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「貴方達のせいで、また学院に呼び出されたじゃない!しかもあの担任!泣き落とかさえもいっさい効かなかったわよ!!」


「そんな事言われたって、それ僕達じゃないよ!!」


いきなり出て来て、僕達の方に詰め寄りながら怒鳴る彼女に、僕は慌てて否定の言葉を口にするも、全く耳を貸す様子がない。


「そんなわけないわ!!だって、1番迷惑掛けてるのが貴方達なのよ!!」


「自覚あったの!?」


迷惑だと思われている自覚があった事にも驚いたけれど、そう思ってるなら止めようよ!?


「俺達が言うわけないだろ」


「そうですよ。私達だってあの担任に目を付けられているのに、これ以上余計な理由を増やしたりしませんよ」


僕が心の中で突っ込みをいる間に、そばにいた2人が僕の援護をするように、言葉を繋いだ。


「じゃあ誰なのよ!?」


「他に心当たりないの?」


苛立ちを隠せないように叫ぶ彼女に問いかければ、キリッとした顔を浮かべながら堂々と言った。


「あり過ぎるくらいあるわ!」


「堂々と謂うな…」


「僕達じゃなくて、そっちに行ったら…?」


ネアと一緒に、半分呆れながらもそう提案したら、アリアは少し不機嫌そうな顔を浮かべながら言った。


「最初から全員にカマをかけるつもりだったから、これから潤に行くわよ!」


「なら、もう行けよ…」


「煩いわね!もう行く…!!」


苛立ったように、僕らの背後にいるバルドの方へと視線を向けたと思ったら、勢いよく肩を引っ張られた。


「ねぇ!?隣にいるあの儚げ系の美少年は誰なの!?」


小声なのに怒鳴るように耳元で言われて、思わず顔をしかめてアリアを見る。


正直、言って良い物か分からないけれど、言わないと離してくれなさそうな雰囲気だった。


「バルドの…お兄さん…だけど…」


僕の言葉を聞いた瞬間、素早くバルドを押し退けるようにしてお兄さんの前に立つと、綺麗な姿勢を見せてから軽くお辞儀をした。


「私、同じクラスのアリア・アルテルガです。どうぞよろしくお願い致しますわ!」


「お、おぅ…。よろしく…?」


戸惑った様子を見せるお兄さんに、アリアはたたみ掛けるように言葉を続ける。


「私の事を何か弟さんから聞いたかもしれないですけど、それは誤解ですのよ。私も、少し度が過ぎた所もありますけれど、決して悪気があったわけではございませんの」


「え?いや?バルドから特に何か聞いた覚えないけど?」


疑問符を浮かべながら首を振るお兄さんに、アリアが少し驚いたような顔を浮かべてバルドへと視線を向ける。


「本人がいない所で、チクるみたいな事しねぇよ…」


アリアから視線を向けられて、不貞腐れたような顔を浮かべたけど、お兄さんと視線が合うと目をそらすようにそっぽを向いた。その様子を見ると、まだお兄さんとは微妙に気まずいようだった。


アリアはというと、まじまじとそんな2人の様子を交互に見て、ニッコリと微笑みながらお兄さんの方を振り向いた。


「お兄様ー!」


「お前の兄貴じゃねぇ!」


彼女が突然声を上げてお兄さんに駆寄ろうとした所に、バルドが間に入るようにして止めに入る。


「あら、急に飛び出して来たら危ないわよ?」


「急に駆寄ろうとした奴に言われたくねぇ!」


「バルド。さすがに女子相手にその言い方はないぞ」


「まぁ!何てお優しいんでしょう!」 


アリアの事をよく分かってなさそうなお兄さんが、バルドに苦言を呈する。これには、バルドも直ぐさま反論しようとした。


「だってこいッ!!イッ!ター!!」


言い掛けたバルドの言葉を遮るように、彼女は思いっきりバルドの足を踏みつけた。しかも、バルド本人が影になって、お兄さんからは見えない絶妙な位置。あれは、地味に痛い…。


「どうした!?」


「どうしたのかしら!?」


痛がりながら突然しゃがみ込んだバルドを心配して駆け寄るお兄さんの横で、彼女も一緒になってバルドの事を心配し始めた。


「どうしも何もお前が!……」


怒鳴りながら顔を上げたバルドは、彼女の顔を見た瞬間、顔から表情が消えた。


僕も彼女の方に視線を向ければ、一切の感情が抜け落ちたような真顔で、バルドの事を静かに見下ろしていた。


まるで、何も余計な事を言うなと脅しを掛けているような視線で、僕の背中に冷や汗が流れた。というか……真顔こっわっ!!


お兄さんは、固まったまま動かなくなった僕達の事を、意味が分からなそうに見回していた。だけど、僕らの視線が1点に向いているのに気付いて、静かに後ろを向く。


「どうかしましたか?」


お兄さんが後ろを振り向いた途端、満面の笑みを浮かべながら答える彼女が、普通に怖い…。


「えっ…と……いや……」


「そうですか。なら、良かったです」


にっこりと微笑むアリアに、お兄さんも何も言えなかったのか、苦笑いを浮かべながら固まっていた。


すると突然、彼女が何かを思い出したかのような表情を浮かべて言った。


「そうでしたわ!私、この後行く所がありましたの!突然ですが、此処で失礼させて頂きますわね!」


「お、おぅ…」


急に慌てたような演技を見せられたお兄さんも、少し戸惑うような表情で頷いていた。


「その前に、ちょっと良いかしら?」


「僕…?」


彼女が僕に軽く手招きしたけれど、僕じゃない事を祈りながら聞き返したら、彼女は無言で頷いた。


正直、行きたくなくて、みんなの方を視線を向けてみるけれど、みんなから揃って首を横に振られて、僕はしぶしぶ手招きする彼女の所に行った。


「何…?」


「そんなあからさまに嫌そうな顔をしないで欲しいわね。ただ、一言だけ言いたい事があっただけよ」


不満そうな顔から、小さな笑みを表情を浮かべると、僕の耳元へと顔を近付けた。


「少しは微妙な空気が無くなるといいわね」


「え?」


僕の疑問の声など気にもせず、耳元で小さくそれだけ言うと、彼女は演習場の出口の方へと駆け出して行った。出口の前まで行くと、彼女は軽くこちらを振り向いた。


「ちゃんと借りは返したわよー!あっ!今度は貴方のお兄様を紹介してね~」


最後に笑顔で手を振りながら去って行く彼女を、僕達はただ呆然と見送っていた。


「凄い子…だな…」


お兄さんが、沈黙を破るようにポツリと呟いた。


「分かりますか…?」


「俺、お前達が最初にしてた会話聞いてたんだぞ…。それなのに、急に態度が変わるからさ…」


「ああ…そうでしたね…」


此処に来て直ぐに、本性丸出しで普通に僕達と話してたっけ…。たぶん、僕達の影に隠れていて、見えていなかったんだろうな。


「あれで本当に隠す気あるのか、疑問に感じる時がある…」


普段の彼女の様子を見る限り、対して周りに隠す気がないような気もする。


「うちの母さんより…怖かった…」


「「……」」


真正面から見下ろすように睨まれたバルドは、うつむき加減ですっかり元気を無くしていた。


「あー…。ま、まあ、愚痴聞いてやるから!それに、気晴らしにも付き合うから!な!!元気出せって!!」


「……うん」


バルドの肩を叩きながら励ますお兄さんと、それを素直に受け入れている2人の間には、もう微妙な空気は無くなっているように見えた。


これが彼女の言う借りなのか分からないけれど、とりあえず2人が元の調子が戻って来たのは良かった。


その事については少しは感謝はするけれど、僕の兄様は紹介しないよ。そう心の中で決心している途中で、もうすぐ生誕祭だった事を思い出した…。

お読み下さりありがとうございます

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