説明
「それにしても、リオ先生だったなんてな…」
「人は見かけによらないとは、この事ですね」
リオ先生の事は、学院の都合で公にはならなかった。なので、世間的には、諸事情により退職した事になっていた。
でも、みんなにだけは、父様の許可を貰って、事情を話していた。先生が学院からいなくなる事になって、バルドは、少し落ち込んでいるようだった。
「はぁ…」
「えっと…元気出してよ…ね?」
「そうですよ。そんな事で落ち込むなんて、貴方らしくもない」
僕達の言葉に、少し怒ったような顔をしながら言った。
「これが、落ち込まずにいられるか!?数学の授業、どうすれば良いんだよ!?ただでさえ嫌いなのに、教師まで嫌な奴だったら、俺は耐えられる自身がない!!」
「そっち!?」
思っていたの違う事で落ち飲んでいたので、思わず大きな声が出てしまった。
「当たり前だろう!ただでさえ、剣も取り上げられてる時なのに…」
そういえば、学院をサボった事がバレてしまって、剣を取り上げられていたんだった。僕が、原因を作ってしまったから、少し罪悪感を感じる…。
「まだ、返して貰えてないの…?」
あれの日から、数日たったけど、まだ返して貰ってないんだ…。
「1週間の予定だったんだ…」
「なら、もうすぐじゃないの?」
バルドに聞いたのに、何故か、コンラッドが答えた。
「それはないですね」
「何で?」
きっぱりと言い切るコンラットを見れば、少し呆れた表情をしながら、バルドの事を見た。
「武器庫から勝手に剣を持ち出して、使っている所を見つかったからです」
コンラッドの言葉に、その時の事を思い出したのか、頭を抱えるように叫ぶ。
「何時もなら、帰って来ないはずの時間だったんだ!なのに、何でその日に限って、速く帰ってくるんだよ!?」
どうして、こんな時に限ってっていう時、たまにあるよね…。僕も、見に覚えがあるから、同情した目で見てしまう。
「そのせいで、期限が一ヶ月に伸びたんだ…。それに、武器庫に鍵かけられた…」
それは、運が悪かったとしか言えないから、僕にもどうしようもない。
「期限が、もう少しだったんですから、我慢すればよかったでしょう」
「俺にしては、我慢した方だ!」
嘆くように叫ぶバルドに、掛ける言葉は、思い付かない。そんな僕達に、呆れたような顔をしながら、ネアが言った。
「別に我慢しなくても、学院や、リュカの屋敷の練習場でも、借りてやれば良いだけだろ」
「「「……」」」
ネアの一言で、少し虚しい気持ちになった…。
「俺達の担任って誰になるんだ?」
悩みがなくなったからなのか、話題を変えたかったからなのか、何時もの調子で疑問を口にする。
「新しい教員を雇うのは時間が掛かりそうなので、今いる方達で回すのではないですか?」
「まあ、リータス先生以外なら、誰でもいいや」
特に焦った様子もなく、バルドは流すように言った。たぶん、学院には、大勢の教師がいるので、リータス先生に当たる確率もそう高くないと思っているんだろう。
「そういえば、兄様の口振りだと、リータス先生は、父様の部下の人みたいだったよ」
「ゲッ!何で、そんな人が此処にいるんだよ。それに、あんなに性格とかも悪そうなのに、大丈夫なのか?」
疑わしそうに言うバルドの気持ちは分かるけど、父様の知り合いだから、そこは大丈夫だと思う。
「肝試しの時も、リータス先生に、付き添いを頼むくらいだから、大丈夫なんじゃないかな?」
「それで、あの場所にいたんですね。おかしいとは思っていましたが、それを聞いて納得しました」
納得したようなコンラッドの横で、ネアが、出し抜けに言った。
「まあ、担任も不自然に感じた時はあったがな」
「いつ?」
不思議に思って聞いたら、吐き捨てるように言った。
「アイツ、手紙の件に触れた時、商会の力を使ったって言ってただろ。クラスの連中や、噂では、公爵家の力を使った事になっているのにだ」
「そういえば、そうだな」
「私も、疑問に思いませんでした」
「俺も、リュカが、呼び出しを受けた時にでも話していたのかと思って、その時は、気にもしてなかったがな」
つまり、僕だけは、事件が起こる前に、犯人に気付く事が出来たというわけだ。その時、ちゃんと気付いていれば、色んな所に迷惑かけなかったのに…。
僕が後悔していると、後ろで扉の開く音がした。振り向けば、歴史の授業でもないのに、リータス先生が教室へと入って来る所だった。
教壇の前に立つと、真っ直ぐに前を向いて、静かに口を開いた。
「今日から、このクラスの担任を任される事になったリータスだ。先に言っておくが、問題を起こせば、誰だろうと見逃す気はない」
1度、言葉を止めると、僕達の方へと視線を向け、口の端だけを上げながら言った。
「お前達も、甘やかす事するつもりはないから、今から覚悟しておけ」
兄様の話しを聞く限りだと、父様の関係者だとは思うけど、こちらを見る目を見ていると、上手くやっていく自信はない。
何だか、学院生活が不安になって来た…。嫌そうな顔をしているバルドを見ながら、僕も、同じような顔を浮かべているんだろうなと、鐘の音を聞きながら思った。
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