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誰だろう?

「俺、今回は赤点は1つもなかったぞ!」


あれから一週間くらいが経った頃、ようやくこの前のテストの結果が返って来た。それを何時ものようにみんなで見せ合っていると、バルドが何処か誇らしげな顔で言っていた。


「赤点はないですが…赤点と大して違わないと思うのですが…?」


「歴史以外、ギリギリだな…」


「良いんだよ!ギリギリでも何でも、赤点じゃなければ!!」


2人からの何とも言えない視線から隠すように、テストの結果を遠ざけると、矛先を変えるように僕の方へと視線を向けた。


「リュカはどうだったんだよ!?」


「僕は、父様のおかげで今回は何時もより点が高かったよ!」


うろ覚えで減点された場所が多々あったりもしたけれど、僕にしてはいい成績だったため、少し胸を張りながら言うと、バルドはそれに賛同するように頷きながら言った。


「そうだよな!印が付いてた所ほとんど出てたもんな!赤点じゃなかったのもそれのおかげだな!」


「うん!さすが父様!」


僕達が結果に満足しながら話していると、それに水を差すような会話が聞こえてきた。


「それで…この点数なんですか…?」


「本人達が満足しているから、良いんじゃないか?」


「そういうコンラットは、ネアに勝てたのかよ!」


「そ…それは…」


少しムッとした様子で言い返せば、コンラッドは言葉を詰まらせながら、そっと視線を逸らした。


「何だよ!コンラットだって見てたのに、見てないネアに負けてるじゃんか!?」


「それでも、貴方の成績よりはずっと良いです!!」


売り言葉に買い言葉で、何時ものような2人の喧嘩が始まったため、僕はネアへと視線を向ける。


「ネアは、どうしてそんなに成績が良いの?」


前から思ってはいたけれど、不真面目で此処まで成績が良いのは、不満を通り越して不思議だ。


「まぁ、大人が子供のテストを受けるようなものだからな。負ける方がおかしいだろ。それより、あの件はどうなった?」


「あの件?」


僕の問をさらっと交わしながら言われた言葉に首を傾げていると、そんな僕の様子を見ながら、少し真剣な様子の顔を浮かべた。


「あの従魔屋の件だ」


「あぁ」


ネアに言われてようやく思い立った僕は、軽く相槌を打ちながら頷く。


あの日からオスカーも忙しいのか、お店に行ってみた際に、話す隙がない程忙しそうにしていた。だから、僕達も邪魔にならないように、お店にはあれから行っていなかったけど、ネアは家が近くだからか、顔を出していると言っていた。


「ネアの方が知ってるんじゃないの?」


「機密保持で教えて貰えなかった。だから、リュカなら情報を知っているかと思ってな」


「う〜ん、父様は特に何も言ってなかったよ」


「猫はどうなったか知ってるか?」


「いや…そこまでは…分かんない…」


「俺は、猫だけなら引き取りたいんだがな…彼奴が首を縦に振れば良いものを…」


誰の事を言っているのかは分からないけれど、後半から酷く苦々しそうな顔で言っていたため、敢えて触れない事にした。


「そういえば、父様が部隊でも作ろうかっては言ってたような?」


話題を変えようと、僕がふっと思い出した事を呟けば、薄暗い表情から幾分戻って来たような表情で顔を上げた。


「そうか、おい、お前は何か聞いてないのか?」


「えっ!?何が?」


未だに言い争っていたバルドに声を掛けると、何を聞かれたのか分かっていないような顔で振り返った。


「お前は、父親から何か軍に付いて聞いてないのか?」


「親父?前にも言ったけど、親父は仕事の事は屋敷では話さないぞ。それに、まだ帰って来てないし、何時帰って来るか分からないぞ?」


「まだ、帰って来る気配がないんですか?遠征でもないのに、珍しいですね?」


バルドの言葉を受けて、コンラットも少し不思議そうな顔を浮かべながら、僕達の会話に混ざって来た。


「あぁ、何でも追加で任務が入ったとかで、もう少し時間が掛かるっていう手紙が兄さんの所に来たって言ってた。だけど…そのせいで母さんの機嫌が悪いんだよ…だから、このテスト見せたら、何時にも増して怒られそう…」


「それは…大変そうだね…」


少しげんなりした様子で下を向くバルドに、僕は母様が機嫌が悪かった時の事を思い出しながら、同情的な視線を向けていると、開き直ったような顔を上げた。


「まぁ、叱られる時は兄貴と一緒だから良いんだけどな!」


「恒例行事みたいなものですしね」


「恒例行事って言うなよ!」


コンラットの軽口に少し憤りを見せたバルドだったけど、気を取り直したようにネアへと視線を向けた。


「それにしても、何で急に軍に付いてなんて聞いたんだ?」


問い掛けて来たバルドに、さっきまでの僕達を会話を伝えると、納得したような顔で頷いた。


「あぁ、だから、兄さんも忙しそうにしていたのか。でも、大丈夫じゃないか?何か問題があれば、言ってくるだろうし、心配する必要もないだろ」


「そうだな…」


ネアは少し不満そうな顔をしていたけれど、とりあえず納得したような様子で答えっていた。


あれから、何度か店に足を伸ばしてみたけれど、その度にオスカーさんが不在で中に入る事が出来なかったから、その度にネアは、少しやきもきしていたようだった。


それから少し経って、ベルンハルト様が帰って来たけれど、特に目立った情報が入る事もなく、あっという間にに3ヶ月が経っていた。


そんなある日、僕達に忘れていた話題が入って来た。


「既に知っている奴もいると思うが、来年からは選択科目になるからな。申請期限を忘れても自己責任だから、今のうちに考えて準備をしておけよ」


秋も終わり頃になったくらいに、コンラット達が前に言っていた選択科目の話題を口にした。だけど、何事もない事ようにそれだけ言うと、何時ものように点呼を終えて教室を後にして行った。


「すっかり、その話し忘れてたな」


「忘れないで下さいよ…」


あっけらかんとした顔で言うバルドに、コンラットは呆れた視線を向けていた。


「コンラットは、もう決めたの?」


「候補は絞ったのですが、もう少し考えてみます。リュカは、どうなんですか?」


「どれを選べば良いのか、良く分かんないんだよねぇ…」


「お前らは1科目だけなんだから、俺みたいに適当に好きな奴とかでも選べば良いだろ」


「ネア。こういうのは、ちゃんと将来の事を見越して考えなければ駄目ですよ!」


悩む僕達と違って、ネアは興味や悩んでいる様子もなかった。嗜めるように言ったコンラットの言葉も意に介した様子もなく、平然とした顔のままだった。


「なら、気になるもの全部に、申請だけ出しておけばいいだろ」


「そんなの出来るの?」


「申請だけならな。それに、無理して授業も受ける必要もないぞ」


「何だよ!?それ良いじゃんか!?」


興奮した様子のバルドを落ち着けるように、コンラットが制しながら口を開いた。


「ですが、その年に単位を取れなければ、その次の年は強制的に受ける事になりますよ。それに、2年連続で単位を落とせば、2度とその授業を受けられなくなりますからね」


「なんだよそれ!罠じゃんか!?それに、少し対応が厳し過ぎないか!?」


確かに、もう授業が受けられないようになるのは、少し厳しい対応かもしれない。


「昔はもう少し緩かったそうですけど、全部の科目に申請を送って、全て落とした方がいらしたそうなんですよ。なので、そういった事を防ぐために、少し厳し目にしたそうです」


「誰だよ!そんな馬鹿!」


「私も、兄から噂程度でしか聞いた事がなかったので名前までは分かりませんが、身分が高い人だったって話しです」


「大方、見栄でも張ってたんじゃないのか」


「そんなのいい迷惑だ!」


僕も、バルドと同じように、その1人のせいで僕達が苦労するのは納得が行かない。


「俺達が文句言っても仕方がないけどな」


「そうですね。文句を言った所で、何も始まりませんからね」


「でも、そいつ誰なんだろうな?」


さっきまでの怒りは何処へ行ったのか、バルドは興味津々な顔を浮かべながら浮かべていた。


「兄の話だと、此処数年のような話でした」


「最近なら、兄さんや兄貴なら知ってるかな!?」


「それは分かりませんが、貴方はそれよりも、他に考える事あるでしょう?」


「とりあえず、春になるまで考えれば良いんだろ!帰ったら、兄貴たちに聞いてみよう!」


「絶対、また忘れますよね…」


「お約束だな…」


新しく楽しい事を見つけたような顔で言うバルドを見ながら、2人はため息を付いていた。


「兄様?」


「どうした?」


屋敷に帰った僕は、直ぐに兄様の部屋を訊ねてみた。そうすれば、何時もの同じように仕事の手を止めて、僕の方へと視線を向けた兄様に、コンラットから今日聞いた事を兄様に訊ねてみた。


「誰だか知ってる?」


「……」


僕が問い掛けると、兄様は何とも言えない渋い顔を浮かべながら黙ってしまった。兄様は、しばらく悩むように眉間にシワを寄せた後、視線を逸らし絞り出すような声で言った。


「…馬鹿がいた。ただ…それだけだ…」


誰だか知っていそうな口ぶりだったけど、兄様は、その事に付いてそれ以上何も言わなかった。

お読み下さりありがとうございます

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