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「どうかしたんですか?」


何時もと違う様子に、僕は心配になって聞いてみた。


「少し、私に付いて来て貰えますか」


「え…?はい…」


みんなを待たせているから、一言伝えたいけれど、先生を連れて行くのは、みんなを売る事のような気がして出来ない。少しだけなら、後で伝えれば大丈夫だろうと、僕は先生の後に付いて行った。


人が通る通路だったから、邪魔にならない所で怒られるのかと思ったけれど、何だか違うようだ。周りに、人の気配がなくなっても、先生の足が止まる事はなかった。


「何処まで、行くんですか?」


「もう少しです」


怒られるなら、速めに怒られた方が、気が楽なんだけどな…。憂鬱な気分で歩いていると、先生は、一つの扉の前で立ち止まり、中へと入って行った。僕も、後に付いて入ると、部屋の中には色々な物が置いてあった。たぶん、倉庫みたいだけど、何で此処に来たのか分からない。不思議に思っていると、こちらを振り向きながら、先生は話し始めた。


「此処は、もう使わなくなった物をしまっている場所なので、滅多な事では人は来ません。だから、話の邪魔をされる事もありません」


僕の方を見ながらも、何処か別の所を見ているかのように話す先生には、何だか近寄りたくない感じがする。


「どうして、私を頼っては下さらなかったのですか?」


「え?」


学院をサボった事を、怒られると思っていた僕としては、さっきから何が言いたいのかさっぱり分からない。


「私が優秀である事が、あの方の耳に届けば、必ず引き抜いて下さると思った。だから、模範的な教師を演じようと努力したのに、なんの意味はなかった。問題が起これば、私に頼るかと思って、わざわざ、怪文書も用意したというのに、それも意味がなさなかった」


「先生…だったんですか…?」


先生は、少しも悪びれた様子もなく、言い放った。


「貴方は、私に頼りもしなかったですけどね。それどころか、あの方が不正をしたように言うなどありえない!あの方は、そんな事をなさらなくても、全て、完璧に解決してしまう方なのです!!誰に対しても笑い掛ける事もなく、公正に物事だけを判断して物事を決め、他者に媚びを売る事もせず、傍若無人に振る舞っても許される方なのです!」


先生は急に、まるで熱に浮かされたように、喋り続けた。


「ああ、学院時代は良かった。毎日、あの方の御姿を拝見出来るだけで幸せでした。自身の感情を見せない厳粛な様子も、敵には容赦しない冷徹さも、私の憧れでした」


「父様の事?でも…母様に叱られて、落ち込んでいたりする事あるよ…?」


先生の話す父様と、僕が知っている父様とは違いすぎて、本当に父様の事を言っているのか、疑問に思えて来る。


「そんなのは、あの方の本当の姿ではない!あの方が、本来の姿でお過ごしになれるように、側でお支えしたいのに、能力も格が違う奴が周りにのさばっている!」


先生の様子が、何処か狂気じみてきて、段々と怖くなってくる。


「先日も、優秀である事見せる絶好の機会だと思った。恩を売る事も出来ると思って用意したのに、あの連中は何の役にも立たなかった!それどころか、私が姿を隠さなければならなくなった!」


先日?寄り道する時に、先生の様子がおかしかったのは覚えているけれど、他には何もなかったはずだ。僕の反応など気にも留めずに話し続ける先生から、少しでも離れようと、後ろに距離を取る。


「私は、ただ証明したかっただけなのです。だから、あの方に、取り成して欲しいのです。貴方からの言葉なら、必ず耳を貸して下さるはずです。なにせ、平民である人間ですら、相手にして下さるのですから」


「ぼ、僕に言われても…」


すがり付くように言われても、身を隠さなきゃいけない事を何とかするのは、友達を紹介するのとは訳が違う。それに、何の話しをしているのかも分からないのに、何も出来るわけがない。


「あの平民は良くて、何故、私は駄目なのです!」


怒り出した様子に、慌てて逃げようとしたけれど、足がもつれて転んでしまった。起き上がって、扉の方へと行こうとしたら、すでに先生に周り込まれていた。


「口利きしてくれるだけでもいいのです」


逃げようにも、後ろには壁しかない。どうすればいいか分からず、周りを見渡しても、僕が使えそうな物はなかった。誰か、助けを呼ばうと思った時、兄様の顔が頭に思い浮かんだ。


最初に試した後は、座学が殆どで、練習でも1度も成功した事がなかった。でも、使うなら今だと思って、兄様に習った事と、召喚陣を思い浮かべながら、魔法を発動する。


僕がやろうとしている事に気付いたのか、先生が止めようと、こちらに向かって来るのが見えた。


「兄様!」


目をつぶりながら、僕は助けを呼ぶように叫べば、求めていた人の声が聞こえて来た。


「私の弟に何をしている…」


目を開けると、僕を庇うようにして、兄様が目の前に立っていた。


お読み下さりありがとうございます

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