魔道具
しばらく何か言いながら眺めた後、目をキラキラさせたたまま、こちらへと視線を向けてきた。
「素材にオリハルコンが使かわれてる魔道具なんて、本当に凄いよ!」
「それって、そんなに凄いの?」
ドミニクからそんな話しを前に聞いたような気がするけど、魔道具に詳しくない僕には、何が凄いのか良く分からない。
「凄いなんて物じゃないよ!!希少金属なのもそうなんだけど、それを魔道具に加工出来る細工師もなかなかいないんだ!!しかも、そういう人って大抵の場合、職人気質の頑固な人が多くて、気に入った人の依頼しか受けたりしないんだよ!!」
「そ、そうなんだ…」
彼の話しを聞いて、何で貴重なのかが少しだけ分かった。
それを使った剣が飾られていたのを、屋敷で見た事があったうえ、バルドの家なんかでは複数飾られているのを見ていた。だから、手に入り難いだけで、素材もそこまで貴重なだとは思っていなかった。だけど、職人がいないと言うのなら、この魔道具が貴重だという事にも納得できる。
それにしても、兄様はそんな職人と何時、何処で知り合ったんだろうか?たまに、殿下と出かけるのを見た事があるが、それ以外の誰かといる所なんて、あまり見かけた事がない。でも、仕事で外に出かける時もあるから、仕事関係で知り合ったんだろうか?
「それも魔道具!?」
「え?」
指輪を見ながら考え事をしていたら、そんな声が聞こえて来た。指輪から視線を戻して彼の方を見ると、彼の視線がネアが左腕に着けている腕輪へと変わっていた。
最初、彼の言葉を聞いた時は、ネアから貰った指輪の事を言っているのかと思ってしまった。
ネアの指輪は、ネックレスに通して首から下げているが、最初は、魔道具の効果の件もあったから箱に入れてしまっておこうと思っていた。でも、普段から持っていないと意味がないとネアから言われて、誰からも見えないよう服の下に隠して着けていた。だから、僕の勘違いだった事に、少なからず安心した。
「魔道具だよね!?」
「あ、ああ…」
「それも見てもいい!?」
「駄目だ」
「少しで良いから!?」
「断る」
袖で腕輪を隠しながら、ネアは断固とした態度で彼の要求を断っていた。それでも、滅気ずに頼み込む彼の姿が、ますます誰かを思い出されて、何だか嫌な気分になった。
「おい、ネアが嫌がってるだろ。お前を此処に連れてきたのは俺だけどよ、少しは考えろよ」
不躾な態度を続ける彼に、連れて来たバルドでさえも不機嫌そうな顔をしていた。
「ご、ごめん…。僕…夢中になると、周りが見えなくなるみたいで…」
バルドの言葉で、自分の落ち度に気が付いたのか、申し訳なさそうな顔をしながら謝罪の言葉を口にした。
「さっきのトラブルも、それが原因だったようなのに、全く懲りていませんね…」
「そうなんだ…」
コンラットも、彼を庇う気はないようで、呆れたような表情をしていた。それにしても、彼がまた何かしたんだと思ったけれど、この子が原因だったんだ…。
「彼が持っていた魔道具を執拗に見ようとして、それで彼を怒らせてしまったようでしたね…」
話しを聞いて、あの彼に執拗に頼み込むなんて、ある意味では勇気があると言えなくもない。だけど、それは別の所で発揮して欲しい。
「そ、そうなんだ…。普段は…あんまり…人と話したりしないんだけど…ね…。好きな事になると…その分…暴走しちゃうみたいで…」
「「「……」」」
いったい、どれほど溜め込んだら、あんなに暴走するんだろうか…。僕達は、何ともコメントのしようがなくて、無言で彼を見つめていた。
キーンコーンカーンコーン。
昼休みの終わりを告げる音が、教室の中へと響いた。彼の話しているうちに、時間がたっていたようだ。
「え…えっと…僕…もう…行くね…。さっきは助けてくれて…本当にありがとう…」
途切れ途切れに話しながら、彼は最後に小さく頭を下げた。その後、自分の席へと戻ると荷物を持って、教室の外へと行ってしまった。
「悪い!俺が連れてきたばっかりに、お前に嫌な思いさせて悪かった!ただ、あの場所には、残してはこれなかったんだ…」
彼が教室から去ったのを確認してから、バルドはネアに向かって頭を下げた。確かに、連れて来られて少し迷惑ではあったけれど、その場に置き去りに出来なかったバルドの気持ちも分かる。
「分かってるから良い…」
「僕も良いよ」
「ありがとう!」
安心したような表情を浮かべるバルドに、僕も同じような笑みを返す。それに、バルドの事は今に始まった事じゃないから、だいぶ慣れて来ていた。
「それにしても、それ魔道具だったんだね?」
彼ほどではないけれど、僕もネアが着けている腕輪へと視線を向ける。初めて会った時から付けていたから見慣れているけれど、ただのおしゃれで付けている物だとばかりに思っていた。
「ああ、大事な物だ」
「大事な物?」
「誰かに貰った物とかですか?」
「そうだ。それに、学院に通うためにも必要な物だな」
「どういう事?」
「学院生活を無事に過ごすために必要だと言う事だ」
僕は分からなかったけど、ネアが言った言葉を聞いて、バルドが何処か納得したような顔をしながら言った。
「ああ、お前も色々と問題起こすからな」
「そうですね。魔道具を身に着ける前に、もっと謙虚な態度を身に着けるべきだと思います」
「でも、謙虚なネアって想像も出来ないよね?」
「確かにな!!」
「何だか、逆に怖い気がします…」
「……おい。本人がいる前で、良く好き勝手言えたな」
「え!?」
僕達が話していると、静かな声がネアの方から聞こえて来た。そっとそちらへ視線を向ければ、真顔な顔でこちらを見ているネアと目が合った。
「あ、あはは…」
「そ、そのだな…」
「……」
僕らが返答に困りながらその場を誤魔化そうとしていると、ネアは僕らに背を向けて静かに歩き出した。
「ちょっと!何処行くの!?」
「私も少し言い過ぎました!」
「悪かったから戻って来いって!!」
無言のまま教室の外へと行こうとするネアを、僕らは慌てて呼び止める。僕らの声で、軽くこちらを向きながら、ネアは小さく言った。
「次は、外だろう」
その言葉を聞いて、次の授業が植物学の実習だったという事を思い出した。
「あ、ああ!そうだったな!」
「そうだね!行かなきゃね!」
「遅れたら大変ですからね!って!待って下さい!!」
僕らがお互い頷き会っていたら、ネアは既に教室から出て行こうとしていた。僕らは急いで、ネアの後を追いかけて行った。
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