自立に向けて
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「リュカ!大丈夫かい!?」
「リュカ!大丈夫!?」
扉が開き、目が合った瞬間、両親が部屋へと飛び込んで来るように駆け寄ってくるものだから、その慌てように、こちらが驚いてしまった。
でも、今の僕の状況を思い出し、これは心配しても仕方ないかと納得する。
ベッドで寝ていると思っていた息子が、鏡の前の床に座り込み、途方に暮れるような顔をしていたら、 過保護な両親が心配しない方がおかしい。
気付けば父様に抱き上げられ、あっという間にベッドへ運ばれていた。そんな様子に、今になって父様の動きには本当に無駄がなく、何時も洗練されていたと分かる。そんな事を考えていると、母様が僕の手を握り、不安そうに尋ねてきた。
「リュカ……。私たちのこと……分かる……?」
どうしてそんなことを聞くんだろうと思ったけれど、二人の表情は固く、まるで息を潜めて答えを待っているみたいだった。
どう答えればいいのか分からず、視線を彷徨わせていると、扉のそばに立つドミニクの姿が見えた。
黒髪に黒目。今まで何とも感じなかった容姿が、何故か、妙に懐かしい。そして、さらに視線を動かせば、リタが心配と不安が入り混じった表情でこちらを見ていた。
さっきの会話、「あなたは誰?」なんて言ってしまったことを、今になって後悔する。
おそらく、リタから僕の様子を聞いていたのだろう。自分の子供が突然“一人称が俺になり”“よく知る人の顔を忘れた”となれば、大騒ぎになるに決まってる。でも、あの時は、前世の記憶が強すぎて出た言葉だけど、あれは確実にまずい。でも、正直に説明したとしても、余計にややこしいことになる未来しか見えない。なら、誤魔化すしかない!
「も、もちろんです!僕の母様と父様に、いつも一緒にいてくれるリタ。そして、執事のドミニクです!」
少し声が裏返ったけど、少しだけ安堵した三人の表情からして、誤魔化せたと思う……たぶん。でも、心配してくれる両親に嘘をつくのは胸が痛む。だけど、僕の顔が曇ったからか、両親は再び不安げな顔をする。
「リュカ?やっぱり何処か具合が悪いんじゃないの?」
「そ、そんな事ないよ!」
「本当に大丈夫か?」
「本当に大丈夫です!!」
勢いで押し切ろうと体を動かしながら、問題ない事を示すために元気な様子を見せれば、未だに不安を残しつつも、二人の顔にも笑みが戻った。その表情に、僕がほっと胸を撫でおろした。その時。
「大丈夫なのは分かったけれど、それでも念のため、しばらくは休みを取ろう。フェリコには、私の方から伝えておくよ」
頑張ると決意したそばから、まさかの休養宣言。父様の突然の提案に、僕は飛び起きる勢いで否定した。
「いいえ! 僕は大丈夫です!!」
今の僕に必要なのは休むことじゃない。兄様との距離を少しでも埋めるためにも、まずは常識くらい身につけないと……!
「無理はしなくていいんだよ……」
「そうよ、休んだって構わないのよ……」
だけど、そんな僕の気持ちを知らない父様達は、優しい言葉を掛けてくれる。でも、それが返って胸に刺さる。
「いいえ! 父上! 母上!これから僕は、ちゃんと勉強して自立します!!」
両親に甘えているだけじゃダメだ。兄様が呼んでいるような呼び方に変えて、少しでも気が引き締めようと思ったのに。
「ど、どうしたの!? いきなり母上だなんて……いつもは母様と呼んでくれるでしょう……?」
「そうだよ……本当に、どうしたんだい?」
いきなり呼び方を変えたせいか、両親の顔がまた不安そうな顔になり、完全に逆効果だった。
「も、もうすぐ学院にも通うし……何時までも子供みたいに甘えていられないので……その……」
慌てて説明するけれど、そのうちに、自分が一番“子供っぽい”ことを言っている気がしてきて、言葉がどんどん小さくなる。
他の子の話をフェリコ先生に聞いた事があるけれど、夏には本格的な勉強が始まっており、冬になる頃には、一人で寮暮らしも出来るくらいには、最低限の自立をしているらしい。でも、未だに僕は、自分で服を着るのも手伝ってもらっている。
気落ちしていると、父様がそっと僕の手を包んで言った。
「リュカはまだ子供なんだから、無理して大人にならなくていいんだよ。それに“父上”と呼ばれるより、“父様”のほうがずっと嬉しい。これからも、私のことは父様と呼んでくれないかい?」
「私も“母様”のほうが好きよ。だから、無理に変えなくていいの」
「……はい。父様、母様……」
微笑みながら、父様が言った言葉に続くように言った言葉に、僕は小さな声で返事を返す。あんな寂しそうな目で言われたら、呼び方を変えるなんて無理だった。すると…。
「それか、昔みたいに“パパ”呼びでもいいけどね?」
「いいわねそれ! リュカ、ママって呼んでみて!!」
父様が悪戯めいた笑みを浮かべて言えば、母様も名案とばかりに乗る。だけど、今の僕には”パパ、ママ”呼びはさすがに無理だ…。
期待の籠もった目で見る両親をなんとか説得し、以前と同じ呼び方で落ち着いたけれど、僕の一人立ちへの道のりは、まだまだ遠そうだ…。
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