5.誤解の解消
ラッキーだ、棚ぼただ
私が素直にこの幸運を受け入れれば
かなり状況は好転する。
何と言っても我がお義兄様は
家族としての色眼鏡無しで一番優秀なのである。
王国筆頭魔術師は伊達ではない
基本魔術の火風土水を高位レベルまで習得している。
高い戦闘力は勿論だけど
無人島に必要な火、水を簡単に用意できて
土によりある程度の建造物も作れるだろう
風魔法は何に使うかわからないけど。
普通に可愛いらしく受け入れて
その恩恵を甘受すれば良いだけ
だけど私の口から出た言葉は酷く子供っぽく
少し責める様な口調だった。
「私は契約魔術によって聖女に近寄れませんよ」
「むしろメリットだろう、あの馬鹿女も近寄ってこれないのだから
ああ、心配しなくても良いよp
私の魔術なら、ルシエルを側で守りながら遠距離から攻撃魔法を撃てば
あの女を一方的に始末出来る。
まあ、王太子もそこそこ魔法を使えるし、
呪文を唱えるのに多少の時間がかかるから
脳筋のダンも近寄られたら面倒だが」
何だろう、話が通じている様で通じてない感じだ。
「私が申し上げたいのは、お義兄様の大好きな
聖女リリーナ様の側にいられなくなりますよって事なんですが」
「成る程考えもしなかったよ、君がそんな誤解をしてるなんてね。
大好きな?やめてくれ、一度でも君にそんな事を言った事があるかい?
私は、魔術師だぞ言霊に知性を込めて現象に至らしめる者だ
男であればみさかいなく、甘ったるい声で甘えて来る女を好き?
流石に冷静ではいられないな、今日の夜はお仕置きかな」
ごめんなさいお義兄様怖いです
確かにあの何処から出しているのか分からない様な声は
私も苦手でしたが、殿方はああいうのが好みかと思ってました。
真顔でお仕置きとか勘弁して下さい。
本気を出した筆頭魔術師のお兄様から逃げ切れる自信が全くありません。
「・・・私はこの通りに不細工ですし・・・」
「正直なところ、私は派手な化粧もキツイ香水も苦手なのは事実で
最近のルシエルの格好は好みでは無かったね。
だけど、それを言うならあの聖女も同じだろう
派手な化粧、鼻が曲がる様な香水、歓楽街の娼婦が着る様な胸元が空いた服
聖女?性女の間違いだろう。
香水の匂いがキツすぎてあの女が通った後は
姿が見えなくともハッキリわかるんだぞ、虫か!」
すいません、流石にここまで嫌っているとは思いませんでした。
後、お口が悪すぎます。
「それに化粧していた時のルシエルはともかくとして
今の君はまるで天使様の様に可愛い、あの女と比べるべくも無い」
お義兄様、急にお義兄様への信頼度が下がりました。
自分の容姿をどの様に言われていたかは十分存じ上げてます。
「お兄様は、私に優しくありませんでした」
「何度注意しても全く私の話しを聞いてくれなくて
それでも責める様な事はせずに、根気よく注意して来た私の評価が優しく無いか。
本当に勉強になるよ、対応を改めよう」
ごめんなさい、お義兄様、やっぱり怖いです。
転生して冷静に客観的に自分を評価した場合、確かにあの頃の自分は最悪です。
使用人に辛く当たり、追い出して人生を台無しにしてしまった事もあります。
もし戻る事があれば心の底から謝罪して、償いたい。
「私が酷い女だったのは認めます、
自業自得だったのもわかります。
でも、周りの皆にいくら酷い言葉で罵られようと
お義兄様から一言でもたった一言だけでも良かったから
優しいお言葉を頂ければ、私はそれだけで良かったのです!!」
私は声を荒げ、泣いてしまった。
自業自得で理不尽な事は重々承知だ。
だけど望んでもいないのに勝手に生まれ変わり
償う暇も無く身に覚えもない罪で周り全ての人間から責められる
それは理不尽では無いのか。
勿論、お義兄様がそんな事情を知らなかったのは分かっている
でも少しだけでも良いから甘えさせてほしくて、泣いてしまった。
「すまない、言い訳がましいが
王太子も決して愚かな男では無かった
むしろ私が仕えても良いと思うくらい優秀だった。
あの場であんな暴挙に出ると思っていなかったので
裏で手を回す事も出来ずに後手に回ってしまった。
あの場で下手に庇えば、連座で父上も母上も処罰されかねなかった。
とりあえず、あの場は静観してルシエルと同じ船に乗り
冤罪が解けるまでは、君の身を隠そうかと思っていたら
あの馬鹿女が急にバカンスとか言い出して。何処までめでたいんだあの女は。
と言うか、国王陛下が海外におられる時に
王太子がバカンスで王城を離れるとか気が触れているのか」
確かに私の記憶を思い出しても
王太子は自他共に厳しい人でしたが
優秀な人だと思います。
あの聖女と出会うまでは。
やはり怪しい。本当に聖女なのだろうか?
「ごめんなさい、私のわがままでしたね。
でも最後に緊急避難で仕方が無かったですが
船が沈む時に私を助けに来てくれたら、
お義兄様のお嫁さんになりたいくらい、惚れてしまいましたのに」
私は少し重くなった雰囲気を和らげる様におどけて言ってみた。
「糞、本当か、せっかくのチャンスだったのに。
私は勿論君を助けに行こうとしたんだが、
またしてもあの女が邪魔をしてしがみついて来て
王太子も脳筋も邪魔をして船に乗せられたんだが
最後まで暴れたら船が沈んでしまってね。
君の姿が見えたんで、飛び込んだんだが、
呪文を唱える暇も無く荒波の中でこの格好では、
私もどうする事も出来なかったんだ」
確かにお兄様の今の格好は、魔術師のゴテゴテした装備にマントの御姿。
水を吸ったらさぞかし動きづらいのは一目でわかった。
何となく自分の近くに流れついた人がお義兄様ではないかと
何処かで確信に近い思いがあったのは
やはり私は彼が私を信じてくれていた様に、私も彼を信じていたんだろう。