61.ルシエルの最期①
「おかえりなさい」
拠点として暮らしていた洞窟に戻ると、
ちょこんと座ったルシエルが二人を出迎えた。
「ただいま」
「戻りました、ルシエルさん」
デュークとルイードは、何も出来なかった不甲斐なさに、
少し気落ちして挨拶を返した。
「すまない」
「何がですかお義兄様、それよりも紅茶を入れますので、
この縄をほどいて下さい」
ルシエルは、これみよがしに二人に縄で結ばれた両手を見せた。
「紅茶でしたら私が入れますよ」
「平気ですよルイード様、病気という訳ではありませんので」
「そうですか、今ときますね、薄っすらと暗い洞窟の中で、
縄に縛られたルシエルさんを見てると何か目覚めてしまいそうですしね」
「いやお前はとっくの昔に目覚めてるだろう」
三人は軽口を言いあって、重苦しい雰囲気を無くした。
「先日助けてくれたお礼って言ってダンさんから貰ったんです」
デュークに温めて貰ったお湯で紅茶を入れると、
洞窟を背にして三人はよりそって紅茶を口にした。
「美味いな」
「美味しいですね」
「あの船の持ち主は、見る目がありましたからね、良い紅茶の葉ですね」
ダンさんに貰った紅茶は、とても良い物だった。
ルー君も本当は少し怖いのだろうが、ルシエルのももの上に、
チョコンとアゴをのせて目を閉じている
「済まない、ルシエルを助ける事が出来そうにない」
「すいません」
ある程度紅茶を飲むとデュークとルイードが誤った。
「何を言ってるんですか、ちゃんと戻って来てくれたじゃないですか。
それが一番嬉しいです、あのまま二人にあえずに死んでしまうのが一番怖かったです」
「そうか」
「はい、こうやって旦那様二人に寄り添って、ルー君もいて、
美味しい紅茶を飲めるなんて、これ以上は無いくらいに幸せです」
「そう言って貰えると嬉しいですね」
「少しお話しをしませんか?」
「ああ」
「良いですね」
この一時はルシエルがここに来て一番幸せな時間だった、
もはや死の恐怖は無い、満ち足りている。
「この島の浜辺に打ち上げられた時は、
物凄く不安でお義兄様と話して、最初は見捨てられたと思って、
もうどうでも良いなと諦めたんですが側にいてくれると言ってくれて、
それが凄く嬉しくて」
「あの時も言ったが、あんな不安な顔をしているルシエルの側から離れる訳が無い、
あり得ない」
「ルー君は可愛くて、私に懐いてくれてありがとう」
私がそう言って撫でると、撫でやすいように耳をペタンと倒して可愛らしく鳴いた。
「ルイード様は、最初はエッチな目で私を見てましたけど、
お腹が空いている様子が可愛らしくて、その後も謝って下さって、
優しくしてくれて凄く嬉しかったです」
「エッチな目って、最近私は落ち担当の扱いなんですか?」
「ごめんなさい、国にいた時はもっと話し辛い人かと思ってたんですが意外でつい」
「そうですね、私も自分でも少し意外ですよ」
「後、お義兄様のトルネード漁方は、最初ビックリしました、
ルイード様の転移でコンテナが手に入って嬉しかったです」
「そうか」
「そう言って貰えると嬉しいですね」
「後は、後は、幸せでした。
凄く幸せでした、仮に神様が私と何処かの国のお姫様とかえてくれると言っても嫌です。
私は二人の側をゆずりません」
二人は優しく私を抱きしめてくれた。
ああ、なんて幸せななのだろう。
人はいずれ死ぬ、長く生きるのは幸せの要因の一つなのは間違えない。
だけど結局は、自分が満足して死ねるかどうかだと思う、本当にそう思う。
「昔私の魔術の師匠から聞いた話なのだが、
この世界は広がり、そして縮む事を繰り返す。
人は喜劇役者のように毎回同じ様な運命を辿るらしい。
だがそこに思いがあれば、限りなく同心円に近い運命でも、
螺旋のようにいずれ思いに届くらしい」
「ロマンチックなお師匠様だったんですね」
「ああ辺境の塔に住んでいる小汚い変わり者の爺さんだったけどな」
「次にあっても私を愛して下さいね、実は頑張って夜の練習もしてたんです」
「それは楽しみだな、何度でも見つけるさ」
「少しだけ」
「うん?」
「少しだけ眠くなりました」
「はい、ゆっくりと休んで下さい、ルシエルさん」
「おやすみ、ルシエル」
「はい、二人とも愛してます、私を愛してくれてありがとう」
そう言ってルシエルは、眠りについた。
邪悪な感じはしないので、まだ魂を失った訳では無いだろうが、
恐らく次の日の朝を迎える頃には、ルシエルの魂は消えてしまうのだろう。




