表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/307

不安が現実に(エレナ視点)

アルファポリスで先行投稿中


ふらつきそうになる足を何とか動かしながら、私はアルが待つ執務室まで向かった。途中、ドミニクにも支えて貰いながら、何とかアルの執務室の前までやってくる事が出来た。


私が、扉の前に立つと、ドミニクは、扉から少し離れ、中の話が聞こえない位置で待機していてくれた。


私は、震えそうになる手を何とか抑えながら、執務室の部屋のドアをノックした。


「入ってくれ…」


部屋の中から、普段アルからは聞いた事がないような力ない声が聞こえた。


アルは、私が抱えている不安に気付いているようで、部屋に入ると優しく抱きしめてくれた。アルの腕の中は私にとって、今では安心出来る場所になっていた。


アルは、私が不安に思う時や、悩んでいる時には何時もそばにいてくれた。初めてあった頃を思えば、こんな感情を感じるなんて考えられない事だ。


学院生の時、私はアルの事が怖くて仕方がなかった。私よりも2つ学年が上である事もそうだけど、学院で過ごしている間に怖い噂などが多数、私の所にまで聞こえてくるほどだった。それに、優れた容姿や身分なども合わさって、学院では知らない人がいないほど畏怖された存在だった。


しかも、アルの父親である先代は、社交会でも有名な血統主義の思考の持ち主だった。だから、私のような、階級が高くない人間が近づく事を忌み嫌っていた。


だから、アルもそういう考えの持ち主だと思って、初めて会った時は全力で逃げた。なるべく顔を見られないように、相手の記憶に残らないように。


それなのに、その日からアルの姿を見かける回数が増えていった。私は、そのたびに何か反感をかってしまったのだろうかと恐怖の日々だった。


印象が変わったのは、陛下から来た一通の手紙がきっかけだった。それから、月日が流れて、今では昔とは比べられないほど、アルは変わっていった。


アルの腕の中にいれば安心出来るけど、何時までも現実から目を逸らし続ける事は出来ない。


「……アル何があったのか…教えて下さい……」


アルから、教会での出来事を聞くに連れて、私はだんだんとアルの顔を見る事が出来なかった。


アルの口から、リュカを切り捨てる言葉が出るのではないかと不安に思う気持ちと、アルはそんな事は言わないと信じたい気持ちが合わさって、私の心はぐちゃぐちゃだった。


「……エレナ。リュカは、君が私にくれた宝物だ。私は、その宝物を手放すつもりはないよ」


その言葉で顔を上げれば、アルは静かに微笑んでいた。


「だから、何がリュカにとっての幸せなのか家族皆で考えよう?」


アルは、私達家族を大事に思ってくれている。この屋敷も、仕事も、家族のために捨ててもいいと言ってくれる。そんなアルを、少しでも疑った自分が恥ずかしい。


まあ、教育するというのは私を笑わすための冗談だろうが、出会った頃のアルを知っているだけに、実際にやり遂げてしまいそうだ。


この先、不安が無くなる事はないかもしれないけれど、アルがそばにいれば、何が起きても大丈夫なような気がした。


コンコン


「ドミニクです。リタが来られています。入ってもよろしいでしょうか?」


確認するように、私を見たアルに、小さく頷き了承を伝えれば、アルは二人に声をかける。


「失礼いたします」


ドミニクに連れられて入室したリカは、私達の前に立ち一礼する。


「リュカ様がお目覚めになられました」


「!!」


リタの言葉に、今すぐでもリュカの所に行こうと立ち上がれば、アルから静止の声をかけられた。


「エレナ。落ち着いて。リタには、リュカが目覚めたら、知らせらように頼んでいたんだ。リタならば、安心してリュカを任せられるからね」


確かにリカならば、安心してリュカを任せる事が出来る。リタは、私の乳母をしてくれていた人の孫娘だ。


リタの母親とは、幼馴染のような関係で、学院では私の側仕えとしても使えてくれていた。学院の卒業後、結婚を気に田舎に帰ってしまったが、その後も、お互いに手紙のやり取りをしていた。


その彼女から、学院を卒業した娘の働き先を手紙で相談された。アルにその事を相談したら、私に仕えてくれた人達なら信頼出来ると、リュカの世話係として雇ってくれたのだ。


「リタ…それで…リュカは…どんな様子だった?何か…変わった事はなかったか…?私が…会いに行っても…大丈夫そうかい……」


アルの声には、何時もの声とは違い、不安に満ちた声だった。


アルは、自分が会いに行く事でリュカを傷付けるのではないかと、不安を感じているようだった。


私は、アルがそうしてくれたように、アルの不安が少しでも和らぐように、アルの手にそっと私の手を重ねる。こちらに目線を向けた顔に、ほんの少しだけ笑顔が戻った事に安堵した。だから、リタの言葉を受け入れられなかった。


「……落ち込んでいる…という様子はありませんでした……。ですが…自身の事を…俺と言ったり、私が誰なのか…分からないご様子でした……」


ああ…私の不安が…現実になってしまった……。

お読み下さりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リタとリカが混在している
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ