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明日には

宿に入ると、中のホールは吹き向けになっており、一番上には綺麗なシャンデリアが光を放っていた。下から見上げていて少し距離があるせいか全体の装いは見えないけれど、金細工などが光を受けて光っているのは見えるから、かなりのお金は掛かっていそうだ。


周りに飾られている絵画は金の額縁に入っていたり、棚に置かれている調度品なども見た目重視と言った感じの物が多くて、何とも使い辛そうで目に痛そうだった。


僕の屋敷は実用性を重視しているのか、あまり飾りがない家具が多いし、バルドの屋敷は無骨な物が多い。母様の部屋や、1度入った事があるラザリア様のお部屋には、華やかな物で部屋を彩る物はあっても、ちゃんと実用性があるものばっかりだ。だから、こういった装飾品なんかを見ると、何だか旅行に来ているんだと実感させられる。


「なぁ?明日も移動だけなのか?」


部屋に案内されて、直ぐに布団の上でごろ寝をしながら今日の疲れを癒やしている僕に、さっき聞いたばかりの事を再度僕に聞いて来た。


「明日もまた別な街に泊まるって言ってたから、そうなんじゃないの?」


「そっか…」


「でも、それがどうしたの?」


バルドも一緒になって予定は聞いて知っているはずなのに、何とも複雑そうで残念そうにしているから、どうしたのかなと思って訪ねれば、少し言い辛そうな顔をしながら口を開いた。


「いや…日課で軽く走ってるからか、3日も馬車の中でただじっとしてると思うと、何か落ち着かないんだよなぁ…」


気まずそうに頭を掻きながら言うけれど、途中で取った休憩の時に、既に軽く走っていたと思う。


馬車から降りて直ぐに、遠くまで勝手に走って行きそうだったみたいだけれど、それに気付いたコンラットがいち早くそれに気付いて止めたようだった。見晴らしも良くて、何もいないから大丈夫だと言っていたバルドの声が、慌てて馬車を降りようとするコンラットの背中越しに聞こえていた。


コンラットに注意されながらも、じっとしてるのは落ち着かないとバルドが騒いでいたら、その声が聞こえてただろう父様が、目の届く範囲でなら良いと言うと、解き放たれた犬みたいに走っていた。


「言っておきますが、明後日の昼頃に着くというのはあくまで予定であって、それ以上掛かる可能性もありますからね」


「えーーっ!!?」


コンラットの一言で盛大に不満の声を上げるバルドだったけど、コンラットはそちらに視線を向ける事なく、背中を向けたまま、部屋に運び入れて貰った荷物を整理をしていた。


「そんなに走りたいなら、お前1人だけ、走って馬車を追い掛ければれば良いんじゃないか?」


「おっ!良いかもな!それ!!」


ネアはもう付き合うのが面倒だとでも言うように、何処か皮肉めいた様子で言っていたけれど、言われた方はそんな事なんか気にした様子もなく、名案とばかりの顔をしていた。


「いや…冗談で言っただけだからな…」


冗談を真に受けて、本気でやりそうな雰囲気の様子のバルドに、言った方のネアが何処か引いたような顔を浮かべていた。コンラットは聞こえない振りでもしているのか、何も言おうとはしないけれど、僕の方からもはっきりと止めた方が良いかな?とも思ったけれど、ちょうど夕食を伝えに来た人の声で、その話しはその場で終わりになった。


その後、みんなでたわいない話しをしながら夕食を食べ終えた僕は、少し疲れていた事もあって、部屋に戻るなりベットへと横へと横になると、バルドの声が飛んできた。


「リュカ!寝るにはまだ速いぞ!!」


「うーん…」


枕に顔を伏せたまま、うめき声に似たような返事を返しつつ、ベットの布団の中へと潜り込む。この宿のベットは、僕の部屋にあるベットよりは少し硬いけれど、布団の中に入るとさっきまでは感じなかった眠気がやって来る。


「明日も移動が続くんですから、私達ももう寝ますよ」


「もう寝るのか!?」


「当たり前だろう。嫌なら静かに1人で起きてろ」


「1人で静かに起きてても仕方ないだろ!!」


バルド達がうるさく何か言っているのは聞こえたけれど、眠気に負けて寝入ってしまった僕は、1人先に眠ってしまっていた。だから、2人からバルドが煩くてよく眠れなかったと聞いたのは、翌朝になってからだった。


その日も、朝から馬車での移動が続いているが、窓から見える景色は相変わらず変わらない。時折、遠くに小さな町が見えたりするけれど、遠回りになるからなのか、そこに寄るような事もなく、目的へと続く街道を進んでいた。


最初は、ネアが昨日話していた冗談を実際にやるんじゃないかと思ったけれど、そんな素振りはなかった。だけど、暇を潰すようにみんなで馬車の中で遊んでいる間も、これから行く場所への期待も合わさったからなのか、昨日よりも落ち着かなさそうにソワソワしていた。そのせいで、何度もネアやコンラットからは注意されていたけれど、それは本人にもどうにもない様子だった。


そんな中、昨日と同じように途中で休憩を挟みながら進んで行き。馬車が町に到着したのは夕方を少し過ぎたくらいになってからだった。昨日とは違って薄明かりの中で見たからか、その日の宿は前に泊まった宿と比べるとそこまで豪華という印象はなかった。だけれど、道すがらこの街の様子を見た限りだと、一番豪華そうな宿ではあった。


だけど、出迎えに出てきた宿の人は、貴族の対応なんてまるで慣れていないような様子で、仕切りに恐縮したような態度を父様に見せていた。昨日みたいな対応も苦手だけど、こっちはこっちで落ち着かない。それに、2日間も揺れる馬車に乗っていたうえ、今日はあまり道も綺麗じゃなかったのか、揺れが昨日よりも酷かった。そのせいもあって、僕はもう疲れて来ていたけれど、バルドは体力があるから、まだまだ元気な様子だった。


「部屋に行く前に、先に夕食を食べ終えてしまった方が良いと思うのだが、どうだろうか?」


「はい、その方が良いと思います」


宿の人と話しを終えた父様が、僕達にそう提案して来ると、兄様も直ぐに同意の返事を返していた。今日は、昨日よりも遅く着いたからなのかと思いながらも、部屋に戻ったら動けなくなりそうだったから、僕は無言で頷きながそれに返事を返した。


誰からの反論も上がらなかったから、みんなで連れ立って食堂へと向かう事になった僕達だったけど、みんなが食べ終わってそろそろ部屋に戻ろうかなと思った頃、それを待っていたかのように父様が口を開いた。


「明日は少し遅めに出て、予定より少し遅れた昼過ぎに着こうと思う」


「どうして?」


急に予定を変更した事を不思議に思って問い掛ければ、父様は口元に苦笑を浮かべて言った。


「明日には着く距離まで来たのだから、無理に速く着く必要もないかと思ってね。それに、疲れが溜まっている者もいるようだしね」


そう言った父様の視線の先には、少し眠りかけているコンラットの姿があった。僕より体力がないコンラットは、とても疲れたような様子を見せていて、父様から向けられている視線にも気付かない程だった。


「その方がよさそうね…。でも…急に予定を変更したら、お姉様にご迷惑をお掛けしないかしら…?」


コンラットの様子を気に掛けつつも、母様は父様へと確認を取るように問いかける。


「姉の方には、今日の内にそれを知らせる手紙を出しておくから問題ないよ」


「でも、せっかく昼食の準備も整えて待っていて下さったのに、気を悪くされないかしら…?」


「そんな事で、怒るような相手ではないよ。それに、余った食材はメイド達のまかないにでも使うだろうから、逆に下の者には感謝されるかもしれないよ?」


まるで母様の懸念を晴らすように、少し冗談めかしに言う父様に、母様は本当に信じて良いのかというような視線を向けていた。


「朝方には届くように知らせるから、そこまで向こうに手間を掛けさせる訳じゃない。だから、本当に大丈夫だよ」


「そう…それなら…良いのだけれど…」


自分が信用がない事を苦笑するような笑みを浮かべながら、父様は僕達を見渡すように視線を回した。


「他に異論はないかな?それでは、明日はゆっくりと休んでから出発しよう」


誰からも異論の声が上がらない事を確認した父様は、決定事項を伝えるようにして僕達に言った。僕の隣にいるバルドは少し不満そうな顔はしていたけれど、コンラットの事を気遣ってなのか、顔には出ていても何か言う様子はなかった。


その後、父様は母様に先に寝ているように言うと、手紙を書くからと言って、1人速く食堂を後にして行った。

お読み下さりありがとうございます

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