ギャラリー(レオン視点)
「なるべく、アルの息子とは仲良くするようにしてくれると助かる。喧嘩でもしようなら、どんな報復をしてくるか、予想が出来ない」
オルフェと会った後、父上から部屋に呼ばれてそう言われた。だけど、父上に言われなくても、仲良くするつもりだった。でも、オルフェの好きな事が分からない俺は、まずは自分の好きな事に誘って見る事にした。
俺は、オルフェの屋敷を尋ねて行った。屋敷の使用人に、何処にいるのか訪ねたら、書庫にいると言われた。案内されて向かえば、オルフェは1人、椅子に座って本を読んでいた。
「オルフェ!模擬戦しないか!?」
「何故だ?」
「オルフェと、仲良くなりたいからだ!」
「私は、仲良くする気はない」
本に視線を戻され、俺の誘いはあっさりと断られてしまった。今まで、誘いを断られた事がなかった俺は、どうやって誘ったらいいか分からない。だから、父上達のやり取りを参考にしてみる事にした。
「模擬戦に付き合ってくれたら、有給休暇を出す!」
「はぁ?」
その時のオルフェの呆れたような顔は、今でも忘れずに覚えている。あの頃は、有給休暇を出すと言えば、頼み事を聞いて貰えると思っていたんだ。後で、父上にその事を話したら、大いに笑われた…。
その後も、父上達の会話を参考に誘ったら、呆れたようにしながらも、最後は模擬戦に付き合ってくれた。
今まで、騎士団の訓練に混じって、稽古を付けて貰う事はあっても、同年代の奴とはやった事はなかった。だけど、同年代に負ける気はなかったし、負けるとは思っていなかった。でも、オルフェには、届かなくて負けてしまった。
負けたのが悔しくて、他の同年代の奴と、模擬戦の稽古をしてみたけれど、手を抜いて勝ちを譲っているのが分かって、勝っても何も楽しくはなかった。
真剣に勝負してくれるオルフェに勝ちたくて、何度も模擬戦に誘った。でも、オルフェに弟が生まれてからは、魔力制御の修練で忙しいと断られるようになった。
オルフェの言葉に嘘はなかったけど、そんな事をする必要もない技量を持っているのに何で?という疑問が残った。もしかして俺は、避けられているんだろうか…?仲良くなりたくて始めた事だったのに…。
それからは、稽古以外の口実を見つけては、オルフェを誘ったけれど、初めて会った日から感じる壁は、そのままだった。
その日は、勉強を教えて貰う事を口実に、オルフェの屋敷を訪ねていた。
「オルフェ!宿題手伝って!!」
「自分でやれ」
「そこを何とか!!」
「はぁ…。なら、保管庫に置いてある教本を持って来るなら、手伝ってやる」
「分かった!」
部屋を飛び出してから、保管庫の場所を知らない事に気が付いた。近くにいた使用人に尋ねれば、変わりに持って来ると言われたが、俺はそれを断り、保管庫を目指した。
「ここか?」
目の前に見えた大きな扉を開けてみると、そこには、多数の肖像画が飾られていた。
「此処は、ギャラリーか?それにしても、今と全く変わってないな」
俺は、ギャラリーに飾られた、オルフェの肖像画を眺めながら、出会った時の事を思い出していた。段々と幼くなって行くオルフェの絵を順番に眺めながら、あまりの変わらなさに笑っていた。そうしたら、一枚の絵が目に入った。
「遅かったな?使用人に、頼まなかったのか?」
俺が部屋に戻ると、不思議そうにオルフェから訪ねられた。
「いや。別な物見てたら、遅くなった」
「別な物?」
怪しむような目で、俺の事を見て来るけれど、今の俺は、全く気にならなかった。
「ギャラリーにあった、うさぎの人形を抱っこして…グハッ!」
「忘れろ!全力で!忘れろ!!」
笑いながら言ったのが駄目だったのか、顔を赤く染めたオルフェから、おもいっきり殴られた。
その後、父上からは、俺がギャラリーの絵が撤去される理由を作ったという事で、オルフェの父親が、仕事放棄したと怒られた。すぐに謝りに行けと言わて、もちろん謝りに行った。
「絵を見て笑ったのは、馬鹿にしたわけじゃなくて、意外な一面が知れて嬉しかったというか、身近に感じたというか…と、とにかく、不快にさせたなら悪かった!」
「殴った私を…責めないのか…?」
下げた頭を上げると、伏し目がちにしながら、オルフェがこちらを見ていた。
「?誤解を招くような事をしたのは俺だから、殴られても仕方ないだろ?」
「お前は…」
俺の方を見ながら何かを言いかけて、言葉を止めた。眉間にシワを寄せた後、呆れたような顔をしながら、こちらへと視線を向けた。
「はぁ…。わ、私も、急に殴ったのは、悪かった…」
途中、気不味そうに視線を逸らしながらも、オルフェが俺に謝ってきた。
「許してくれるのか!?それなら、ギャラリーの絵も、戻してくれるよな!?」
「それとこれとは、話が別だ」
さっきまでの、気不味そうな様子は消え失せ、何時ものオルフェに戻っていた。
「それだと、俺が怒られる!!」
「知るか」
その後、父上から再度叱られたが、オルフェとの間にあった壁は無くなっていた。それからは、テスト勉強や稽古なども、俺に付き合ってくれるようになった。
たまに飛んでくる手はかなり痛いが、俺にこんな態度取って来るのは、オルフェだけだ。だからこそ、オルフェの前では、ただのレオン・エクスシアでいられる。
でも、もう少し手加減してくれてもいいんだぞ?処理が終わっていない書類を片手に、そっと心の中で告げるのだった。
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