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悟り


「父様?母様と一緒にこんな所でどうしたの?」


森の入口の方から笑顔を携えてやって来る父様達に僕がそう訪ねると、父様は困ったように目尻を下げなからも、その笑みを深くしながら口を開いた。


「リュカ達が森に言っている間、此処にいた時の事や、森の管理者について話していたんだが、エレナが実際に1度会ってみたいと言うのでね。勝手に押し掛けて来るだろうから、渡しはわざわざ見に行く必要などもないと思うのだけど。かと言って、エレナ1人で森に行かせるのもね…」


放って置く事が出来ずに付いて来た父様の横で、母様の視線はずっと僕の頭上に注がれており、その目は可愛い者を見るようなキラキラと輝いていた。そして、それに興味と興奮が混ざったような目だったけれど、そんな視線を向けられても、真っ先に騒ぎそうな彼女がさっきから一言も発せずに何故か大人しい。


彼女の姿が見えない僕は、視線だけを上に上げて彼女の反応を伺っていると、わなわなと振るえたような声が振ってきた。


「誰…これ…?」


「誰って、父様だよ?父様と知り合いなんでしょう?」


「全然違うわよ!こんな人当たりがよさそうな笑顔を振りまくような奴じゃなくて、私が知ってるのはもっと傲慢と無愛想が一緒になって服を着て歩いているような奴よ!!もしかして、また偽物!?」


彼女の口から、父様の事を完全否定するような言葉が出てくると、父様の笑顔が少し曇った。


「偽物とは、誰の事を指して言っているのかとても気になるが、お前が思っている本物は、私だろうな」


「えっ!!?じゃあ!何か得体の知れない病気にでもかかったの!?それとも、何か悪い物でも拾い食いしたの!!?」


「私が、そんな真似をするわけがないだろう…。そもそも、お前も魔力の気配で簡単に判別が付くはずだろう……」


「えッ?あぁっ!!」


笑えが消えた父様を見ても、彼女はそれを気にした様子なく、父様の事を心配するように飛び回っていた彼女は、今思い出したかのような声を上げて、片手で作った拳でポンと手を叩いていた。


「アンタは外見が目立つから、すっかり忘れてたわ!でも、良かった!今度はちゃんと本物だ!!」


すっかり笑顔が消え、無表情になった表情の中に不機嫌さが混ざったような父様の顔を見ても彼女は驚く処か、何処か安心したような声を上げていた。


「ふふっ、何だか聞いていたよりも元気で可愛いらしい子ね」


「……コレが?」


「コレって言うなー!!」


父様達の会話を横で聞いていた母様が楽しげに言うと、彼女はその言葉に得意げな顔をしていた。けれど、父様が訝しげな声を上げると、兄様の時と同様に父様にも食って掛かっていた。


「アンタは毎回!私に失礼なのよ!って!イッたいわねー!!」


「……お前がそれを言うのか?」


僕の頭上から飛び出して行った彼女が、その勢いのまま父様の太腿部分に思いっきり足蹴りを入れるけれど、父様には全く効いていないようで、むしろ、蹴った彼女の方が痛そうに怒っていた。


「あらあら、ティは今日も元気ね~」


呆れ返ってそれ以上の言葉が出て来ないみたいな父様の後に、聞いた事のあるのほほんとしたような声が聞こえて来て、そちらを向くと想像通りの人物がそこに立っていた。


「シェリア!」


お姉さんの姿の姿を確認すると、さっきまで痛がっていたのが嘘のように、側へと飛んで駆け寄るって行っていた。


「シェリア!また、アイツが私の事を虐めたのよ!!」


「あら~?それは困ったわね~?一緒にお仕置きする~?」


「えっ!?い、良いわ!私がやるから、シェリアは大人しく後ろで見てて!!」


「そ~う?じゃあ、可愛い勇姿を後ろから見てるわね~」


「ええ!私の可愛い勇姿を見せて上げるわ!!」


父様の事を文句を言いながら話していたけれど、お姉さんからの提案は慌てた様子で止めに入った。でも、褒めれれると直ぐ様両手を腰に当てて、嬉しそうに堂々と胸を張っていた。だけど、その会話を聞いていた父様の顔は、少し曇っているように見えた。


「…姉上。何故、此処に来たんですか?」


「ん~?アルノルド達も森に行くようだったから、私も混ぜて貰おうと思って~?」


「はぁ…エレナ、紹介が遅れてしまったが、コレがさっき話していた妖精だ。無駄に煩いが害はない」


「アンタの方が、私よりも余っ程害があるでしょう!!」


父様の雑な紹介に、父様の背中を殴り付けながら抗議していた。だけど、さっきの事で少し学んだのか、自分が痛くない範囲で攻撃しているため、その姿は小さな子供がじゃれているようにしか見えない。そんな彼女の様子は、母様にとっては微笑ましいようで、優しげに問いかける。


「可愛い妖精さん、私はエレナって言うんだけれど、私とも仲良くしてくれる?」


「えっ!?あっ…、ふ、ふふん!エレナはコイツと違って見る目があるのね!私は妖精女王のティターニアよ!で、でも、名前が少し長いし、シェリアと一緒に親しみを込めてティって呼んで良いわよ。後、アンタ達もティで良いわ!」


父様の背中を殴っていた彼女だったけれど、母様の言葉に照れたように顔を赤らめながら虚勢を張る。そして、少し伺うような様子を見せた後、母様にチラチラと視線を向けながら、恥ずかしさを誤魔化すかのように愛称で呼ぶよう母様に言っていた。


「ふふっ、屋敷のお茶会にご招待して、ラザリア様にも御紹介したいわ」


「呼ぼうと思えば出来きなくはないが…」


「アンタがもう来るなって、私の事を一方的に来れなくしたんでしょうが!!まぁ、シャリアからアンタは私と違ってまだまだ子供だって聞いてるから、大人である私が多めに見てあげるけどね!」


母様からの提案に、少し躊躇いを見せながら父様が答えると、彼女は上から見下ろすようにしながら偉そうにふんぞり返りっては、父様相手にかなりの上から目線で話していた。だけど、父様の方は何を言われているのか一瞬理解できないような浮かべた後、何かを察したようにお姉さんへと視線を向けていた。


「…姉上。どんな説明をしたんですか…?」


「ん~?道を壊したのは、アルノルドが子供の頃の話しをされるのが恥ずかしいお年頃だったからで~。だから、アルノルドの思春期が終わって大人になるまで会いに行くのは待ってね?って~」


「……思春期」


予想だにしていなかった事を言われたかのように、父様はショックを受けたようなに小さく呟いていた。だけど、その呟きを聞いたネアが、僕の後ろに隠れるようにして小さく吹き出した。その小さな声が父様に聞こえていたのか、笑みが消えた顔で、さらに眼を細めながら僕の後ろを睨みつけるような視線を向けていた。


「父上」


「そうだな…。コレの年齢と比べれば、まだ子供のようなものだな…」


兄様から呼ばれた途端、父様は苦い顔を浮かべながらも、彼女の言葉に同意の言葉を返していた。


「それにしても、ティの事を自分から誰かに言うとは思っていなかったわ~。てっきり、最後まで悪足掻きして隠し通そうとすると思ってたのに~?」


「ある者から助言を受けたのですよ。下手に隠すよりも、自分から話した方が被害が少ない。それと、ある程度悟りを開く事も大事だとも」


「も~う~、誰だか知らないけれど、私の弟に変な事を吹き込まないで欲しいわ~。せっかく、慌てふためく姿を見れると思ったのに~」


「シェリア!コイツが慌てふためく姿なら、私も見たいわ!!」


「そうよね~?エリナさんは、アルノルドのそんな様子見た事ある~?」


「ええ、何度か見た事あります」


「まぁ~!よければどんな様子なのか、私にも教えて貰えないかしら~?」


「私も聞きたい!」


「はい、喜んでお話ししますわ。その代わり、私もアルの昔話しとかを聞かせて欲しいです」


「良いわよ~。何の面白みのない頃の話しで良いなら~幾らでも話しちゃうわ~」


「私も!」


父様の話題で意気投合している3人を前に、父様は誰も味方がいないような顔をしながらも、黙ってその会話を聞いていた。


「コイツの笑い話しが聞けるなんて、わざわざからかいに来たかいがあったわ!」


父様の慌てふためく姿はティにとっては笑い話のようで、何とも楽しげな様子で笑っていた。そんなティに、僕は母様達の会話を聞いてふと気になった事を訪ねてみた。


「そういえば、何で父様の事は名前で呼んでないの?」


「だって!コイツが私の事をアレとかソレってしか呼ばないんだもの!!だから、私も呼ばないって決めてるの!」


「そうなの?アル?」


「……」


ティが言った言葉を受けて、母様が父様に問い掛けるけれど、父様は無言で何も言わない。でも、それは殆ど肯定しているようなものだった。


「こんなに可愛いらしい子なのに、何で名前を呼んで上げないの?」


「そうよね~?呼んであげれば良いのにね~?」


「そうよ!私の名前が呼べるのよ!!」


名前を呼ばれ待ちしているティと、母様とお姉さんの言葉や僕達の視線を受けて、父様は何処か観念したような様子で静かに口を開いた。


「………ティターニア」


「い、今!鳥肌たったわ!!それに、アンタから素直に呼ばれると、なんか気持ち悪い!!」


「………」


父様が名前を呼んだ瞬間、腕を両手で摩りながら悲鳴を上げ始めた。呼んだ方の父様はというと、無表情のまま無言で静かに立っていた。

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