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仲良し


「何故、まだ此処にいるんだ?」


「シャリアが昨日どうしてもって頼むから、私は仕方なく!仕方なく泊まっていって上げたのよ!そうよね!!?」


「そうよ~。帰る途中で可愛いティが攫われたらどうしようって考えたら、あんな夜道なんて心配で帰せないわ~」


「ふふん!まぁ、例えそんな奴が来たとしても、私が華麗に返り討ちに出来るんだけど、大事なシェリアを心配させるわけにはいかないかものね!!」


「ふふっ、ティは優しいわね~」


「当然よ!」


みんなと一緒に下にある食堂の扉を開けると、先に来て席に座って待っていただろう父様と、扉に背を向けるようにして立っているお姉さんの肩に乗っているティがいた。ティは、会話の途中で見えない相手にパンチを繰り出すようにして拳を前に出して、後ろからでも分かるくらい自信満々に胸を張っていたけれど、争い事が苦手な僕から見ても、その姿はとても頼りなさそうに見えた。


「……いや、絶対無理だろ」


「正直、私でも勝てそうです…」


「だよな」


「ちょっとそこ!聞こえてるわよ!!」


バルド達も僕と同じ事を思っていたようで、僕の後ろでティの事をひそひそと話していた。だけど、距離が近かったからか、ティにもしっかりと2人の会話が聞こえたようで、後ろを振り返ったティは立腹した様子で、仁王立ちをしながら2人の事を見下ろしていた。


「何も言ってないよな!?」


「え、えぇ…」


「本当に?」


「本当だって!!」


凄みを掛けるように目を細めるけれど、全くと言って良いほど迫力がない。言い訳をするバルドの方も、怖がっていると言うよりも、面倒事を避けるために必死という感じだった。そんなバルドの言葉を疑わしげな目で見ているティに、お姉さんは内緒話でもするかのように顔をそっと近付けた。


「ティ~?こういう時は、余裕を持って許して上げると格好いいわよ~?そうすれば、ティの可愛さと格好良さが合わさって最強よ~?」


「最強!?ふ、ふふん!最強である私は、余裕を持ってさっき言った言葉は許して上げるわ!」


お姉さんが言った言葉は僕の方まで聞こえていたけれど、ティはその言葉をそのまま復唱するようにして、堂々と叫んでいた。そしてティは、得意げな顔をして僕達を見下ろしていたけれど、何故か僕には、悪い人に直ぐに騙されそうと言う不安しかなかった。


「はぁ…、いっそのこと、そうなってくれた方が厄介者共を排除する手間が省けて助かるか…」


「アル。冗談でもそんな事を言っては、ティが可愛そうよ」


ため息混じりでそう言った父様は、頭が痛そうに右手で額を押さえていたけれど、母様そっとそれを窘めていた。だけど、その事で勢い付いた人がいた。


「そうよ!そうよ!エレナ!私の事を直ぐに追い出そうとするコイツに、もっと言ってやって!!」


「さっきもそうだけど、アルはどうしてそう意地悪みたいな事をティに言うの?」


「いや…意地悪で言ったわけでは…」


「夜道を帰そうとしてたでしょう?」


「元々、そこに住んでいるわけで…」


「アルは、ティにもっと優しくして上げて」


「……はい」


父様の正論も、母様からの小言には敵わないようようで、渋々といった様子で返事を返したいた。


「シェリア聞いた!アレが素直に返事をしたわよ!」


「ええ…話には聞いていたけれど、此処までなったなんてね…」


僕としてはあまり珍しくない事だったけれど、言い始めたティの方がその光景に驚いた様子で、目を見開きながらお姉さんの気を引くように頬を叩きながら話し掛けていた。お姉さんの方も、驚きを滲ませたような様子で返事を返していて、ティが頬を叩いているのにも気付いていないようだった。だけど、直ぐに驚きから立ち直ったように、既に見慣れたのんびりとした笑みへと戻ると、未だに驚きで混乱しているティへと視線を向ける。


「ティ、急に頬を叩くのは止めてね〜?びっくりしちゃうわ〜」


「あっ!ごめんね!痛くなかった!?」


お姉さんから注意されると、ティは慌てた様子で1度頬から手を離し、今度は労るようにして頬を撫でていた。


「ふふっ、痛くはなかったから大丈夫よ〜。でも、今回はティ達の勝ちのようね~」


「勝ち?何が?」


何処か楽しげに笑いながら言うお姉さんに、ティは何を言われたのか分からない様子で、不思議そうに小首を傾げていた。


「今回、アルノルドの事を言い負かして謝らせたでしょう〜?だから、ティの勝ち〜」


「えっ?あッ!ホントだ!?やったー!!アレに勝ったー!」


お姉さんの言葉を理解したティは、喜びを爆発させたようにお姉さんの周りを踊るように飛び回っていた。そんなティの様子に、父様は嫌な物でも見るかのように少し顔を曇らせていたけれど、母様達、女性人の方へは微笑ましげに見ていた。お姉さんの周りでひとしきり喜んだティは、今度は母様の方へと駆け寄りって行った。


「エレナ!コイツに勝てたのも、エレナのおかげよ!エレナに何かあれば、今度は私が助けて上げるからね!!」


「ふふっ、それなら、今度はティに守って貰おうかしら?」


「ええ!私に任せておきなさい!」


「それは、止めておいた方が…」


「アンタは黙ってなさい!」


「……」


直ぐに母様を止めようとした父様だったけれど、それをティに邪魔され、父様は何とも面白くなさそうな顔をしながら、仲よさげに話す2人の様子を見ていた。


「この少しの間で、随分と親しくなったのだな…」


「そうよ。ティとは仲良しなの」


「「ね~」」


何処か不貞腐れたような父様との問い掛けにも、2人は視線を合わせながら子供のように無邪気な笑顔を浮かべていた。その楽しげな姿に、父様は何も言えないようで、何とも複雑そうな顔をしながら眺めていた。すると、そんな空気には似合わない、ぐーっと言う気が抜けるような音が後ろから聞こえて来た。僕達の視線が揃って後ろを向くと、少し顔を赤らめバツが悪そうな顔をしながらお腹を抑えているバルドの姿があった。


「ふふっ、話しはこれくらいにして、ご飯にした方が良さそうね~」


「賛成ー!」


お姉さんの言葉に促され、僕達はそれぞれの席に付く事にした。昨日と同じ席に座って運ばれて来るご飯を待っていると、料理を運んで来てくれたメイドさんの手がふっと目に止まった。


「その手どうしたの?」


「え、えっと…昨夜コップを割ってしまいまして!」


昨日はなかった左手の包帯に視線を向けながら訪ねると、もう片方の手で包帯を隠しながら、少し慌てた様子で言葉を濁した。


「大丈夫?」


「は、はい!大した怪我ではありませんので!お見苦しい物をお見せしてしまい申し訳ありません!失礼致します!」


心配して声を掛けただけなのに、そそくさと逃げるようにして部屋を出て行ってしまう行動に、僕は理由も分からず見送っていると、隣に座っていたバルドが不思議そうに声を掛けてきた。


「何かあったのか?」


「今、手を怪我したメイドさんがいたから声を掛けたんだけど、何でか避けられたような気がして…」


「ふ~ん、酷い怪我でもしてたのか?」


「ううん、大した事ないって言ってた」


「本人が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫なんじゃないのか?それに、小さい怪我なんて日常的によくある事だろ?」


「アナタの日常とは、誰も一緒にされたくないと思いますよ…」


「そうか?それより、もう食べていいか?」


毎日のように何処か怪我しているバルドに取っては、怪我なんて日常の一部のような感覚みたいなようで、特に気にした素振りもなかった。それに、今は他の人の小さな怪我よりも、目の前に置かれた料理の方が大事なようだった。


「ええ、先に食べて良いわよ~」


「やった!」


父様達はまだ食べ始めていなかったけれど、バルドが問い掛けるとお姉さんは直ぐに許可の返事をくれた。それを聞いたバルドは、さっそくとばかりにフォークなどを持って食べ始めていた。僕の反対側の隣に座っていたコンラットは、バルドのそんな様子に、呆れを滲ませたような目で見ていた。


バルドほどじゃないけれど、僕もお腹は空いていたため、先に食べようと思って視線を前へと戻すと、横にいたネアの事が、さっきまで僕が見ていた扉の方へと視線を向けているのが目に入った。


「ネア?どうしたの?」


「いや、治癒師がいないのはまだ分かるが、どうして薬を使わないのかと思っただけだ」


「そうですね。大した怪我でないなら、薬師が作る薬でも簡単に治ると思うのですが、やはりこういった場所は流通の流れが悪いのでしょか?」


「いや、此処までの道や町の様子を思い出しても、特に問題があるようには見えなかった。だから、この町にも品はきちんと届いているはずだ」


「じゃあ、何が問題なんだ?」


「さぁな、此処の住人じゃない俺には、他に問題があるとしか言えないな。それか、直接聞くとかな」


少しだけ食べる手を止めながら不思議そうな声を上げるバルドに、ネアはお手上げみたいな態度で視線を前に向ける。


「今は…無理だろうな…」


「そうですね…」


「…うん」


僕達はちょっと気まずい思いで、揃って賑やかな声が聞こえて来る父様の方へと視線を向ける。


「エレナ!コイツのせいで、私に水が掛かった事もあるのよ!」


「いや…あれもお前が…」


「アル?」


「……すまない」


先程の件で味をしめたかのように、ティは席に座ってからも特に父様が悪かった事でもない事を話しては、母様を通して父様に謝罪させていた。お姉さんもその様子を楽しんでいるのはもちろんなんだけど、母様も日頃の鬱憤を晴らすかのように、父様をからかっているような様子だった。そんな父様の横に座っている兄様は、自身へと飛び火して来ないようにするためなのか、存在を消すかのように黙々とした様子でさっさと食事を終わらせようとしているようだった。


「まぁ、俺達が気にするような事でもないからな」


「そ、そうだね…」


誰もあの中に入って行く勇気なんかなく、どうしても知りたいと言うわけでなかった僕は、ネアの言葉に同意を返しながら食事を食べようとフォークへと手を伸ばした。すると、コンコンと窓ガラスを叩くような音が聞こえ視線を向けると、窓の外にこちらの様子を伺うように部屋の中を見つめている1羽の鷹が止まっていた。

お読み下さりありがとうございます

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