贈り物(オルフェ視点)
夕食を終え部屋に戻って来た私は、少し憂鬱な気分になりながら、ソファーへと身を沈めた。今までも、面倒な商人や貴族との会談でも悩みや疲労はあったが、此処までではなかった。
「はぁ…。また厄介な物を…」
本来ならば、今日のリュカの誕生日は、悦ばしい気持ちのまま終わるはずだった。それが覆されたのは、リュカが身に付けて帰って来た指輪を見た時だった。
リュカが私達に出かけると言って来た時、行き場所を言いはしなかったが、何処に行くかは皆で予想は付いていた。
なので、その時間を利用して皆で準備を進めたいたのだが、リュカが見慣れない指輪をして帰って来た。しかも、その指輪には魔力がこもっていているようで、魔力に敏感な人間には魔導具だと分かる代物だった。
さすがに何の魔法が込められているかは分からなかったが、私よりも魔力察知が得意な父上には、何の魔導具であるか気付いたような雰囲気だった。
だが、父上の様子を見る限り、リュカに取ってはあまり良い物では無いようだった。だが、リュカが楽しそうな顔をしていたため、表情に出すような事はしていなかった。無論、私もそんな事は顔にも出さなかったが、誰から貰った物なのか等は、後で確認する必要があると思っていた。
だからこそ、父上が指輪の機能に付いて言及した時は耳を疑った。
母上は気付いていないようだったが、リュカが貰って来た指輪は、この国では所持するには許可が必要になる代物だった。
他の国では、魔力を持っている者は貴族くらいで、庶民はほとんど持っていないが、我が国では庶民でも魔力を持っている者は珍しくない。そのため、そういった物が犯罪行為に使われる事が、昔から後を絶えなかった。だから、そういった魔法道具などには、厳しい規制を掛けるようになった。
貴族ならば、許可を取る事は難しくはないだろうが、そんな物の許可を取ろうとしたと知られれば、良からぬ事を企んでいるのではないかと噂される事になるだろう。貴族社会において、そういった噂は致命的だ。だから、貴族でも表だって手に入れる事はせず、裏社会で売買されている事が多い。
もちろん規制が掛かっているのはこの国だけなので、隣の商業国家などに行けばいくらでも手には入れる事が出来る。だが、この国に商品として持ち込むには、国が定めた規定を通過して許可を取る必要がある。
ウィンクルム商会なら手に入れるのも、許可を取るのを難しくはないだろう。だが、子供が持つには危険な物を持たせている事に、少なからず疑問を覚える。
護身用として持たせるならば、私が贈った保護魔法が掛かった物や、他にも適切な物はいくらでもあったはずだ。それに、規制が掛かった物を手に入れるよりも、それらの方が遙かに楽に手に入れる事が出来ただろうから尚更だ。
まあ、父上もいくつか持ってはいると聞いた事はあるが、使っている所は見た事がない。まあ、膨大な魔力を必要とするが、魔法でも同じような事が出来るため、父上ならば指輪を使わず、自分自身で姿を変えた方が速いだろう。
「グラディウス家から貰ったのなら、納得出来たのだろうが…。いや、あの家がそんな物を持っているわけがないな…」
私の頭に浮かんだ1人の人物の顔を思い出しながら、私はゆっくりと首を振る。
規制が掛かったのが父上の代になってからなので、昔から使えている家紋の家などには、お忍び用として使っていた魔導具が残っていてもおかしくはない。だが、あの家の者は身体能力が高い者が多いため、街中で問題が起きたとしても自力で何とか出来るため、そういった物を必要する傾向は薄い。なにより、正面突破で突き進む者がほとんどだ。
「はぁ…。頼み事を聞いて貰いに行くだけだと言っていたから、油断していた…」
公爵家の次男ともなれば、他所からも贈り物が屋敷へと贈られて来る。父上の機嫌を取りたい者達は、俄然と力を入れて来る。だが、その者達には私達が何を贈るかは、それとなく事前に知らせておくようにしている。
今回、リュカの安全を考えての魔導具だった事もあり、常に身に付けやすさを優先して指輪にしていたのだが…。
「指輪以外にすれば良かった…」
奇しくも贈り物の形が被ってしまった事が、私に取っての一番の懸念事項だった。
リュカの交友関係が広がって行けば、こういう事が今後も増えて行くだろう。
私は、来年の贈り物に付いて、今から頭を悩ますのだった。
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