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森を抜けて

「お前等が騒ぐから、俺も無駄に目を付けられただろう」


休憩を少し速めに切り上げて、目的地を目指す事になった馬車の中で、ネアが不機嫌そうな顔を浮かべながら、睨むような視線をバルドに向けていた。


あの後、戻って来たバルド達に何をしていたのか聞かれた僕達は、子狐のような魔物に出会った事を話した。そうしたら、自分達も見てみたかったと言い始めた。まだ近くにいるかもしれないと言って探しに行きそうな2人をみんなで止めようとしていたら、その騒ぎを聞きつけたようにベルンハルト様達がやって来て、みんな揃ってその事を注意されてしまった。


それに、こっそり魔物に会った後も特に何も言われなかったから、気付かれていないと思っていたのに、しっかりと気付かれていたようで、それに付いても軽くだけど注意された。バルド達が騒がなかったら、もしかしたら注意されなかったかもしれないのに…。


「だって!2人だけで見るとかズルいだろ!!」


僕も少しだけ不満気な視線を向けるけど、バルドは僕の様子に気付く様子もなかった。注意されている時は大人しかったのに、今は、此処が馬車の中でなかったら地団駄でも踏みそうな勢いだ。


こうなるって予想していたのか、それとも何かする前にと思ったのかは分からないけれど、速めに出発する事にしたベルンハルト様の決定は、間違ってなかった気がする。


「別にずるくない。お前等が勝手に離れて行ったんだろうが」


僕があれこれ考えている間、バルドから抗議されていてもネアの態度は変わる様子もなく、座席に寄り掛かったままの姿勢で、冷めたような視線を向けていた。


「それはそうだけど!コンラットだって見たかったよな!?」


「合わないですむなら、私は一生合わなくて良いです。それに、危険な魔物とわざわざ会いたいと思う気持ちが分かりません」


コンラットに同意を求めるように話しを振ったようだけど、コンラットはやっぱり興味なさそうな顔をしていた。僕としてもコンラットの意見に賛成だけど、さっき見たような小さくて可愛い魔物になら、また会ってもいいかもしれない。


「大丈夫だって!魔物なんか、俺が倒して見せるから!!」


魔物すら見た事がないのに、何でそんな自信が出でくるのか分からないけど、バルドは何処か自信満々に胸を張るような様子を浮かべながら言った。


「お前…あんな子狐を殺す気か…」


「それは…可愛そう…」


小さな子狐の姿を思い出し、僕もネアと一緒になって、信じられない者を見るような目をバルドに向ける。


「ち、違うって!俺が狙ってるのは、ドラゴンみたいな強い奴だから!」


慌てて否定の言葉を口にしたけれど、僕としては聴き逃がせない単語があった。


「……兄様のは…駄目だよ」


何処にいるかまでは聞いた事なかったけれど、兄様の召喚獣が王都の外で生活している事は知っている。それなら、この森にいったっておかしくない。僕は見た事があるから知ってるけれど、みんなは見た事がないから分からないだろうし、それに、バルドならこちらが止めるのも気付かずに突撃して行ってもおかしくもない気かする。


「だから!そんな事しないって!!」


僕が少し疑わし気な視線を向けていると、さっき、よりも慌てたような、それでいて少し怒ったようなバルドの声が、馬車の中に響きわたった。


森が段々と開けていき、ラスクの街の気配が近付いて来ると、バルドは落ち着きなさそうに何度も馬車の先を覗き込むように見ていた。


「おい!見てみろよ!街が見えて来たぞ!!」


何度目か分からないくらい窓の外を見ていたバルドが、森を抜けた先にある街を見つけて興奮したように声を上げた。


「本当ですか!?知識としては知っていましたが、やっぱり実際に見てみると違いますね」


その声につられたように、窓の外に見える街を確認したコンラットも、興奮したような声を上げていた。


「だよな!やっぱり、実物を見るのが一番だよな!コンラット!湖は見えそうか!?」


「此処からだと建物が邪魔で見えませんね。でも、街の中に入ったら見えるかもしれません。何せ、大きな湖だと本にも書いてありました!」


「船とかもあるんだよな!?」


「はい!小さな船ですけどあるって書いてありました!それに、人気の避暑地なので、他にもお店とかも色々と取り揃っているらしいですよ!私はちゃんと本で予習してきました!!」


「さすが!コンラット!」


馬車の窓から身を乗り出すように見ているバルドとは違って、コンラットは座席に座ったままだったけれど、落ち着きなさそうに身を動かしては、覗き込むようにして街を見ていた。


「お前等は見なくていいのか!?」


コンラットと話していたバルドが、身を乗り出したままの姿勢で僕達の方を振り返りながら聞いてきた。


「もう見た」


「僕も、此処からでも見えるから大丈夫」


2人の勢いに押されている間に、座ったままでも街の端の方が見える距離まで、馬車が街の近くまで来ていた。


「お前等!何かテンション低いぞ!!」


僕達の態度が気に入らなかったのか、バルドが抗議するように声を荒げる。


「いや…ただ…街が見えただけだぞ…?」


戸惑いや困惑が混じったような顔を浮かべながら言うネアに、バルドは反論するかのように言った。


「何言ってんだ!街が見えただけで凄いだろ!?」


「えっ…?う、うーん…?」


熱意を込めて言われても、街が見えただけではあんまり凄い感じない。だけど、そんな僕達の返事や態度が不満なようで、少し不機嫌そうな表情に変わる。


「何だよ!もう、コンラットと話すからいい!さっき言ってた店で、何処かオススメとかあるか?」


「え!?そ、そうですね…」


何処か拗ねた様子でコンラットに話し掛けるけど、コンラットの方は少し困ったような表情を浮かべた。でも、街に行くのか楽しみなのか、お店の事を話し始めたら楽しそうな表情に変わっていた。


「もう、見飽きてるからなぁ…」


小さな声でポツリと言ったネアの言葉が、僕にも少し分かるような気がした。さすがに見飽きてはいないけど、ただ街が見えただけでは、2人みたいに大騒ぎするほどの感動は感じなくなっていた。それに、2人が騒いでいるのを見ると、何だか微笑ましいような気もして何だか妙に冷静になってくる。


「なぁ!?あれは、何の店だ!?」


「どれですか?」


街に入れば、2人は気になるお店を見つけては何の店なのか話していた。僕が知っているお店もあるけれど、知らないお店もあった。そんな時は、ネアが何のお店なのかを僕達に教えてくれて、その頃になると、何時も通りのバルドに戻っていた。


僕達が話している間に、馬車は湖が見える宿の近くまでやって来ていた。馬車が停止すると、バルドは自分で扉を開けて外に飛び出して行った。


「なぁ!?ちょっと湖の方に行ってみないか!?」


外に飛び出した興奮のまま、此処からでも見える湖を指差して、バルドは僕達を誘った。


「その前に、部屋の確認が先ですよ。本にそう書いてありました」


「えーー!!そんなの後ででいいじゃんか!?」


「戻る部屋が分からないと、部屋に戻れませんよ」


「うっ……なら、部屋を確認した後だったら…行っていいか…?」


コンラットからの正論に、少し落ち込んだような表情を浮かべながらも、再度、湖に行きたそうに聞いてきた。


「良いと思います!」


「よし!さっさと部屋を見るぞ!!」


コンラットも湖を見に行きたかったのか、バルドの言葉にすぐに了承の返事を返していた。バルドの方は、落ち込んだり、喜んだりと忙しそうだ。


「お前ら…はしゃぎすぎだろ…」


そんな2人に少し呆れたような声を上げるネアの後に、僕も馬車から降りると、何故か街の人達が僕の事を凝視するように見始めて何か言いだした。


「おい…あれって…」


「銀髪だ…」


「バカ!視線を合わせるな!燃やされるぞ!!」


「ああ…関わらないのが一番だ…」


「来るっては聞いていたが…本当に来るとは…」


「何事もなく、速く帰って欲しい…」


目立たないようになのか、遠目でこちらの様子を伺いながら話していた。だけど、コソコソしているからこそ余計に気になって、どうしても目線などがそっちに行ってしまう。


「なぁ?お前、何かやったのか?」


街の住民の言動を様子を不審に思ったバルドが、困惑気味に僕に訪ねてきた。でも、僕は巻き込まれただけで何もやってない。兄様が少し暴れたけれど、それも街から離れた森の中の出来事であって、街の人達は知らないはずだ。


「僕達は何もしてないよ」


「何もしてない反応には、とても見えないんですが…」


怖がるように今も見ている街の住民に視線を向けながら、まるで不信者を見るような目を僕に向けて来る。


「本当に何もしてないよ。街中で盗賊に襲われただけ」


「だけって!大丈夫だったのかよ!?」


僕が事情を説明すると、バルドは驚きながらも僕の事を心配してくれた。


「うん。父様達がみんな倒しちゃったから」


「そうなのか?じゃあ、何でだ?」


「そうですよね。盗賊を逃がしてしまったと言うのなら分かりますが、退治したのなら感謝こそしても、こんな態度にはならないと思うのですが?」


「さぁ?僕にもさっぱり?」


遠目で見ている街の人達を見ると、ただ視線を向けただけなのに、みんな揃って僕から視線をそらした。ひどい…。


「街の連中なんか気にしてもしかたないだろ?俺は先に行くぞ」


「あっ!待てって!」


「私達も行きます!」


「おいてかないで!!」


ネアは、街の人達なんか気にもせず、宿へ入って行った人達を後を追って行ってしまった。僕達は一緒になって、ネア達の後を追い掛けるように駆け出した。

お読み下さりありがとうございます

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