表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/305

呼び出し状

夕飯を食べて寝た次の日になったらもう、みんな昨日の事なんか忘れたように旅行を楽しんでいた。


お兄さんと街に出掛けてみたり、母様達とも一緒に乗れるような、大きい方の船に乗ったりして、残りの2日間をみんなと遊んで過ごしたら、あっという間に時間が過ぎて、王都へ帰る日になっていた。


まだ帰りたくないなと思いながら朝食を食べ終わった頃、宿の人から、荷物を積め込みが終わったと言う知らせを受けた。僕達が、馬車が止めてある宿の前まで行くと、見覚えのある2人組が、馬の手綱を握りながらそこに立っていた。


「こんな所でどうしたんですか?」


「僕達の見送りに来てくれたの?」


「それなら、馬は必要ねぇだろ?」


「なら、これからどっか行くのか?」


「此処で待っている意味ないだろう」


2人へと駆け寄ってた僕達が、次々に話し掛けるけれど、何処か元気がない様子で力なく首を横に振ると、静かに口を開いた。


「王都から呼び出し状が届いたんだ…それもご丁寧に…貸馬付きでな…」


「上からは…少しでも挽回出来るように、お前等と一緒に行って来いってよ…」


悲壮感に包まれたような顔を浮かべながら俯く2人の向こうに、数人の冒険者らしき人達からが見えたけれど、揃って同じような顔をしていた。


「挽回って、何かしたの?」


「ああ…ちょっとな…」


「もう…どうにもならないような失敗をしたんだよ…」


力なく言う2人の様子を見ると、よっぽど大変な失敗をしたようだった。


「なぁ?冒険者って、失敗するとそんなに大変なのか?」


「違約金とかが高けぇっては、聞いた事はあるな?」


「冒険者も大変なんですね」


「違約金だけで済むんだったら…何の苦労はなかったんだけどな…」


「何かよく分かんねぇけど、とりあえず元気出せって!」


「そうだぞ!元気が出るように、俺が安くて美味い屋台でも紹介してやろうか!?」


「何で貴族であるお前が、そんなもん知ってんだよ…」


「一緒に学院行ったりする奴から、色々教えて貰ってる!」


「……本当にお前…貴族か?」


励ますように言ったバルドの言葉に、ネアが呆れながら突込みを入れているけれども、ハリソンさん達の顔は晴れる様子はなく、諦め切ったような顔のままだった。


「そうだな…王都に着いたら、最後に美味いものでも食うかな…」


「あの日死ななかったのは、最後に美味いものを食べるためだったんだな…」


「「「……」」」


何処か生気が抜け落ちたような目で、乾いた笑い声を上げる2人の様子に、僕達は掛ける言葉が思い浮かばなかった。


「あの2人…大丈夫かな?」


来た時と同じように別れて馬車に乗っていた僕達だったけど、僕は最後尾を付いてくる2人が心配で、馬車の窓から様子を伺いながらそっと呟いた。


「こればかりは、私達にもどうにもなりませんからね…」


「そもそも、何を失敗したかも分からないからな」


「まあ、だいたいは予想は付くけどな…」


「ネアは、分かるの?」


僕達が視線を向けると、その視線を受けたネアが、おもむろに口を開いた。


「おそらくだが、魔物の擦り付け行為をしたから、それで呼ばれたんだろう」


「それって、わざと魔物を他人に押し付けて逃げるって言うアレか?」


「そんな事をするような方達には、とても見えなかったですよ?それに、何で、それだって分かるんですか?」


「そうだね?」


僕達がわけも分からず、不思議に思って尋ねると、物分りが悪い者を見るような目をしていた。


「やっただろ。俺達に」


「えッ!僕達!?」


「確かに似たような行為ですが、あれはわざとではないですよ!」


「そうだぞ!ちゃんと謝ってもくれたぞ!!?」


「謝って済む問題じゃないからな。一般人相手でさえも、厳罰対象なのに、その相手が貴族なら、国外追放処分でも甘い処分だろうな」


「「「………」」」


ネアの言葉を聞いて、僕達は言葉がなかった。まさか、あの出来事だけで、そんな重い処分が下される事になるなんて思ってなかった僕達は、罪悪感と恐ろしさを感じて、馬車の外へと視線を向けた。


休憩場所に辿り着いてからも、2人の顔は暗い顔のままだった。僕達は、近くの木に手綱を繋いで戻って来た所で声を掛けた。


「ねぇ…?僕達のせいで、王都に呼ばれてるの…?」


「何だ、急に?」


「先程、私達がいる場所に魔物を連れて来た事で、お2人が罰を受けるとお聞きしましたので……」


「まあ…罰則を破った罰はあるが、それに関してはそこまでじゃねぇ…問題は…」


「問題は、なんだよ?」


「………はぁ…色々あんだよ…」


「それなら、何とかならないか、僕から父様に頼んでみようか?」


少しでも力になれないかと思って言った言葉だったのに、何故か2人からは微妙な顔をされた。


「………そもそも……お前の父親から呼ばれてるんだよ……」


「父様から?」


「……おい…喋って良いのか?」


「言っても言わなくても、もう何にも変わんねぇよ……」


デリックさんの問い掛けに、何処か投げやり気味に答えながら、ハリソンが僕達の方を向いた。


「俺等は…お前等を危険に晒したからな…その事に対する、お叱りの呼び出しだ…」


「じゃあ、ギルドから呼ばれたわけではないんですか?」


「今の所、王都のギルドからは、何も来てないな」


「何だよ!どうしようかと思ったけど、ネアが大げさに言っただけで、大した事ないんじゃんか!」


罰も大した事じゃなくて、ただ父様に叱られるだけなら、そこまで心配する必要はなかったと思って安堵していると、未だに横で暗い顔をしているから、僕は2人を安心させるように笑顔を浮かべながら言った。


「大丈夫だよ!僕も、父様から注意された事あるけど、全然怖くなかったから!」


「それは…なぁ…」


「ああ…」


何処か歯切れが悪く、曖昧な返事で言葉を濁す2人を前に、いつの間にか側にやって来ていたカレン様の声が聞こえてきた。


「アルからの呼び出し状を貰って、無事だった人間なんて、今までいないけどね…」


「や、やっぱり…」


「終わったな…」


カレン様の冗談のせいで、2人の顔がますます暗くなったのを見て、僕はそれを否定するように大きな声で言った。


「もう!父様は、優しいから大丈夫だよ!!」


「そうね。とりあえず、この場所では大丈夫だって事にして上げるから、貴方達も元気出しなさい!」


「「………」」


「それは、何処が大丈夫なんだ…?」


黙ってしまった2人に変わって、ネアがカレン様に訪ねたけど、何故か僕と同じくらい不満そうな顔を浮かべていた。


「私だって、帰るのが少し憂鬱なのに、側で暗い空気を出されたら堪らないのよ!」


「憂鬱って、何かあるのか?」


「私も…アルから怒られそうだからよ…」


「何かしたの?」


「したと言うか……少し滑ったのよ……」


「確かに、氷の上は滑ってたよな?」


バルドの言う通り、湖に出来た氷の道を楽しそうに滑ってはいたりはしていたけれど、それが怒られる事と何の関係のか分からない。でも、さっきから、父様を怖い人みたいに言うカレン様には、不満しかない。


「そういう意味じゃないわよ…。まあ、私の場合、エレナが側にいるから大丈夫だとは思うけれどね。貴方達も、その子に頼んで、アルから身を守る御守りにでもなって貰えば?」


カレン様はそう言って僕の方を見た。御守り扱いも、カレン様なりの冗談なんだろうけれど、それでも、僕の父様が悪く言われるのが嫌だった僕は、2人に視線を向けながら、胸を張って言った。


「じゃあ!僕も一緒に行くよ!それで、父様が無茶な事を言ったら止めて上げる!!」


「ほんとか…?」


「うん!父様が無茶な事を言うとは思わないけど、僕が一緒なら大丈夫なんでしょ?」


「そうね。その場での抑止力にはなるわね」


「なら、僕も付いて行くって、父様にも言っておくね!」


「本当に…頼んで…良いのか…?」


「うん!任せてよ!」


さっきよりも明るくなった表情を浮かべ、まるで藁にも縋るような目で見て来る2人に、力強く返事を返しながら、僕は大きく頷いた。


カレン様の冗談を真に受けた2人の誤解をちゃんと解いて、父様は優しい人だって分かって貰おう!

お読み下さりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ