帰宅
「助かった」
「これくらいなら、僕にも出来るからね」
回復魔法を使って治しながら、ネアへと返答を返していると、後ろで誰かの足音が聞こえた。
「2人共おはようございます」
「……おはよう」
後ろを向くと、コンラッドと、その影に隠れるようにバルドが立っていた。
「2人で、何をしていたんですか?」
「ネアが、愛想笑いしすぎて顔が痛いって言うから、治してたんだ」
もう痛くないはずなのに、何処か表情が硬い表情のネアと近寄りながら、気まずそうにしているバルドの様子を伺う。
「そうなんですか。バルド。言いたい事があるなら、何時もみたいに言えばいいでしょう」
「ああ…」
コンラットの言葉を受けて、バルドが罰が悪そうな顔をしながら、おずおずと前へと出て来た。
「ネア。昨日は、悪かった。ネアが難なくこなしているように見えたから、思った事をそのまま言ったんだ…。ちょっとした冗談はあったけど、悪気はなかった。ただ…ネアがそこまで本気で嫌だったとは、考えてなかったんだ…」
たしかに、バルドは自分の気持ちに素直に行動してしまう所があるからな…。
「別にいい。俺も、子供みたいな態度を取ってしまった」
「いや、お前も子供だろ」
「俺は、大人だ」
堂々と得意げに言うネアには、先程まで筋肉痛で弱っていた様子はない。そんなネアを、ぽかんと口を開けながら見ていたバルドが、小さく吹き出した。
「ぷっ!そ、そうだな。ネアは、大人だな」
肩を震わせながら笑うバルドを、ネアは不機嫌そうな顔で見ていた。
「ネアも、私達とそんなに変わらない身長なんですけどね」
「そうだよね」
「……笑うな」
バルドに釣られて、横で笑っている僕達に気付いたネアが、こちらを不機嫌そうに睨んっで来たけれど、少しも怖くなかった。愛想良く振る舞えても、冗談とかは苦手みたいだ。
朝食の席では、昨日とは違う席順になっていた。
昨日は、バルド達が先に一番端の席に座ったから、僕達は空いた2人分席に座って、ネアは反対の席に座った。だけど、今はバルド達が手前の両側に座って、ネアが端の席に座っているから、昨日とは逆の位置なっている。
「母上、おはようございます」
「ラザリア様。おはようございます」
「おはようございます。ラザリア様」
「おはようございます…」
みんなに合わせて挨拶をすれば、穏やかな笑顔を浮かべていた。
「おはよう。息子の友人なのだから、もっと気軽に接して貰っていいわよ」
「さすがにそれは…」
コンラットの後に続いて真似したけれど、気軽にと言われてもどうしたらいいか困る。横目で見たコンラットは、少し困ったような顔をして、ネアは、目を合わせようともしていない。
「困らせる気はないから、話せるようになったらでいいわ」
その後の朝食の席は、最後まで穏やかなまま時間が過ぎて行った。
「普通、だったね」
朝食が終わって、部屋に戻る途中の廊下で、何気なく言った言葉に、コンラットが頷くように答えた。
「私が、前に来た時と同じような感じでした」
「親父がいる時とかはあんな感じだけど、いないとストレス貯まるのか、性格がきつくなるんだよ。昨日のでストレスが和らいだからなのか、少し治ってたな。これも、ネアのおかげだな!あ!いや、今のも、悪気があって言ったわけじゃないぞ!ただ、感謝を伝えたくて言っただけで!」
昨日の事を気にしているのか、慌てたように自分の言った事を訂正していた。
「分かっている」
少し煩そうな顔をしたネアの言葉に、バルドはほっと息を付きながら安堵していた。その後も、他愛ない話しをしながら廊下を歩きながら戻って来た僕達は、自分達の荷物を纏めるためにそれぞれの部屋へと戻った。
「今度は、コンラットの屋敷で遊ぶぞ!」
少なくなった荷物を馬車に積んで貰っていると、見送りのために外に出てきていたバルドが、さり際の僕達に言った。
「何で、貴方が決めるんですか…」
「駄目なのか?」
「駄目じゃないですけど…」
「なら、決定な!」
「だから、何で勝手に決めるんですか!!」
冬近くになって寒くなったこの時期に、何時ものやり取りが始まってしまった。
「先、帰ろうか」
「そうだな」
「近くまで送ろうか?」
「助かる」
こうなると長いのを知っている僕達は、先に屋敷を後にした。馬車に乗り込みながら、2人が風邪を引かないようにだけ祈ったけど、玄関前だし大丈夫だよね?
「やっぱり、自分の部屋の方が一番落ち着くな」
「ふふっ、ご友人とのお泊りは楽しかったですか?」
「うん!」
夕食の時間まで、リタと話しながら過ごした僕は、父様達にも話して聞かせた。みんな、僕の話しを楽しそうに聞いてくれた。
「それでね!バルドの所は、色々な物が廊下に飾られてて、見てても楽しかった!」
「なら、屋敷の飾りを元に戻そうかな」
「戻す?」
「ああ、昔は色々飾っていたんだけど、諸事情で最低限の物以外は片付けたんだよ」
「ふーん。どんな物を飾ってたの?」
「そうだな。絵画や壺とかの骨董品とかが多かったかな」
バルドの屋敷では、剣に関わる物が多く飾ってあった。やっぱり、屋敷によって飾っている物とかも違うんだな。
「……客間とかにもインテリア用の宝石とかも飾ってありましたよね」
「そうだったね。それらは、装飾品にして有効活用したから、気にしなくて良い」
「……わかりました」
そう言った兄様の表情が、少し暗い気がして、僕は話題を変えた。
「ラザリア様は、ピンク色の宝石が付いた装飾品付けていたよ」
「ピンク色……。もしかして、ピンクダイヤモンかな…?」
「うん。そんな名前だった」
「そ、そうか…。何か、言っていたかな…」
今度は、父様の様子がおかしくなったけど、特に父様が気にしそうな事は言っていなかったと思う。でも、僕が気付かなかっただけで、何か大事な事を言っていたのかな?
「何かって、何?」
「いや、何も言っていないのならそれでいいんだ。それよりも、彼女の相手は大変だっただろう」
「アル。ラザリア様に対して、そんなふうに言うなんて酷いわ」
「え!あ…す、すまない。ただ、壁…ベルンハルトがいないから…」
「そればっかりね。そんなに気にするなら、昔みたいに一緒にいればいいじゃない」
「いや…一緒にいたいわけではないのだが……」
「仲が良かったの?」
「腐れ縁みたいなものだ。レクスの護衛で側にいたから、自然と顔を合わせる回数が多かった」
「ふふっ、3人並んでいるだけで、それは絵になるほどだったのよ。女生徒からの人気も凄かったんだから!」
恍惚とした表情で話す母様。バルドのお父さんは見た事ないけど、父様と陛下が並んでいる所は見た事があるから、絵になるのは分かる気がする。それに、今でも人気がありそうだ。
「褒められているのだろうが、何も嬉しくはないな…」
複雑そうな顔を浮かべながら、1人苦笑いしていた。
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