冒険者ギルド
僕達は建物の脇の道を通って、裏路地の方へと来た。だけど、窓から中を覗こうにも、僕の身長では窓の位置が少し高くて、よく見えそうになかった。だから、近くに積んであった空の木箱を踏み台にして、何とか中を見る事が出来た。
外から見た時も大きい建物だとは思っていたけれど、中から見た方がより広く感じた。此処からじゃ上に登る階段はよく見えないけど、半分吹き抜けになっている所からは2階部分が見えた。壁には掲示板みたいなものがあったけど、ほとんど何も貼られていなくて、数枚の紙が雑に貼ってあるだけだった。
僕達がいる反対側には、お酒を置く棚やカウンターがあって、その付近に置かれた椅子には、まだ昼になる前だというのにお酒を飲んでいるような人もいた。
「思ったよりも人がいるな?」
「もっとこう依頼とかに行ってるいイメージだったけど、酒飲んでるって事はそうでもねぇのか?」
「魔物狩りも終わったから、依頼も少ないんだろ」
「ああ、たしかにそうですよね」
僕達の疑問に答えながらも、ネアは一人、興味なさそうに壁により掛かりかかっては、建物に背を向けていた。
「なぁ?この窓開かねぇんだけど?」
手を伸ばして窓を開けようとしているけれど、ガタガタという音がするだけで開く様子はなかった。
「はめ殺しの窓が開くわけないだろ…」
「はめ殺し?何だそれ?技の名前か何かか?」
「はぁ…侵入者対策も兼ねた明かり取り用の窓だよ」
「何で?ガラスなんだから、開かなくても割ったら入れるだろ?」
「魔法で強度も上げてるから、よっぽどじゃなければ割れない」
「へぇー」
高い位置にある窓を見た事あったけど、どうやって開けるんだろうとは思っても、そんな窓があるとは知らなかった。普段は不真面目そうなのに、意外と色々な事を知っていて、こういう時は主席なんだと感じる。
「あっちに行ったら、会話とか聞こえたりしねぇかなぁ?」
僕がそんな事を考えていたら、クリスさんは反対側に見える酒場の方を指差して言った。さっきから時々、何か会話しているような音が窓から漏れ聞こえたりするけれど、人がいる場所が遠いせいか、何を言っているのかまでは分からない。
「ちょっとだけって言っただろ」
「まだちょっとも見てないだろ!!」
「シーッ!!聞こえちゃうよ!!」
ネアの言葉に、大きな声を出して反論するクリスさんを僕は慌てて止めた。僕の言葉で慌てたように口元を抑え、僕らと一緒に恐る恐る建物の中を伺う。だけど、僕達の声は聞こえてなかったようで、こっちを見ているような人はいない。
「ふぅ~、バレてはいなさそうだな」
「大声出すからだろ」
「お前がつまんねぇ事言うからだろ!」
「声が大きいよ!」
また揉めそうになっている2人を、建物から離すようにコンラットと一緒になって引っ張る。建物の中を覗いた時、もちろん優しそうな人もいたけど、型いが良くて強面の人や、顔に傷があって貫禄がある老年の人とかもいて、あんな怖そうな人達に怒られるの事になるのだけは嫌だった。
「だから!ちょっとだけだって!」
「そう!ちょっとだけ!」
少し離れた場所に来ても、バルドも含めてまだ揉めていた。一人で突っ走って行きそうなのに、出掛ける時に言われた団体行動は守るようで、変な所で律儀だなと思う。
「ネア。私の経験上ですが、言い出したら聞きませんよ」
此処にいたくないのか、諭すように言って来たコンラットの言葉に、ネアは嫌そうに顔をしかめる。
「……はぁ。今度こそ、これで終わりだぞ…」
「おぅ!」
「やったな!」
それでも、折れた方が速く終わると思ったようで、喜ぶバルド達を前に少し疲れたような顔をしていた。
僕達は一度表通りまで戻ってから、建物の反対側を目指した。だけど、こっち側には足場に出来そうなのが樽ぐらいしかなくて、しかも中身が入っているのか重たくて持ち上げるのは無理そうだった。
バルド達は身長が高いからいいけど、僕らの身長だと背伸びをして何とか目線だけは届くくらいだから、さっきと違ってあんまり中が見えない。
「誰か来た!」
背伸びをして何とか見ようとしていたら、その声が聞こえて僕は慌てて頭を下げた。そうしたら、その少し後に椅子を引くような音や、男の人達の話し声が聞こえて来た。
「はぁ…」
「やけに疲れてるな?」
「こうも住民から風当たりが強ければ、嫌でも疲れる…」
「そうだな…。何処行っても視線を感じるからな…気が休まる暇がねぇ…」
「それもこれも前任者がへましたせいだ!それなのに、何で未だに俺達が苦労しなきゃなんねぇんだよ!!」
「まあ、落ち着けって。今回の魔物討伐は無事に終わったんだから、今はのんびり休もうぜ」
「それがよ…魔物の動きが何処か変みたい何だよ…」
「何処かって何処だよ?それに、今回はギルド長の主導で行われたから、討伐はきちんと行われているはずだろ?」
「ああ、だからこそ変なんだよ。ギルド長もそこを心配しているらしくて、ずっとピリピリしてるらしいぜ。なにせ、周辺の調査や警備依頼を自腹で出してるくらいだからな」
「それはなんとも太っ腹だな!」
「今は例の御一行様が滞在中だしな」
「まぁ、今度へまをやらかしたら、此処もどうなるか分かんねぇからな」
「他人事みたいに言ってる場合か!!俺達だって無事で入られるか分かんねぇだぞ!」
「分かった!分かってるって!!とりあえず、もう少し休んだら湖の反対側の様子でも見てこようぜ。意外と街から離れているし、観光客がたまに船を停泊させてたりしてるからよ」
店員を呼んでいる声が聞こえる中、窓の下にいた僕達は無言で目配せをして、そっとその場を離れる事にした。
「魔物が変って行ってたね?」
表通りの方へと戻って来てから、僕はさっき聞いた話題を口にした。
「なんか面白そうだよな!」
「うん!」
「面白がるな。それに、俺達には関係ない」
「そうですね。街の近くまで魔物が来るわけないですからね」
面白がっている2人の勢いを削ぐように、冷静な2人がバッサリと切り捨てた。
「それはそれで、何かつまんねぇな…」
「なら、餌にでもなって来い」
「何でだよ!?そこは餌じゃなくて、カッコいい騎士がとかだろ!!」
「はい、はい」
「お前!少しは人の話し聞けよ!!」
まったく人の言葉を聞かないで、足早に歩き出したネア達を追い掛けながら文句を口にするクリスさん達を追い掛けながら、僕達は街の雑踏の中に戻って行った。
お読み下さりありがとうございます




