赤い宝石(番外編)
兄様から、初めて召喚の方法を教えて貰った日、途中で眠気に負けて眠ってしまっていた。
その時、僕は、小さい頃の夢を見ていた。
「リュカ。この絵に描かれているのが、リュカのお兄ちゃんよ」
「?」
「お兄ちゃん」
「にー?」
「そうよ。怖くないでしょ?」
小さい僕は、母様に抱っこされながら、壁に飾られた家族の絵を見せられていた。母様は、兄様の肖像画を見せながら、僕に言い聞かせるようにして、語りかけていた。
だけど、その頃の僕は、兄様に会った時、何時も視界が涙で滲んでいて、姿を良く見た事はなかった。だから、兄様の絵を見せられても、父様に似ているけど、何か違うな?くらいにしか、その時は思えなかった。
小さかった僕は、無表情でいる兄様が、何処か作り物ような感じがして怖かった。姿が父様と似ているからこそ、余計にそう感じていた。それに、切れ長の目だから、視線がこちらを向くだけで、何だか睨まれているような気がして怖かった。
その時の事を思い出して、動かない絵のはずなのに、無意識に母様の服の袖を掴んでしまう。何だか居心地が悪くなって来た僕は、速くこの部屋から出たいと思った。そんな時、一枚の絵に、視線が止まった。
「うー!」
「リュカは、うさぎさんが気になるの?」
うさぎの人形が描かれている絵を、指で刺しながら叫べば、僕が言いたかった事を、母様はすぐに理解してくれた。
「あい!」
「うさぎよりも、オルフェの方に興味を持って貰いたいのだけど…」
母様は、何処か困ったような顔をしながら僕に言った。でも、僕としては、兄様よりも、兄様が抱いているうさぎの人形の方が気になる。
「昔から、オルフェは可愛いものが好きだったから、うさぎのぬいぐるみを買ってあげたの。そうしたら、その人形を気に入ってくれたのか、手を離さなくなったのよ。そんなオルフェの姿を、仕事から帰って来たアルが見て、大至急に絵師を呼べって言い出して、大変だったのよ。もうすぐ日が暮れそうな時間なのによ」
その時の事を思い出したのか、母様は楽しそうな顔をしながら、教えてくれた。でも、興味がなかった僕は、母様の話しはあまり、耳に入っては来なかった。
「その後、絵師の方には、無理を言って描いて貰ったんだけど、オルフェからは、この絵を飾るのを止めて欲しいって、最近言われるの。だけど、家族しか見ないからって、今も此処に飾っているのよ」
母様は、絵を見せながら説明してくれるけれど、絵を見る事に飽きて来た僕は、退屈でしょうがない。うさぎを見つけた興奮は、とっくに冷めてしまっていた。
「ふぁ…」
退屈になってきた僕の口からは、小さなアクビが溢れる。
「そろそろ、眠くなって来たかしら?部屋で少し、お昼寝しましょうか?」
「あい…」
母様に連れられて、部屋に戻って来た僕は、ベットに横になると、眠気に負けてすぐに眠ってしまった。
僕が寝ていると、誰かが部屋に入って来たような気配がして、ぼんやりと目が覚めた。
眠い目をこすりながら目を開けると、昼間に見たうさぎの人形のような赤い目が、眠気眼に見えた。その目は、昼間の絵と違って、何処かキラキラ光る宝石の様に見えて、自然と笑みが溢れる。
「うー!」
「!?」
笑いながら手を伸ばせば、誰かが、驚いたような気配がした。けれど、まぶたが重いせいか、誰だが良く見えない。
「ふぁ…」
まだ寝足りない僕の口からは、再び小さなアクビが溢れた。そんな僕の頭に、何か温かい物が触れる感触がした。それは、何処か、ぎこちなかったけど、僕の頭を優しく撫でる感触を感じながら、また夢の中へと落ちていった。
「リュカ。もうすぐ昼だぞ」
「う~ん…」
眠い目をこすりながら、声がした方へと視線を向ける。
「寝てた…?」
「寝てた」
僕は、兄様により掛かるようにして、眠っていたようだった。部屋で休むように言われたけれど、書庫に行くという兄様に、僕は付いて行く事にした。
目が冷めた僕は、夢で見た赤い宝石の事は、すっかりと忘れてししまっていた。
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