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頭が痛い (レクス視点)

「以上が報告内容だが、何か異論はあるか?」


「これを渡されて異論を唱える者がいるなら、それはもう文字も分からない馬鹿だけじゃないか」


何時もの如く、きっちりとして隙きがない経過報告書と、今後の見通しが書かれた抜け目のない計画表を渡されれば、それに反論する方が難しい。


当初、アルがこの話しを持って来た際は、まだベルが不在中だったため、城の中では反対意見などが多く慌ただしかった。そのせいで多くの者が振り回され、何度もどうなる事かと思ったが、ようやく事態も落ち着きそうだ。


「アル。今度こんな部隊を編成なんて話しをする時は、ベルがいる時にしてくれよ」


「私も、もう脳筋共の相手はしたくないが、保証は出来ん」


堂々と、私の要望を拒否してきたが、発案理由を考えれば、今後もまた起こり得そうだ。


だが、流石のコイツも多忙だったのか、若干の疲労を滲ませていたため、今は何も言わないでおく事にした。まぁ、多忙になった一番の理由が、身内に悟らせないようにしていたせいだというのがコイツらしい。そう思いながら、再度、報告書へと視線を落とす。


召喚獣は元々強い個体が多いが、その分なかなか変えも効かず、部隊配置などの調整にも苦慮する事があったため、前々から従魔を起用する案は出でいた。それに、他国と同様に従魔の部隊を編成すれば、戦術の幅も広がり、防衛力も上がるのだろうと予測も付いていた。 


しかし、軍内部が貴族主体な人材で構成されているため、従魔に対する偏見は強く。そのため、従魔の使用はあっても補給部隊などの雑用任務ばかりに留まっていた。


「軍内部の不満は、帰って来たベルが沈静化して大人しくなったようだけど、君の方は終わったのかい?」


王都にいる者は、アルがどういう人間か知っているため、アルが主体となって行っている事に、表立って強くは反発しなかった。だが、その様子をした地方の貴族が、王都の者は軟弱だと言い放ち、我らこそ、本当の貴族の誇りを持っていると豪語しながら好き勝手に反発していた。だから、アルにはそれらの貴族共の対応を任せていた。


「あぁ、既に話しを終わらせた」


「随分、速く終わったね」


「私がわざわざ足を運んでやったんだ。異論など言わせない」


「それは、何とも災難だっただろうねぇ〜」


王都から離れられないと思っていた相手が、何の前触れもなく目の前に現れたら、さぞ肝を冷やしただろう。


だが、安全圏で無ければ何も言えない馬鹿共には、良い薬になったことだろう。それに、アルの威圧を正面から受けたのならば、無駄な誇りも折れて馬鹿な行動も減って楽になる。


もし、アルとの仲介を私に頼んで来るのならば、そいつらに恩も売れるため、私には一切不利になるような事はない。


「しかし、こうも見事に面倒事を解決してくれるなら、このまま君が起こした面倒事も片付けて貰いたいねぇ」


「そんなものはない」


「いや!あるだろう!?お前のせいで、未だに妹が帝国の追手に追われてるんだが!?」


余りにもな白々しい態度で嘘を付く姿に、私も我を忘れて叫ぶが、全く意に返した様子もなく、ふてぶてしい態度のままだ。


奴の態度に怒りが沸き起こるが、此処で相手のペースに飲まれる訳にはいかないと、何とか冷静さを取り戻すため、深呼吸をし、再度、目の前の男に問い掛ける。


「それともう一つ、お前に聞きたい事がある。妹から届いた手紙によると、頻繁に潜伏場所を変えているのにも関わらず、的確に居場所を突き止めて追って来るらしいんだが、それについても何か知っているだろう?」


「ああ、それも私だ。帝国に潜入している密偵を通じて、私が潜伏場所の情報を帝国に流している」


「やはり、お前か!?」


あっさりと自白した奴へと私が抗議すれば、奴は涼しい顔で平然と言った。


「随分と平和ボケをして、思考と感が鈍っているようだったのでな。少しでも感が戻るようにという、私なりの親切心だ」


「お前の辞書にそんな言葉はないだろうが!!そもそも、燃やさずとも、君が好んで使っている魔法があるだろうが!」


コイツが帝国で作物を焼却してしまったため、炎を得意としている妹に容疑が掛かる羽目になった。


「以前、詳細を報告した際も、その点に関しては言及して来なかっただろ。それに、そんな事をすれば、城を空けていた私がやったと、直ぐに私だと勘付かれるだろうが」


「ぐッ」


アルの言葉に、依頼を受けていたというギルドからの証言があれば、直ぐに疑いは晴れると日和見していた当時の自分を呪いたくなった。


「ならば、君の得意な風で薙ぎ払うなどすれば良かっただろう!」


「ベルンハルトに容疑が掛かっても良いならば、今からでもやり直して来るが?」


私が此処で頷けば、直ぐにでも実行しそうな雰囲気で話す諸悪の根源に、私は頭痛を堪えるように右手でこめかみを抑える。


それでも何とか冷静さを取り戻そうと、軽くため息を付きながら、私は顔を上げて奴と向き直る。


「カレンが何を言ったのかまでは知らないが、そろそろ反省しているだろうから、許してやってくれないか?」


「………」


私からの提案に、アルは押し黙ったままだ。


確かに、コイツがした事に寄って、我が国で輸入していた品の品質は上がり、安価になった。そして、その反面、ルークスで主食にしていたサトイモのその供給が不安定になり、逆に高値した。


嫌がらせ一つで、此処まで自国に利益をもたらしてくれるのは有り難いが、流石に限度と言うものがある。あまりに利益を出し過ぎれば、周りからの不況を買うのは当然だ。それに、疑惑の目を向けられてしまう。


だが、一番問題なのは、私の目の前に実行犯がいる事だ。そのため、犯人探しをする事も出来ず、他国に弁論の余地がない。ただでさえ不味い状況になりつつあると言うのに、今、最も犯人として疑われているのが、王族の血を引いている者である私の妹である事に頭が痛くなる。


最近では、国内の者にも話しが広がって来ており、そろそろ鎮静がしなければ王家の威信が揺らぎかねない。


「お前が此処で手を引かないのであるなら、新年祭の時にでも、お前の家族の前で口が軽くなるだろうな」


「そんな事をすれば、貴様と言えども容赦しないぞ…」


「それは、アルしだいだよ」


「「………」」


お互いが引かず、殺伐とした空気が流れる中、先にそれを終わらせたのはアルだった。


「分かった。手を引こう」


だいぶ怒りも収まったって来ていたのか、渋る様子は見せても、思ったよりも簡単に手を引いてくれた。


「はぁ…考え足らずは、1人で十分だ…」


「ふっ、お前の息子と良い勝負だな」


「……」


私が安堵のため息を溢していれば、それを鼻で笑うように言う奴に、私は無言で苦々しい視線を送る。レオンも妹と同様に、思い付きで行動する事が多々あり、何度も頭が痛い思いをした。


学院時代などは、奴の息子と同じ授業を受けるんだと言い放ち、全部の科目に申請書を出した日の事は、未だに昨日の事のように思い出せる。せめて、1つでも単位が取れればまだマシだったのだが、全て駄目だったと聞いた時は、どんな国難よりも頭が痛かった。


何とか奴の息子の助力もあり、何とか留年は逃れたが、王族だったためか、私が箝口令出したわけでもないのに、その件は皆一様に口を噤んで話す事はあまりない。


「しかし、ギルドからの報告でも疑いが晴れないようなら、いったいどうするべきか」


「それは、私がギルドマスターに何も言うなと口止めをしておいたからだな」


「何してんだ!?お前は!?」


先ずは優先度の高いものから解決しようと思い、言葉を発すれば、奴は平然と人の妹を犯人に仕立てようとしていた。そんな奴に、私は怒りの声を上げるが、それと同時に、この男をそこまで怒らせるような事を言ったのかと、愚妹の口の軽さに頭を抱えたくもなった。


「それにしても、何で今更帝国を刺激するようなやり方をしたんだ。君だったら、もっと上手いやり方で出来ただろう?」


「そろそろエレナに、父の死亡報告をしたくなっただけだ」


「そんな個人的な理由で、勝手に国同士の戦争を起こそうとしないでくれないかな?」


まさか、そんな個人的な理由だったとは思わなかった。さすがの私も、想像すらしていない答えに、驚き過ぎて妙に冷静な声が出る。


あの島の付近は、波も穏やかで大型の船も停泊しやすい海域をしているうえ、適度に島の広さもある。そのため、帝国が我が国を攻める際の中継地点として、最初に狙われる可能性が高い場所だ。


「帝国がアレを殺せば、大義名分もこちらにある」


「まあ、前宰相を務めた公爵家の人間が、無人島でサバイバル生活しているなんて、誰も思わないだろうからねぇ…」


それが分かっているから、この男もあの島にしたのだろうが、わざわざこちらから帝国を煽ってまで、今殺させる理由はない。


「貴族として、国の約に立って死ねるのならば、奴としても本望だろう。それに、それならエレナに報告もしやすい」


「あのねぇ…そんな事をするよりも、今も定期的に贈っている僅かな食料を経てば、勝手に飢え死にするだろう」


「今は私ではなく、魔法省が勝手にやっている事だ…」


私からの問い掛けに、まるでその言葉すら口にしたくないように顔を歪めていた。


「なら、君から止めるように言えば良いだろう?」


「これまでも、何度か書面では要請はしている。だが、書面ではなく、口頭でのみ対応するという返答しか返って来ない」


「だったら、君が行けば良いだろう?」


「貴様…あんな変人、奇人しかいない巣窟みたいな場所へ…私に行けと言うのか…?」


私でさえあまり見ないような、心底嫌そうな顔を浮かべながら言うアルを前に、私はそっと視線を逸らす。どういった連中なのかを知っているからこそ、私としてもあまり強くは言えない。


「君の気持ちは…分からなくはないけどねぇ…。それなら、君の所の私兵でも使って殺すなりすれば良いだろう?」


変わりの打開策を提案すれば、人を小馬鹿にしたような顔をした。


「使う気があるなら、とっくに使っている。私は、家族にはなるべく嘘を付かないと決めている」


「それこそ今更だろう?君の秘密主義は、今も昔も変わっていないじゃないか?」


昔から言葉が足りず、人に何も言わないまま1人で行動してしまう事が多かった。


「秘密主義で、何を考えているのかたまに分からない君は、まるで裏社を仕切っているボスみたいだよ」


「……」


「そこで黙らないでくれないかな?君、本当に裏社会を仕切ってないよな?」


「王都周辺の一部だけだ」


一抹の不安が過ぎり、まさかと思って訊ねてみれば、まるで当然のような顔をしていた。しかし、アルの言葉に、妙にあの周辺だけが治安が良い事に納得している自分もいた。


「傘下に治めておけば、裏の情報を得やすいからな」


「君…悪行も程々にしてくれよ…?ん…?そういえば、あの店は範囲から少し外れているはずだが?」


「少し前までは違ったが、今はそこを支配していた奴とも話しを付けた」


報告では子供らで行ったようだが、過保護のコイツがそのまま放っておくわけがないと思って尋ねれば、当たり前の事のように言った。そのうち、裏社会全てを牛耳りそうだが、そうならならない事を祈るしかない。


本当に、コイツ等の相手をするのは、毎度頭が痛い…。

お読み下さりありがとうございます

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