だけど、その当の本人達は自分達には関係ないとばかりに、のんびりとした様子でその様子を見ていた。


「そんなのしなくて良いわよ~。それに、お母様も見られたら恥ずかしいでしょうし、気付かない振りをしてあげる方が親切よ~?」


「本当に…そうでしょうか…?」


「そうよ〜。それに、私の家は秘密主義の人間が多いから~」


「それは、少し分かります」


お姉さんが言ったその言葉に、母様は何処か納得するような顔をしながら父様の方へとジトリとした視線を向けていた。その視線を受けた父様は、その視線を誤魔化すように小さく咳払いをすると、わざとらしいくらいの笑顔を浮かべながら母様へと視線を向けた。


「エレナ。あの人は自分本意な人間だから、気に食わない事があれば直ぐに喚き立てに来るはずなんだ。だから、アレが何も言って来なかったのなら、姉の言う通り何も気にする必要はないよ」


「んー…、でも、どうして急にご旅行なんて…?」


「う~ん?貴方達の姿を見て、お父様の近くにでも行くなったんじゃないかしら~?」


「……良く言うな」


父様の言葉に未だに納得が出来ていなさそうな母様が疑問の声を上げると、お姉さんも疑問符を浮かべながら答えていた。だけど、そんなお姉さんに対して、父様は何故か皮肉るような顔を浮かべていた。


「ですが、それなら今度はご両親揃ってお会い出来ますよね?」


「う~ん?お母様もあちこちを転々とすると思うし、一緒に会うのは難しいんじゃないかしら~?」


「そうなんですか…」


皮肉ったような態度を取った父様を庇いながら、何処か元気を出そうとするかのように言った言葉だったけど、そのお姉さんの方から即座に否定されてしまって、母様が残念そうな顔で下を向いてしまった。


「エレナ。本当に無理に私の両親と会おうとしなくても…」


「ちょっと待て!あの女がいないって事は、もう屋敷の中を自由に移動しても良いって事ね!?」


急に声を上げたティに途中で言葉を遮られてしまった父様は、少し苦い顔をしながら振り返えるけれど、ティは至って気にしたふうもなく楽しそうだった。でも、僕の目から見たらもう既に十分自由に過ごしていたように見えたけれど、ティの方にしたら大人しくしていた方みたいだ。


「それなんだけどね~?私と遊ぶより、ティはアルノルドの屋敷に遊びに行った方が良いと思うのよね~?」


「えーーっ!!コイツなんかと遊びたくないわ!」


「安心しろ。私もお前と遊ぶ気はない」


物凄く嫌そうな声を上げるティに、父様は笑みは浮かべながらもきっぱりとした様子で拒絶していた。


「でも、今のままだと大人になるまで時間が掛かるでしょう~?」


「そ、それは…そうだけど…」


父様の意見なんか無視して話しを進めているお姉さんに、ティはまるで図星でも突かれたかのような様子で言葉尻が弱くなっていた。


「ティはもう大人なんじゃないの?」


僕達の前で大人であるかのように振る舞っていたし、他の妖精達も同じような年齢の姿をしていたから、てっきりこれで大人なのかと思って尋ねたら、ティは少しムッとしたような顔で答えた。


「そんなわけないでしょ!大人になったらもっと格好良いわよ!だけど、成長するためには大量の魔力がいるのに、それが全くないんだから成長のしようもないの!」


「あぁ、だからそんなに小さいのか」


「私は小さくなんかないわよ!アンタ達人間が年を取るのが速いだけ!」


「そこは、成長が速いと言って欲しいです…」


バルドの言葉に反論したティだったけど、何だか嫌な言い方にコンラットが少し嫌そうな声を上げていた。


「それで、後どれくらい掛かりそうなの?」


「んー?500年くらい?」


「随分と時間が掛かるんですね?」


「アンタ達人間が魔力が豊富で貴重な素材が取れるって言って、無制限に森の資源を取って行った結果でしょう!!そのせいで魔力を森の再生に使っているから、私が貰える分なんてないのよ!!」


まるで僕達が全部悪いみたいに詰め寄られるけど、実際に僕達が何かしたわけじゃないから、そんな事を言われても困る。だけど、そんな僕達の困惑なんてどうでも良いみたいに、ティの不満は止まらない。


「道が高位の魔物の巣の近くとかに繋がっているなら速く貯まるだろうけど、こっちの存在に気付かれても面倒な事になるし、ウルみたいに間違って向こう側に行っちゃう可能性もあるから、安全のために見つけたら直ぐに壊すようにしてるのよ!だから、全然貯まらたいの!!」


少し興奮して息遣いも荒くなっているティに、お姉さんが落ち着かせるような優しい声で話し掛ける。


「だから、無駄に魔力が高いアルノルド達の近くにいた方がティの成長も速いかと思って提案したのよ~。それに、ちょうどドラゴンもいるみたいだしね~」


「アレはオルフェの召喚獣だ。本人の許可なく勝手に話しを進めるな」


「アレの魔力で良いなら、幾らでも持って行っても良いですよ」


ずっと後ろで静かにいたアクアへとお姉さんが流し目を送ると、父様が庇うように止めに入ってくれた。なのに、兄様の方はというと、あっさりとした様子でアクアの事をティに売り渡していた。そんな兄様の様子に、アクアはショックでも受けたように項垂れていた。


「そもそも、何故我々が魔力を提供する前提で話しが進んでいるんだ。お前も、森の恩恵を受けている人間から魔力を貰えば良いだろう」


「シェリアは私達との約束をちゃんと守ってくれるから良いのよ!」


父様とティが喧嘩みたいになりそうになっている横で、お姉さんは父様から説得する相手を変えたようで、楽しげな笑みを浮かべながら母様へとまず視線を向けた。


「エレナも、ティとはもっとお喋りしたいでしょう~?それに、道を通れるティがいれば、私とも頻繁に手紙のやり取りが出来るうえ、ティは魔力が貰える〜。そして、私はエレナとも親睦が深められて良い事だらけでしょう~?それに、嫌になったらティは道を通って帰ってくれば良いだけでしょう~?」


「確かに!それはそうね!」


「私も、シェリア様とは親睦を深めたいです」


「ふふっ、だそうよ~?」


「……」


女性陣の楽しげな様子に、もう何を言っても変わらないと思ったのか、父様はため息混じりに諦めきったような声を上げた。


「はぁ…騒ぎは起こすなよ」


「人を問題児みたいに言わないでよ!」


母様がお姉さんの見方になったから、父様はもう反対出来なくなったかのようで、渋々といった様子で滞在する事を受け入れていて、ティの言葉にも何も言わなかった。だけど、ティが一緒に付いて来ると聞いたウルが、未だにネアの腕で寛いでいるルイへと声を掛ける。


「ティ様がこの方に付いて行くなら、ルイもティ様のお世話係としてちゃんと付いて行くニャ」


「そんにゃのいやにゃ」


だけど、ウルが言った言葉に、ルイは当然のように拒絶の言葉を返していた。けれど、ウルはそれを見越していたかのように、しれっとした声を上げる。


「それなら、ルイがティ様の変わりに森の管理の仕事をして働いてくれるニャ?それならウルが付いて…」


「ルイが行くにゃ!だから、3食昼寝付きでおやつも付けて欲しいにゃ!」


仕事をさせられると知ると直ぐさま手のひらを返し、どさくさ紛れて僕達に対するお願い事も一緒に口にする。


「それくらいなら造作もない。屋敷に付いたら直ぐに手配させる。幸い、ドミニクも此処にいるから段取りを付けて貰おう」


「そういえば、ドミニクは何処に行ったの?」


ルイの要求に二つ返事で答えていた兄様に尋ねれば、何故か父様が変わりに返事を返してきた。


「少し自警団の事務所で、私達の変わりに事情を聞かれているんだよ」


「父様達、何かしたの!?」


「いや、少し張り切り過ぎてしまってな」


「少し…?」


僕の質問に、父様は少しはにかむようにような笑みを浮かべていたけれど、それをカレン様は一歩引いたような顔をしていた。


「良いなぁ…俺の家にも来て欲しい…だが…」


僕達がそんな話していると、ネアの方からボソボソとした声が聞こえて来た。けれど、商団で食品関係とも扱っているからなのか、その顔は何とも苦々しそうで悔しそうだった。だけど、兄様は反対に少し嬉しそうで、そんな兄様の様子に父様は僅かばかりに苦笑していた。


「オルフェが楽しそうなら、多少騒がしくても我慢するしかないな」


「ちょっと、何で私が来ることよりもルイがくる事の方が喜ばれているのよ!?」


「当然だろう」


周りの様子に納得出来ないティが声を上げれば、ネアが当然のような顔で断言する。だけど、ティと一緒にそれに納得してなさそうな人がもう1人いた。


「なぁ?ずっと思ってたんだけど、猫より犬の方が可愛くないか?」


「バルド…話しがややこしくなりそうなので、少し黙ってて下さい…」


「?」


不思議そうな顔で余計な火種を生み出しそうになったバルドに、コンラットは静かに静止の声を掛けていた。だけど、こうして僕達が帰る時に、ティも一緒に王都へ行く事になったのだった。

お読み下さりありがとうございます

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