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私の転機(フェリコ視点)

アルファポリスで先行投稿中

リュカ様の件は、すぐにでもアルノルド様へご報告するつもりでいた。けれど、あのお方は非常に多忙だ。そのため、無理に時間を割かせるわけにもいかず、夕食後にお伺いの許可を取り、落ち着いて報告しようと、そう考えていた。だが、その思惑より早く、「至急、執務室へ来い」という呼び出しが届いた。


そのことに胸騒ぎを覚えながら足早に向かい、入室の許可をもらって部屋へ入ると、暖炉には大きな火が燃えているのに、執務室の空気は不自然なほど冷え切っていた。


「フェリコ。私に、何か言うことはないか?」


笑みを浮かべているのに、目がまったく笑っていない。底冷えするような視線に射抜かれ、思わず私は視線を逸らし、窓際に置かれている止まり木へと目を向けてしまう。


「私も忙しい身だ。報告が遅れることもあるだろう……。だが、私の気はそう長くないぞ?」


その言葉に、どんなお叱りがまっているのかと思った私は、慌てて昨日の出来事から今日の授業の様子まで、リュカ様の変化を一つも漏らさぬよう、息継ぎも忘れたように報告をした。


私の話を最後まで聞かれたアルノルド様は長い息をつき、指先で机をコツコツと叩く。


「はぁ……。私は、あの子が何も出来なくても構わんのだが……リュカは、そう思ってはおらんのだな。さて、どうしたものか……」


悩むように天井を仰ぐ姿は父親そのもので、普段、仕事の際に見せる姿とはかけ離れていた。


「……気晴らしに、どこかへお連れしてみては如何でしょう」


そう提案すると、アルノルド様は「気晴らしか……」と呟き、顎に手を当てて考え込み始め、「何時なら時間が取れるだろうか…」と呟きだす。その言葉に、私はまさかと思い、恐る恐る尋ねた。


「アルノルド様。……まさか、ご自身でお連れしようと?」


「当然だろう」


わざわざ何を聞く必要があるというように頷かれた。


(……この人は、本気で何を言っているのだろうか)


もうすぐ新年祭が開かれるため、王都には地方貴族が続々と集まってくる。だから、今は一年でもっとも忙しい時期だ。到底、休みなど取れる状況ではない。


「それは……さすがに無理かと……」


「……はぁ。分かっている」


つい先日も、無理を言って休みを取ったばかりだったため、それを言葉にして伝えれば、本人も少しは自覚していたためか、ため息混じりの言葉が返ってくる。


「仕方ない……フェリコ。頼むぞ」


「……かしこまりました」


自身の思惑通りにならないことに不満そうな顔をしながら、こちらに睨むような視線を向けてくる。


(仕方ないと分かっているなら、そんな目で睨まないでいただきたい…)


こちらに落ち度がなくとも、ああいう目を向けられると、何故か罪を犯した気分になり、生きた心地がしない。


「では、私は明日の予定を立てる必要がありますから…これで失礼させていただきます…」


私は退出する理由を述べると、引き止められる前に急いで執務室を後にした。そのせいで、廊下に出た瞬間、ほっと息が漏れる。


(……昔も、こんなことがあったな)


胸を撫で下ろしながら、学院時代の記憶が蘇ってきた。



私は昔から勉強をすることが好きだった。だから、学院の入学テストでも上位の成績で合格し、入学当初はそれなりに自信もあった。だが、私の家は子爵家であり、決して高い爵位ではない。そのせいで、周囲の高位貴族からの嫌がらせが、日に日に増していっていた。


勉強すればするほど妨害は激しくなり、次第に私は勉強への意欲すら失っていくと、当然のように成績も落ちていった。すると、今度はそれをあざ笑うように周囲は私をこき下ろし始めた。


その頃には、入学当時にあった自身など無くなり、何もかもが嫌になっていた。だから、私は反論する気力すら無く、その現状に甘んじていた。


そんなある日。惰性で一日をやり過ごしていた私に、背後から声を掛ける者がいた。


「おい。貴様は、何故何もしない?」


振り返った瞬間、息が詰まる。本人と直接会ったことはなくても、その姿を見れば誰なのかひと目で分かった。


アルノルド・レグリウス。私より六学年上であり、かつて“白銀の悪魔”と周囲から恐れられた人物。


私の入学前に、少し穏やかになったとは聞いてはいても、それでも近寄りがたい存在であることに変わなく、そんな人物が、爵位も低い私に直接声をかける理由などあるはずがない。だから、最初は他の誰かに声を掛けているのだと思い、周囲を見渡した。すると、呆れたような声が降ってきた。


「はぁ……。お前以外、ここに誰がいる。優秀だと聞いて来たのだが、どうやら間違いだったようだな」


「え? 優秀?」


思わず聞き返すと、何がいけなかったのか、アルノルド様は不快げに眉をひそめた。その目に見られ私は、背筋が凍るほどの恐怖が走り、自然と身体が震える。そんな時、その場に似つかわしくない声が聞こえた。


「アル、それじゃ分からないよ?」


「……」


「ごめんね~。アルは、普段から口も態度も悪いけど、根は真面目だから噛みついたりしないから大丈夫だよ~」


「おい…お前…俺は犬か何かか…?」


いつの間にかレクス殿下が背後に立っており、アルノルド様の視線がそちらへ逸れたのは良かったが、それと同時に、殿下の一言でアルノルド様の機嫌が急激に悪化し、執拗なほどの冷気を感じる。


(……一刻も早く逃げ出したい)


「相手が怖がってたら話もできないだろ〜?そんな噛みつきそうな顔をしてないで、普段から笑う努力をしなよ〜?」


「……くだらない」


「そんな事言ってると、あの子からまた避けられるかもよ〜?」


「……ちっ、努力は……する……」


「その時だけは素直だよね~」


私は心臓を痛めながら成り行きを見守るしかないが、殿下の軽口に、アルノルド様の機嫌は分かりやすいくらい上下する。


「あ、あの……」


お二人が話しているのを邪魔するのは不敬にあたると分かっている。だが、一刻も速くこの場から去りたくて、思わず声を上げれば、途端に視線が私へと向く。


「あ~ごめんね~? 最近のアル、からかうと楽しくてさ~」


(殿下、どうかここでそれを続けるのはお止めください。絶対零度の冷気が漏れています……)


お二人に声を掛けて頂いたにも関わらず、何も言わずに去るような真似をするわけにもいかない。そのため、仕方なしに声を掛けたら、さらに状況が悪化し、震えが増しただけだった。しかし、そんな私の思いを察して下さったのか、ようやく私に声を掛けてきた本題を口にして下さった。


「えっとね~?今、彼と将来有望そうな人に声をかけて回ってるんだけど、僕らと学年が近い人間は、アルが近づくだけで怖がって逃げるんだよね~。だから、学年と身分が低くて、まだ気配とかにも敏感じゃない相手から声を掛ける事にしたんだよ〜」


良い笑顔を浮かべながら、とんでもないことを言ってきた。


確かに、入学したばかりの者は戦闘訓練も魔物の気配を察する訓練も受けていない。さらに学院では「階級は不問」という建前こそあるものの、それを本気で信じている者はほとんどいないため、私のように爵位の低い者は上位の者から声をかけられれば、勝手にその場を離れることなどできない。だからこそ、今の私のようにただ立ち尽くすしかないのだが、そんな私の引きつった表情をどう受け取ったのか、相手は楽しげな笑みを浮かべて言った。


「それで、本題なんだけど、君、周りからの妨害で学院生活が上手くいってないよね〜?こちらが出す条件を飲んでくれるなら、それを私達がどうにかしてあげようと思ってね〜。君にとって悪い話じゃないでしょ〜?」


……確かに、悪い話ではない。しかし、こちらの事情を正確に把握している事に、それは”どこまで…”と思ってしまう。


「私は……何をすればいいんですか?」


「ん?普通に学院生活を過ごしてて良いよ〜。他所に持っていかれないように、先に恩を売っておきたいだけだからね〜。でも……恩を裏切ったらどうなるか、分かるな?」


「は、はい……」


最後に本性が出たように口調が変わっていたが、それを感じさせない殿下の浮かべる笑顔は、下手な脅しよりも恐ろしかった……。


「なら、さっさと連中を血祭りに上げて終わらせるぞ」


「え~、それは不味いよ〜?もっとバレにくい脅しとかにしなよ~」


「……面倒だ」


「でも、すぐ見せしめにするのは良くないよ〜?」


「見せしめのほうが速く簡単だろう」


「そんなことばかりしていると、あの子に怖がられて嫌われるよ~?」


「…………」


私の返事を聞いたお二人が不穏な会話を繰り広げているが、この日、アルノルド様とレクス殿下と出会ったことが、後に私の人生を大きく変える転機となった。

お読み下さりありがとうございます

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