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番外編 ちょうど良い (アルノルド視点)

オルフェが産まれた時から、何処か私に似ていると感じていた。


人に対して興味を持たず、周りで何が起こっても関心すら見せない。だが、私と違って、小動物などの小さく、可愛らしい物や、書物には興味を見えた。


私はそれならばと思い、庭に小動物を放させ、オルフェ専用の書庫などを作った。しかし、魔力が多すぎるために、庭の小動物に逃げられては寂しそうな顔をして、書庫に籠もる事が多かった。


そんなオルフェの世界が、少しでも広げようと、私は色々な場所に連れ出した。歌劇場や音楽祭。街の施設や喫茶店、パーティーなどにも連れ出したが、寄って来るのは小蠅のような大人ばかりで、返って同年代の子供とはかけ離れさせてしまった。


それでも、奴から良い情報を聞けば、山だろうと海だろうとオルフェを誘ってみては、共に出掛けて行った。その影響で、その時期の睡眠時間は2、3時間しか取れなかったが、私には大した問題ではなかった。


オルフェが召喚の儀を終えた後は、より好奇の目を向けて来る小蠅が多く、それを理由に招待状を送って来る者が後を絶たなかった。


人の息子を珍獣扱いしてくる連中を、手紙事全員握り潰してやろうかとも思ったが、籠りがちになるオルフェから、人と出会う機会を奪ってしまうのは避けたかった。それに、そういった視線は、これから何処に行ったとしても付き纏う。私は迷った末、中身を吟味した物だけをオルフェへと渡した。


招待を受けて、お茶会には参加したようだったが、あまり上手くはいかなかったようだった。私も相談を受けたが、子供との接し方など、オルフェくらいしか経験がなく、私自身、そういった経験をして来なかった。


相談を受けても参考になるような事も言えず、かと言って、少しでも私の望みでも言おうものなら、オルフェは私の意志を汲んで、無理をしてでも同年代の者達とも関わろうとするだろう。だが、私は無理強いをしたいのではなく、オルフェ自身の意志で関わって欲しかった。


その後も、何度か茶会には参加していたようだが、やはり上手くは行っていないやうだった。その様子を、カルロを通して様子を見ていれば、オルフェの事を外に連れ出そうとする者が現れた。


オルフェは基本、人を遠ざけようとする所はあるが、意外と押しに弱い所がある。元々、オルフェが少しでも心を許せる存在になれるならば、平民でも構わないと思ってはいたが、その者の親は欲たかりの小物であり、昔から気に入らない者だった。


しかし、オルフェの交友関係に何処まで踏み込んで良いものかと迷い、その者が屋敷で行う愚行にも、両親共に手は出せなかった。私が手を出さない事を良い事に、好き勝手やっていた者は、事もあろうに、オルフェの前で本音を口にした。


その者の言い分には、何とも私の子を小馬鹿にしてくれたものだ……。直ぐ様、私兵共に呼び出し状を持たせ、両親と共に私の前に連行させた。


私の前に連れて来られたその者の親は、何も分かってないような呑気な笑顔を浮かべながらやって来たが、子供の方は思い当たる事があるためか、何処かおどおどとした態度を見せていた。


「いきなりの招待で驚きましたが、こちらとしても閣下とは、一度お会いしたいと思っていましたので、こうしてお会い出来る機会を頂き光栄です」


「そうなのか、まずは座って話でもしようか?」


私に合うなり、嬉しそうな笑顔を浮かべながら話し掛けて来た。その喜びが何処まで続くものかと、私も笑みを浮かべなが席でも進めれば、何の疑いもせずに私の向かい側へと座り、それと入れ替わるように、ドミニクがそっと扉の前に立つ。


「最近は日も短くり、めっきり肌寒くなって…」


「能書きはいい。それよりも、私の子と自分の子が、お互い仲が良いとあちこちで吹聴しているようだな?」


席に座ると下らない前置きを口にするが、そんなものを聞く気もなく、途中で話をで遮った私は、こちらの要件の一つをさっさと切り出した。


「そんな吹聴などと、私はただ、皆に事実を申し上げていただけでして」


「ほぅ?ならば、多額の借金の返済も、私達の名を出して待たせている件はどうなのだ?」


「いいえ、そのような事はしておりません。ただ、私共が破産をすれば、私の息子と会えなくなった閣下のご子息も、さぞや悲しまれる事になるのでしょう?なので、ご子息思いのお優しい閣下なら、そのような事になる前に、我が家に多少の融通はしてくれるのではと申し上げただけです」


「……そうだな。確かに、融通くらいはしてやっただろうな…」


「で、では…!?」


「仲が…良ければな…」


張り付けていた笑みを消し、両親の隣でずっと下を向いたままの者へと、冷めた視線を向ける。


「我が屋敷で、お前が最後に言い残した事を言ってみろ」


「ど、どいう事ですか!?」


此処に来て、ようやく雲行きが怪しい事に気付いたようだったが、もう既に遅い。


「お、お前!何か余計な事でも言ったのか!?」


「だ、だって…何誘っても…反応ないんだもん…」


「あれほど仲良くしていろとお前に言っただろうが!!」


「喧嘩は、後でやってもらえるか?それと、これはそいつが我が家でやらかした事の明細書だ」


どうでもいい親子喧嘩に付き合う暇や、興味もない。扉の前にいたドミニクが、そっと渡した書類の束を渡せば、目を白黒させながらページを捲っていた。


「器物破損に窃盗。子供と言えども重罪だな」


「こ、これは、な、何かの間違いで…」


「盗んだ物を、自分の物かのように自慢していた事も、周囲から既に確認は取れている」


わなわなと震えながら、絞り出すような声で反論するが、それに何の意味もない。


「そ、そんな、わけ…」


「そ、そうですわ!もう一度、お調べに…」


「黙れ」


身をわき得ず、煩く騒ぎ出した連中に殺意を込めて一喝すれば、やっと分をわきまえたように黙り込む。


「お前等は余程、私の忍耐を試して遊ぶのが好きなようだな。ならば、私からも遊びを提供してやろう。何、南の島の無人島で、多少の食料を奪い合う簡単な遊びだ。いや、生き意地汚い連中が、まだしぶとく生き残っているから、無人島ではなかったな」


流刑地のつもりだったあの島は、今や研究員達の実験場にもなっており、今では無能共も大いに役に立っている。


召喚獣の研究が進んでいないのは、召喚獣を持つ大半の者が貴族だけだからだ。そのため、研究や実権に協力する者など殆どいなかった。だが、もう消えて探す者もいない連中ならば、多少無理な実験をしても、簡単に握り潰せる。


向こうの研究員共から、検体をもう少し増やせないかと打診があった所だったため、この連中共を送ってやろう。


「何か分からない事があれば、先住である私の父や無能共に聞くといい」


「アルノルド様。それは、あまりにも早計かと存じ上げます」


威圧で声も出す事も出来ない連中を、ほくそ笑みながら見ていれば、ドミニクが異論を唱えた。この者達を庇うような発見も気に入らないが、何よりも、それに救い得たような顔を浮かべる連中の顔が気に入らない。


「……コレを…庇うのか?」


「いえ、そう言うわけでは御座いません。ただ、いきなり消えたとあっては、オルフェ様も驚かれるのではないでしょうか?それに、エレナ様への報告は如何するお積もりでしょう?何よりも、まず、オルフェ様がどう思っているのか、聞いてからでも遅くはないと思います」


ドミニクの言葉に、私は返す言葉がなかった。


エレナには、父はバカンスに行っていると伝えている以上、コイツ等を送った理由が説明できない。何より、その話を蒸し返して墓穴でも掘れば、目も当てられない。


「………分かった。オルフェを呼んで来てくれ」


私はドミニクの意見を取り入れ、本人の意見も聴く事にした。オルフェを呼びに部屋を出て行くのを見送った後、私は向かいの席へと視線を戻す。


「オルフェが来るまで、もう少し、私と話そうか?」


私がそう言って笑えば、何とも絶望的な顔をしてくれた。


暫くして、部屋へとやって来たオルフェに、コイツ等をどうしたいかと聞けば、状況を察してか、罰は必要ないと言う。影で始末する事も出来たが、オルフェなら気付きそうだったため、辺境から出られないようにするだけに留める事にした。息子が優秀過ぎるのも考えものだ。


だが、我が家で行った愚行の数々の賠償は、利子を込みで、裏の者達に回収して貰うのは良いだろうか?今更、取り立てが1人増えた所で変わらなはずだ。たがら、それくらいは許されるだろう。


愚か者が消えた後も、オルフェの元には変わらず招待状は届いていた。しかし、その一見以来、その招待に応じる事はなく、他者と関わる事も止めてしまった。どうしたものかと、その事に日々、頭を悩ませていると、レクスから呼び出され、1つの提案をされた。


「私の息子も、色々な者に合わせてみたのだが、誰とも気が合わないようなんだ。アルの所も同じなら、試しに2人を合わせてみようかと思うのだが?どうだ?」


「アイツの所には、声を掛けたのか?」


「声を掛けて合わせてはみたんだけど、少し年が離れているせいか、友人と言うよりも兄弟子として認識しているようでね…」


同じに人間に剣術を習っている者通しのなら、兄弟子としての感覚が強くなるのも分かる気がする。レクスの子というのが何とも気掛かりではあるが、背に腹は代えられない。


「オルフェが了承したのなら、此処に連れて来よう」


なるべく、押し付けるような言い回しにならないよう、言葉を選ぼうとすればするほど、何が正解なのか判断が付かない。そんな中、オルフェの意思を確認すれば、私の言葉を変に誤解してしまったようだった。だが、こればかりは、合わせて様子を見てみるしかない。


そう思った日から、気が付けば長い時間が経っていた。奴の息子が余計な事をしてくれた事には、未だに根に持ってはいるが、2人の仲は変わらず続いている。


あまり私の息子を振り回してくれるなとも言いたい事もあるが、籠りがちになる傾向があるオルフェには、あれくらい強引な方がちょうど良いのかもしれない。


「感謝しても良いんだぞ?」


「感謝はしている」


私が、素直に感謝を伝えれば、レクスは口を半開きにしながら、間の抜けたような表情で固まっていた。


「え…?あのアルが…素直にそんな事を言うなんて…お前、熱でもあるんじゃないのか…?ま、まさか…何か良くない事でも企んでいるわけじゃない…よな…?」


「ほぅ…お前が私の事をどのように見ているのかが良く分かった。お前の望み通り、明日の仕事は倍にしてやろう」


「ちょ、ちょっと、待て!」


レクスの言葉を無視し、踵を返して部屋を出ようとした時、私は驚きと焦りで、その場で動きを止めた。


「……ッ!!」


「お、おい…?どうした…?」


「………明日かや、私は少しの間、王都から出掛ける」


奴からの問い掛けに、私はチラリと振り返りながらそれだけを伝える。


「はぁッ!何で急に!?私への嫌がらせの続きか!?」


「いや…今…彼奴等に…私の気配に気付かれた……」


「はぁ!?お前がそんな初歩的なミスをするなんて、いったいどうしたの!?やっぱり、何処か悪いんじゃないか…?」


先程とは違い、最後の方はこちらを心配しているような視線を向けられ、何とも気まずい気持ちで視線を逸す。


「ただ…不足の事態で動揺した影響が残っていただけだ…」


先程、自分自身でも魔力制御が不安定だと気付いていたのに、それでも注意していなかった私の不備だ。


「そうか…?そう言うのであれば、もう何も言わないが、何処まで行くつもりだ?」


「今回のお礼をしに行ってくる」


「へぇ~、あの国に行ってくるんだ。アレをするのを嫌っていているから、君は滅多にやらないのにね~」


「嫌いなわけではない」


服や髪が乱れるうえ、土埃などで汚れるから使いたくないだけだ。それに、海の上を通れば、なおさら潮風で髪がベタ付く事を考えれば、自ら進んでやりたいとは思わないだけだ。


「帝国に行くなら、あまり派手には暴れないでくれよ。ハルデンを通して、あの国の穀物は、我が国でも輸入しているんだからな?」


「分かっている。潰すのは、ルークスに下ろしている作物だけにするつもりだ」


「それなら良いよ。近年、あの国は不作らしいのに、輸入品もなくなったらさぞ困るだろうね~」


意地の悪いニヤついた顔を浮かべながら、実に楽しげな声を上げる。


「我が国と似たような物を使っているというのに、最近も小煩くて仕方がなったんだ。少しでもその矛先が、物資を用意出来ない帝国に向くのは有り難い。それに、帝国側にも、大きな経済的被害が出そうだからね。国内の事で忙しくなれば、少しは大人しくなるだろう」


1人、満足そうに語っていた奴が、私の方へと何処か悪戯めいた視線を向けてくる。


「今度は、気付かれないでくれよ?」


「誰に言っている。それと、これをあの2人に渡しておいてくれ」


冗談を言うような顔を浮かべて言うレクスに、私は懐から2通の封筒を渡す。それだけで、奴は中身が何なのかをだいたい察したようだった。


「ああ、ちゃんと2人には渡しておく。これに必要な書類も、こちらで用意するから、なるべく速く戻って来てくれよ。仕事が待っているんだからさ」


「……私の分は、既に終わっているはずだが?」


「私の分だよ。怒って帰って来るだろうあの2人を、事が冷めるまで王都から追い払うのに協力してあげるんだ。その見返りは、ちゃんと貰わないとね?」


私の事を腹黒く、抜け目がないと言う者がいるが、何の労力も払わず、最後に利益を得え行くコイツの方が質が悪い。


「はっはは!レオンには困ったものだが、アルが文句も言わずに、真面目に働くのなら、お手柄なのかな?」


「……」


楽しそうに笑いながら私をからかうレクスには、苛立ちと殺意がつのる。今すぐにでも仕事を放棄してやりたいが、オルフェが城の別室で仕事をしている手前、まだそれは出来ない。


悔しげに睨み付ける事しか出来ない私を、レクスは更に楽しげに見ていた。言い返したい言葉は多いが、今は何も言わずに黙っておく。ただ、後で覚えていろ…。


「今…何だか嫌な予感がしたんだが…?」


「気のせいだろう」


警戒心を滲ませた表現でこちらを見るが、何事もないかのように、軽くレクスの言葉を受け流す。


「お前と何年一緒にいると思っているんだ!」


「さぁな、私はやる事があるので、先に戻らせてもらう」


「おい!ちょっと待て!!」


レクスが何か叫んでいたようだが、私は気にする事もなく後ろ手に扉を閉めると、奴が追い掛けて来る前にその場から姿を消した。


私達の関係など、これくらいでちょうど良い。

お読み下さりありがとうございます

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