上手くいかない…
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昨日の夕飯はあまり元気が出ず、一人もくもくと食べていた。そんな僕を両親は、心配そうに見ていたけれど、おやつ禁止令を出された事を知っていたからか、それに付いてあまり何も言ってくる事はなかった。
そして、その日の夕食は、珍しく両親達の食事にも、食後のデザートは出てこなかった。
朝ご飯を食べ終わった僕は、足速に今日の授業場所へと向かっていた。今日は自室ではなく、少し離れた部屋で授業をやるため、少し速めに行かなければ授業に遅れてしまう。
「フェリコ先生おはようございます!」
「おはようございますリュカ様」
部屋の扉を開ければ、先に来ていたフェリコ先生が部屋で待っていてくれた。
「今日は、以前やった曲のおさらいをしましょう」
「はい!!」
僕は、普段から授業をサボる事が多かったけど、少しは好きな授業もあった。ピアノもその一つだった。
その日、授業で習ったピアノを両親の前で引けば、何時も笑顔で楽しそうに僕の演奏を聴いてくれていた。
僕は、両親が楽しそうに聴いてくれるのがただ嬉しくて、ピアノの授業があった日は決まって、両親の前で引いていた。でも、今ならば、子供にしては上手いくらいにしか、引けていなかったのが分かる
それでも、ピアノは、僕が上手く出来ると思っている限り無いものだった。
それなのに、ピアノを上手く引こうとすればするほど、上手く引く事が出来ない。そのせいか、だんだんと気持ちが焦ってきて、思うような演奏ができない。
「…………」
僕は、さっきから何も言わないフェリコ先生の顔を、見る事が出来なかった。
前世の記憶を思い出した時には、何かの役にたつとは思っていても、まさか、足を引っ張られるとは思ってもみなかった…。それに、前まで楽しいと思っていた物が、楽しいと感じられなくなってしまった…。今までどうやって引いていたのかも、まったく分からなくなった…。
「……今日は、もうお休みしましょう…」
「え……。午後の…授業は?」
「明日もまた授業があるので、今日は、無理をせずに休みましょう」
「……はい」
フェリコ先生は、優しく言ってくれたけど、僕は最後まで、顔を見る事が出来なかった…。
父様が屋敷に帰って来て、家族4人で夕飯を食べている時も、僕の心は晴れないままだった……。
「……リュカ、食べないのか?チョコは、リュカの好きなお菓子だろ…?」
「……何処か具合でも悪いの……?」
今日の夕食には、お菓子禁止中のはずなのに、食後のデザートが付いていた。それも、僕の大好物のチョコプリンなのに、僕が手を付けないどころか、喜びもしない様子を両親が心配していた。
「うん…食べるよ……」
僕は、プリンを手に取るともそもそと食べる。
「……そうだ!今日はピアノの授業じゃなかったかな?今日は、どんな曲を習ったのかな?」
「そ、そうね!どんな曲を習ったの?」
「……」
両親は、僕が少しでも気がはれるようにと、ピアノの話を降ってきた。何時もだったら、落ち込んでいてもすぐに元気になる事が出来たけど、今は一番聞きたくない言葉だった…。
「…うん。この前習った曲を引いたよ…」
「今日も、リュカの演奏が聴きたいな」
「私も、リュカのピアノが好きだから聞きたいわ」
「…………」
両親は、僕に元気を出して欲しくて、励まそうとしてくれているのは分かる…。でも、今の僕には、何も行ってこない兄様の方がありがたかった…。
「……明日も授業があるので、また今度にします」
「え!?そ、そうだね!また今度にしよう!」
「そ、そうね!また今度聴かせてね」
僕が断ると思っていなかった両親は、慌てていたけれど、周りを気にする余裕がなかった僕は、静かに食堂を後にした。
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