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道中

父様達に続くように部屋を後にした僕達は、玄関ホールを抜けて外に出る。するとそこには、僕達が屋敷に入る時にはなかった2台の馬車が止まっていた。既に荷物の積み込みも終わっているのか、御者も座っており、何時でも出発出来るような体制が整っていた。


先の方を歩いていた父様は、ドミニクと何か話しているようだったけれど、僕の位置からは少し距離があって、何の話しをしているのかまでは聞こえなかった。


何の話しているんだろうと2人の様子を見ていたら、ドミニクは薄い紙の束をそっと父様へと渡し、それを受け取った父様は軽く中を確認するようにページを捲っていた。最後まで捲り終わると、もう必要ないとでも言うように、ドミニクへと返していた。


「父様?今、何見てたの?」


父様の側まで来た僕は、ドミニクに返した紙の束へと視線を向けながら父様へと問いかけた。


「ん?あぁ、リュカの友人達が持って来たという手土産の一覧を確認していただけだよ」


「あんな軽くパラパラ捲っただけなのに、何が書いてあるか読めるの?」


「読めるよ?それに、特に複雑な事が書かれていると言う訳でもなく、品の名と、どういった物かの説明が書かれているだけだったからね。見た限り痛むような物はなかったから、とりあえず保管だけして貰おうかな」


「では、残りの者達にそのように伝えます」


「お前の事だから問題はないと思うが、不手際はないようにな」


「心得で御座います」


会釈すると、父様から受けた支持を伝えるに、見送りのために外に出ていたメイド達の方へと背を向けて歩いて行った。


「ふぅっ…ドミニクを此処に残して行けるのなら、何も問題はなかったのだけれどね…」


何時も留守を任せているドミニクも、今回は僕達と一緒に行くからなのか、何処か不安な物を見るような目で、メイド達へと指示を出している後ろ姿を見つめていた。


ドミニクが戻って来るのを待って、僕達は2台の馬車の馬車に別れて出発した。どう乗るかは、特に話し合う事もなく、自然な流れで僕達4人と、父様達とで乗る事になった。人数的な兼ね合いも合ったんだろうけど、みんなが下手に気を使わないようにするための配慮もしてくれたみたいだった。


馬車に乗った最初は、あまり行かない下街の様子など見る物とかもあって楽しかったが、外へと出る門を潜った後は、ただ草原が広がっているだけの代わり映えしないような景色だけが続くだけだった。


前回は、途中にまだ森があったから、魔物とかが出るかと、みんなで時々窓の外を眺める事があったりもしたけれど、見晴らしの良い草原ではそういう事もない。そもそも、生き物さえも見えない。


「特に…何もいないな」


昼近くになっても余りにも変わらない景色が続くからか、窓を眺めていたバルドがつまらなそうに溢した。


「こんな見晴らしの良い場所にいるのなんて、草むらに隠れられる小動物くらいなので、仮に此処に居たとしても、馬車が走る音で隠れるか逃げているかしていると思いますので、姿は見れないと思いますよ?」


「それでも!何にもいなさ過ぎだろ!」


子供が癇癪でも起こしたような様子で言うけれど、冷静な2人は何時もの事のように相手にした様子はない。


「普通の旅行なら捕食者くらい見れたかもしれないが、今は綺麗に掃除されてるからな。いないのは当然だろう」


「でも!少しくらい残しておいくれても良いだろう!!」


「違約金を払う事になるかもしれないのに、そんな事するわけないでしょう。それに、貴族が行く旅行なんて、こんな感じですよ」


「こんな感じって!お前も一度しか行った事ないだろう!!」


「行った事はないですけど、読んだ本にそう書いてありました」


苛立ちげに言うバルドを前に、コンラットは何処か自信ありげな様子で胸を張る。そして、それに同意するようにネアが止めになりそうな言葉を言った。


「諦めろ」


「あぁっ!」


2人から正論を言われ続けている所に、追い打ちを掛けるような事を言われたせいか、大声を上げて俯いた後、先程よりも気落ちした様子を見せていた。


「そもそも、治安維持のためにも定期的に駆除してるのは、お前の方が知っているだろう」


「知ってるけれど!」


呆れを含んだように言うネアの言葉に直ぐさま反論するけど、本人も分かっているからなのか、そこまで強くはなかった。


「でも、それなら王都との近くに森がない方が安全なんじゃない?」


「それは、一概には言えないけどな」


ラクスに向かう途中にあった森を思い出しながら何気なく呟けば、ネアから否定の言葉が帰って来た。


「近くに森があれば当然危険だが、それと同時に物資の調達も楽だからな」


「森も資源の1つですからね。無闇に排除しても不利益にしかならないのは、帝国の歴史や現状を見れば分かります」


「まだ鉱石は取れているようだが、それも取れなくなれば問題だな」


「そうですね。資源の枯渇は戦争の理由になりますからね」


何気ない一言から、何だか難しい話しになりだした。そんな2人を止めたのは、嫌気がさしたような顔をしたハルドだった。


「なぁ?話するなら、そんなつまんない話しじゃなくて、別な話しにしないか?」


「そうだな。旅行に来てまで話す話題じゃなかったな」


「とは言っても、何の話しをしますか?」


「えっ?うーん?そうだな?」


自分から言い出した事だったけれど、バルド自身、何を話すかまでは考えていなかったようだった。


「あっ!そうだ!聞いてなかったけど、今から会いに行くリュカの叔母さんってどんな人なんだ?」


思い出したような様子で聞いて来たけれど、その瞳からは何処か好奇心が伝わってきた。


「うーん…?僕も会った事ないから分からないんだけど、父様は苦手みたいな雰囲気だったよ?」


「あの人に、苦手な人なんているのか?」


父様が話していた時の事を思い出しながら答えれば、まるで想像出来ないとでも言うような顔で首を傾げられたけど、僕もそれ以上は知らないから何とも言えない。


「そんなの会えば分かるだろ」


「まぁ、それもそうだな。それなら、向こうに付いたら何して遊ぶ!?」


ネアの言葉に納得したバルドは、早速、向こうに付いたら何をして遊ぶかと聞いて来た。その一言で僕は、父様に言われていた事を思い出した。


「あぁ、そういえば、父様が馬車でも遊べそうな物を準備したって言ってたよ」


「本当か!?じゃあ、街に着くまでそれやろうぜ!どれにする!?」


座席の下の荷物置き場の場所を開けると、中にあった遊び道具を広げて聞いて来たので、気になった物から順番に遊び、途中、馬車を止めて休憩を取りながら1日街道を進んで行くと、日が少し陰って来た頃、ようやく街の姿が見えて来た。


見慣れない街の中を進みながら、どの宿に泊まるのか予想しながら窓の外を見ていたけれど、馬車は一向に止まる様子はない。すると、馬車は段々と立派な建物だけが立つ一角へと入って行き、真っ直ぐ伸びた道へと出た。


その先には、他の宿よりも一回り大きく、5階建ての建物が堂々とした様相を誇って立っていた。外観に過度な装飾はされていないけれど、遠くから見るても高級感が漂っており、見るからに高そうな宿だった。


「なぁ?今日はあそこに止まるんじゃないか?」


「何か…凄く高そうだよ…」


「ん?去年行ったラクスでもこんなもんだったし、あれが普通じゃないのか?」


一緒に窓の外を覗いていたバルドが、こちらを振り向きながら言うけれど、バルドの中では去年行った場所が基準になっているのか、さも当然のような顔をしていた。


それは、コンラットも同じなようで、何処か物怖じしているような雰囲気はあっても、宿の豪華さには疑問を持っていないような様子で、反対側の窓から宿の方を見ていた。ネアは、宿の様子すら見ようとせず、席に座ったままだ。だから、何時も通り過ぎてどっちか分からない。


馬車は僕達の予想通り、一番高そうな宿の前で止まり、その宿の前には、既に黒いスーツをきっちりと着こなした支配人ぽいや、同じ制服で統一された従業員らしき人が数人勢揃いして、僕達が到着するのを待っていたようだった。


その人達は、僕達が降り始めると、支配人ぽい人が後ろに人を引き連れながら僕達の前まで来ると、少し離れた位置で立ち止まって、皆一斉に頭を下げた。


「この度は、私共の宿を選んで頂きありがとうございます。僭越では御座いますが、皆様の歓待の準備は出来ております。どうぞ、こちらへ」


「あぁ、世話になる」


父様へと恭しく礼を取りながらも、何処か舞台俳優のような演技掛かったようにも見える。だけど、父様はそれを歯牙にも掛けた様子もなく、儀礼的な言葉だけを掛けて一瞥しただけだった。


「今日は疲れただろうし、明日に備えて宿で休もうか。ドミニク、後は頼む」


僕達を見渡しながらみんなに声を掛け、荷物の件をドミニクへと頼むと、母様をエスコートしながら父様は宿へと歩き出した。それを見た僕達も、休むために中へと入る事にした。

お読み下さりありがとうございます

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