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運の尽き (リータス視点)

迷惑は掛けない。そう言っていたはずのものが、蓋を開けてみければ最初から問題だらけだった。


その年のAクラスは前代未聞の41人から始まり、その問題がようやく片付いたかと思えば森が燃えたりと、後始末などに奔走する事が多かった。


学院時代に俺がやらかした事で、こんなふうに学院側に迷惑を掛けていたのかと思うと、少しばかりの謝罪の気持ちがわく。それでも、ようやく約束の10年が経ちこれで此処からおさらば出来るかと思っていた矢先、上司からお呼び出しが掛かった。待っていた配属の変更かと思い訪ねてみれば、俺の予想とは全く違っていた。


「後、10年続けて貰いたい」


「約束が違う!!」


予想とはあまりにも違う言葉に、またもや敬語も忘れて思わず大声を張り上げてしまった。


「今度は下の息子が入学する事になってね。君に面倒を見て欲しいんだよ」


「……面倒を見る必要などないでしょう」


上の息子しか知らないが、問題を起こす事はあっても、解決脳力も一緒に備わっていて、後始末程度の事しか俺はやってはいない。だが、そんな俺の言葉を否定するかのように首を振ると、静かに話し始めた。


「リュカはオルフェと違って普通の子だから、色々と心配何だよ。まあ、そこが可愛くも在るんのだけれどね」


普段の淡々とした話し方ではなく、途中から気色の悪い惚気話しのような口調で話されるが、普通の基準がおかしいこの男から普通と言われても全く信用がない。そもそも、外見が変わってない時点で既に異常だ。


俺が疑わしそうな視線を向けていれば、今まで見せた事がないような愁いを帯びた目をして俺に言った。


「リュカには、召喚獣がいないんだ…」


「はぁ…?」


最初は何の冗談かとも思ったが、この手の冗談を言う人間ではない。ましてや身内の事となれば、例え死んだとしても言わないだろう。だが、召喚獣がいないなんぞ、平民連中ならたまに聞くが貴族でなんぞ聞いた事がない。そもそも、そんな重要な案件を俺なんかに話しても良いのか?


そんな俺の考えが顔に出ていたのか、まるで見透かしたかのような顔で俺に言った。


「実際は、貴族でも珍しい事でもないんだよ。ただ…表には出て来ないだけでね…」


「……チッ」


何処か忌々しそうに言ったその言葉だけで、だいたいの事情を把握するのには十分だった。要は、貴族のお決まりの汚いやり方って奴だ。相変わらず反吐が出そうになる。


「さすがにそれは、私でも隠す事は出来ないですよ」


「隠す必要はない。隠し通せるような事ではないからな。だが、あえて公表もしないつもりだ。君にやって欲しいのは、悪質な噂の隠蔽と遮断だよ」


「要は、耳に入らないようにすれば良いって事ですか?」


「簡単に言えばそうだな」


敵には容赦しない。そんなアルノルド様の本質が垣間見えるような冷淡な顔付きで、淡々と話す様を見ていると、この人を敵に回さなくて本当に良かったと、昔の自分を褒めたくなってくる。


「手段はどうしますか?」


「そこは君に任せるよ。そういう事は、現場の人間の方が分かっているだろうからな。それと、それに関しての後始末や責任は全て私が取るから、そこも気にしなくていい」


悠然とした笑みを浮かべながら言う姿に、人使いが荒いがこういう所は上司としてはありがたいと思う。


陰険な事をする連中を沈めれば良いって事なら、学院時代に覚えがあるからそこは問題はない。だが、影で策略を張り巡らせるような上司を持つと、そういった物事に明るくなるものだなと自嘲的な笑みが溢れた。


どんな奴かと学院で実際に会ってみれば、姿は似ているのに本当に血が繋がっているのかと不思議に思う程に似ていない。


何を考えているのか丸分かりな所や、感情に流されて行動する所。少し優柔不断で、決断力にも掛けていている。それでいて無鉄砲で、考える事を知らない。


アルノルド様からの命令で、監視だけを行うはずだったのだが、見ていて少し呆れてしまった。何をどうしたら、闘う力もないのに森に入ろうなどと思うのか…。俺も似たような事をした身に覚えはあるが、これよりはもう少しマシだったはずだ…。


植に報告などを上げて迎えを待っている間、本来なら俺はこいつ等を叱るべき立場なのだろうが、どの口がそう言えるのだと、過去の自分に言われそうで、とても口には出来なかった。何も言える資格もなかった俺は、親が迎えが来るまで、コイツ等と一緒に黙って待つしかなかった。


その一件の後は、多少行動を控えたようだが、俺の憂鬱さは晴れる事は一項になかった。


学は無くとも、10年も教師として教えていれば、嫌でも教材の内容は覚えてくる。それが暗記科目の歴史となればなら尚更だ。


学院時代は暇でしょうがなかったこの科目。よく居眠りをしては叱られてきたからこそ、俺なりに工夫はしてきたつもりだ。それなのに、幾ら教えても、1歩進んだと思ったら、2歩下がっている時さえある。


俺は…こんなに無能だっただろうか…?あの人の下で仕事をしているからと思って、俺も少し自分に自惚れていたか…?そんな疑問を持つほどの進歩の無さに、俺のこの10年の努力が無駄だったような気さえしてくる。


だが、せめて言い返すくらいはしろ!俺が弱い者イジメしてるガキみたいだろうが!アレ等なら、倍どころか何十倍にしてでもやり返してくるぞ!本当に、あまりにも勝手が違い過ぎて、本当に調子が狂う…。


こんな話しは、とてもじゃないがあの人の前では決して出来はしない。それに、弱気な言葉なんてのも口にしたくもない。


だが、厄介事は待ってはくれない。そのせいで、何度かあの男にも手間を掛けさせられた。奴が起こしたトラブルもそうだが、目撃者が少なかったとはいえ、箝口令による口封じと炭になってた奴の隠蔽の方に手を焼かされた。


まさか、卒業してからもアレがやった事の後始末に追われる事になるとは、思ってもいなかった。せめて、もう少し静かにやって欲しい…。父親と同様にアレも人使いが荒い…。


そして俺は呪われてるのかと思うほどに、クラスには問題児しか集まって来ない。


今年入って来た生徒のせいで、他学科の教師や担任教師、初等部の主任にもさえも呼び出しを受けた。俺が学院に通ってた頃でさえ、そんなに呼び出しを受けた覚えはない。


「アルノルド様。ご歓談中申し訳ありませんが、お時間宜しいでしょう?」


生誕祭で姿を見かけた俺は、無礼を承知のうえで、陛下と話しているアルノルド様に声を掛けた。


「何だ?」


「お願いがあって参りました。今の配属先は、私には余りにも荷が重すぎますので…仕事の配属先を変えて頂きたい…」


俺が苦渋の思いで言った言葉だったが、アルノルド様には全く届かない。


「それは無理だ。皆には既に仕事を任せていて、手が空いている者達が他にいない」


この人の場合、その人間が出来るだろうギリギリを見越して仕事を回している来るため、周りの人間は恒に仕事に追われるはめになる。だから、手が空くなんて事など、一生あるわけないだろう。


「それに、今からその者達に一から教えるよりも、君に継続して任務に当たって貰った方が効率も良い」


言っている事は理解出来るが、こういう時に理屈や正論で返されると、昔から反抗したくなる。


「ならばせめて、担任からは外して下さい」


「何かと対処がしやすい担任から外す事は出来ない。それに、私は出来ると思った仕事しか任せない」


「……」


それの言葉を言われるのは辛い…。信じて任された仕事を投げ出すようで、何とも情けない気持ちになる。それもあって、俺もこれまで口にしようとはしなかった。


「アル。下の者がこうして頼んでいるのだから、少し融通を聞かせたらどうかな?」


陛下の取りなすような言葉を受けて、アルノルド様はしばらく何かを考え込むような姿勢を見せた。だが、その後にあり得ない事を口にした。


「ならば、私と仕事を変わるか?」


「はぁ!?」


急にいったい何を言い出すんだこの人は!?


「私ならば、急な配置変換にも対応出来るうえ、息子の様子も近くで見る事が出来る。悪くない案だと思うのだが?」


「俺がアンタの仕事なんか出来るわけないだろうが!?」


我を忘れて話す俺に、周囲の招待客達が驚愕の視線を投げかけて来るが、原因を作った本人は平然とした顔のままだ。


「別にそう難しくはない。下から上がって来た書類に適当にハンコだけ押して、後処理はレクスにでも任せておけばいい」


「私の仕事がこれ以上増えてたまるか!!」


普段見かける姿とは違って、声を荒げながら話す陛下を見ていると、この方も同じように苦労しているのかと思って、勝手に親近感がわいた。


「はぁ…分かりました。引き続き…任務に当たらせて頂きます…」


陛下を巻き込んで醜態を晒す事は、これ以上この場ではさすがに出来ず、俺は引き下がる事しか出来なかった。だが、俺が断れないように言った言葉だったとしても、あまりにも質が悪過ぎる…。


「そうか?いい案だと思うのだがな?」


「お前…人使いが悪すぎるぞ…」


俺に同情したような視線を向ける陛下の横で、俺の上司は一貫とした態度を崩さずない。


「私は本気だったのだが?」


「なおさら悪いわ!」


この人の下に付いた時が、俺の運の尽きだったんだなぁ…。ああ…だから呪われていると思うほど運が悪いのか…。


その場を立ち去りながら、自分の運のなさの理由に、乾いた笑いと共に1人納得していた。

お読み下さりありがとうございます

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