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実習課題

「今年は、何処か行きたいなぁ」


春が終わって雨の季節になった頃の昼休み、降りしきる雨を窓の外に見ながら、バルドが呟くように言った。


「急にどうしたの?」


「ほら、去年の長期休みに何処も行けなかったからさ、今年こそは何処か行きたいと思って…」


去年は補習があったせいで何処にも行けずに、僕がお土産を買って来た事を思い出した。


「コンラットも、どっか行きたいって思うだろ?」


同意を得るように聞くバルドに対して、コンラットはいっさい興味なさそうに言った。


「部屋で好きな本でも読んでゆっくり過ごすので、別に何処にも行けなくても、何も問題はないです」


「そんなの休みの日じゃなくても出来るだろが!!フレディさんとかも何も言ってないのか!?」


じれったそうに抗議の声を上げるも、何時ものごとく軽くあしらわれるように流される。


「今年は学年の実習課題でクラスメイトと一緒に遠出するので、そもそも兄は長期休みに屋敷にはいませんよ」


「それって今年だっだんだっけ?」


「課題って?」


2人は分かっているようだけど、僕には話しが分からなくて疑問の声を上げる。すると、不思議そうな顔をしながら説明してくれた。


「リュカは知らないのか?上のクラスになってくると、魔物討伐とかの実習課題が出るようになるんだよ」


「自衛や計画立案などを学ぶ目的も兼ねてやるみたいですよ。魔物討伐の場合は、冒険者ギルドにまず必要書類を提出してから、王都郊外の町に行って魔物を討伐するんです」


「そもそも、魔物討伐なんて危ないんじゃないの…?」


2人は当たり前のように話すけど、魔物討伐なんか危なそうだし、僕は出来る事ならしたくない。


「完全に安全と言うわけではないですが、冒険者もお目付け役として付いては来ますし、それよりもそこに行くまでのルート選択や食料品の準備、武器が壊れたりなど不足の事態が起きても対応出来るかなども評価の対象なので、そっちの方が大変らしいです。後は、現地での魔物の情報の収集能力とかですかね」


「ただ倒せば良いってわけじゃないんだね」


コンラットの話しを聞いていると、魔物を討伐する以外にもやる事や考える事が多くて、聞いているだけでも何だか大変そうだ。でも、冒険者が一緒に付いて来てくれるなら、そこまでは危なくないのかな?


「情報なんか集めなくても、魔物なんて適当にぶっ叩いても倒せるだろ?」


「ネア…それ…俺よりも脳筋発言だぞ…」


「そうか?」


「なぁ…お前が俺より成績良いの…なんか間違ってないか…?」


全く納得いかなそうな、それでいて呆れているような視線を受けても、ネアは平然とした顔のまま座っていた。


コンラットもバルド以上に納得出来ないような顔をしていたが、少し気を取り直すようかのように強めの口調で言った。


「と、とにかく、そういった事も評価するので、どうしても時間がかかるうえに人数も多いので、春から秋に掛けて時期をずらしながら少しずつやるんです!」


「あれ?長期休みの課題じゃなかったの?」


長期休みに行くって言ってたから、てっきり長期休みの課題なのかと思ってたけれど、何だか違うようだ。


「長期休みはAクラスからEクラスまでが対象で、それ以下のクラスは学期中の授業の合間にやるそうですよ。何でも町の人達は、長期休みとかは家の手伝いなどで忙しいかったりするので、実習に行く暇とかがないんだそうです」


「ああ、貴族連中は基本何時でも暇だろうからな」


「暇って…」


ネアの容赦のない一言に、僕は何とも言えない気持になる。確かに、長期休みと聞けば、避暑や旅行に行く事しか考えていなかったから、暇と言われても返す言葉もないんだけれど…。


「俺は補習があったから、全く暇じゃなかったぞ!」


「それは…理由になっていませんよ…」


ネアに素早く反論したバルドだったけど、その言葉は呆気なくコンラットに切り捨てられてしまった。


「でも、今も誰かこの雨の中行ってるて事なんだね」


休みが開けてそこまで経っていないのに、雨の中遠出しなければならない人達に同情しながら言ったら、ネアが釘を刺すように僕に言った。


「他人事のように言ってるが、お前もやる事になるんだからな」


「うっ…」


今から憂鬱になるような事を、サラッと言わないで欲しい。僕が恨みがましい視線を向けていたら、コンラットが少し上向きなるような事を言った。


「まあ、私達がやるとしても、とりあえずは学院が管理する森からですけどね。それに、雨が降る事はあっても、今くらいの時期ならまだ魔物もそこまで多くも強くもないですから、そこまで大変じゃないはずですよ」


「どうして?」


「前に俺が言っただろ。春先と冬の前くらいに親父達が魔物討伐に行くって、だからその分今の時期は魔物の数とかが減るんだよ」


僕が不思議がっていると、バルトが変わりに説明してくれた。そういえば、前にそんな話しを聞いたような気もするけど、すっかり忘れてた。


「なので、この時期とかは冒険者達の手が空くので、人数が多い下のクラスの生徒達の護衛なども担当して貰えるんです。それに、冒険者側もそれによって安定した収入を得られますしね。長期休みくらいになれば魔物も戻って来ますが、貴族に顔を売りたい冒険者達も多いので、依頼希望者が後を絶たないらしいです。ですが、貴族の担当ともなれば冒険者の素行なども問題になってくるので、今の時期からギルドの方でも時間を掛けて慎重に選ぶそうですよ」


「僕達は大変だけど、冒険者達には利点が大きいんだね」


「そうですね。ギルド側は冒険者達の素行調査なども出来ますし、冒険者は貴族からの指名依頼が来たり、相手の人となりを知ることも出来るので、依頼を受けるかどうかの判断材料とかにもなるそうです。なので、貴族側もあまり横暴な態度を取ることもないそうですよ」


「僕達には、何の利点もないの?」


冒険者側に利点があるのは分かったけれど、ただ大変なだけで僕達には何の利点もない。例え課題だとしても、それではやる気も起きない。


「私達にもちゃんと利点はありますよ。冒険者の方達から、実用的な知識とかも教えて貰えますし、討伐した魔物の討伐報酬もしっかり貰えるので、お小遣い稼ぎにはなるらしいです。ですが、それ目当てに実力以上の魔物を狙う生徒もいるらしく、護衛がいても毎年怪我人が出てしまうみたいですね…」


「……何で、みんなしてそこで俺を見るんだ?」


自然と視線がバルドの方へと向いてしまった僕達に、バルドが怪訝そうな視線を寄越す。


「お前なら、やりそうだと思ってな…」


「やらねぇよ!そんな事したら後で親父に何言われるか!そういう所は煩いんだぞ!!」


ネアの言葉を、バルドは直ぐに全力で否定した。普段は向こう見ずな所があるのに、戦い事になると慎重になるのは、お父さんの影響だったんだな…。


「そういえば、秋は?」


春や夏の話しは出たけど、秋の話しが出ていないと思って、僕は揉める2人を横目に見ながらコンラットに聞いてみた。


「秋は、冬の蓄えを貯めるために参加する人が多いみたいですよ。アドバイスはしても、基本戦うのは生徒達で、冒険者達は見ているだけですからね。だから、武器の破損とかを考えずに収入が得られて良いらしいです」


「ふ~ん。あれ?騎士団が討伐した後も、冒険者達が魔物を狩るんだよね?」


「そうですよ?」


「それなら、課題で狩る魔物いなくなるんじゃないの?」


そんな大勢でずっと狩っていたら、あっという間に魔物なんていなくなっちゃうんじゃないかな?


「それはないですよ。魔物なんて、何処からかいくらでも湧いてきますからね。まあ、魔物なんて本来ならいない方が良いんでしょうが、この国の商業事業でもありますから、そうも言ってられないんですけどね」


「それに、親父達も弱い魔物は狩らずに、あえて残しているらしいからな」


ネアとの話しが終わったのか、バルドが僕達の話しに混ざってきた。


「新人冒険者のためにも、残しているそうですよ」


「よく出来てるんだね」


「そうだよな」


僕達が納得していると、コンラットが白い目を向けてきた。


「何時ものように他人事みたいに言っていますが、この仕組みを作ったのは、学院時代の陛下と、貴方達の父親達ですよ」


「「え?」」


「はぁ…。まあ、最初からそれらしい骨組みはあったみたいですけれど、それをお互いが利益を得られるように調整したり、規則とか決めたみたいです」


少し呆れを滲ませながらも、コンラットは僕達に説明してくれた。


「その頃、自分ではやらずに、金で雇った冒険者達に変わりにやらせる貴族が多くいたようです。それで、効率よく実績を作って報酬を貰おうとした結果、冒険者が馬鹿をやらかしたらしく、そのせいで発生した大量の魔物の群れに襲われて、それから厳格に対応するような仕組みに変えたんだそうです」


「魔物の群れって大丈夫だったの!?」


実際に魔物なんて見た事ないから、どれくらい強いのか分からないけれど、魔物の群れが危険だって事くらいは分かる。


「ええ、普通に大丈夫だったみたいです。何でも、魔物の群れに襲われてどんな攻撃を受けても、2人だけは最後まで無傷だったらしいですよ。それで、その戦い振りを見ていた人達が鬼の名を取って、氷鬼と剣鬼の異名を付けたそうです」


「鬼って…」


「親父すげぇー!」


戸惑う僕と違って、バルドは感嘆の声を上げた。そんなバルドを不思議がるようにネアが聞いた、


「本人からとかから、そういうのは聞いたりしないのか?」


「親父って、自分の武勇伝とか人に語ったりしないんだよな。だから人伝とか、本でしか知らないんだよ」


「そんなものか」


納得しているネアの横で、僕の父様も、昔の事や自分の事を話してくれる事ってあんまりないなと思い返していた。


だけど、バルドの方は何となく分かるけれど、僕の父様が鬼のようになった所を想像出来ない。鬼ぼい父様を想像しようとしてみたけれど、パーティーに参加している父様くらいしか思い浮かばなかった。

お読み下さりありがとうございます

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