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53.渦巻く闇 〜ハーレック

体が熱い、自分の熱のせいか、周りが熱いのか、

それともその両方か。

気持が悪い、何も食べられない。


俺は死ぬのか、こんな辺ぴな小島で、王になる事も出来ずに、

惚れた女に見捨てられて。


惚れた女?

誰だ?聖女か?

違う、俺が心を奪われたのはたった一人の女。

聖女からは、父上がいない間に殺してしまえと言われた。

どうしても出来なかった、あの日あの少女に心を奪われたままだったから。


熱でうなされる中で、優しく頭を抱えられた。

口元に器をあてられる。

どうせ戻すのだ、辛いだけだ、やめろ。


口に含んだ液体は青々しく決して美味いものではないが、

何かスッキリとした、清涼な味がした。


一口、一口、確かめるように口に含まされる液体は、きっと薬なのであろう。

誰だ、こんな小島で威厳も無い、褒美も与えられない、

聖女にすら真っ先に見捨てられて、弱っていくだけの俺に親切などしても意味がない。


薄く目をあけると天使がいた。

あの日、俺から魂の一部を奪いさっていった、酷い天使がいた。

銀色の優しい伸びた髪が好きだった。

少しばかり意地っ張りでむくれる顔も愛らしかった。


「......ルシエルか」

「そうですよ、ルシエルです」

「助けてくれたのか」

「いいえ、ダンさんがズッと看病してくれたおかげです、

あまり心配かけては駄目ですよ」


お前を酷い目に合わせた男をそんな優しい目で見るな。

変わらないな、いやあの時よりも女っぽくなったな。


優しく頭を撫でられた、父上の様に、父上以上の自分になりたくて、

なれなくて膝を抱えて声を殺して泣いていた時に、

こんなふうに優しく撫でられた。


「出会ったばかりの頃」

「はい」

「一度お前にこうやって慰めて貰ったな」

「そんな昔の事なんて覚えてませんよ、ゆっくり休んで早く元気になって下さい」


嘘をつけ、お前が忘れる訳がないだろう。

本当に不器用な女だ。


「ああ、少しばかり眠るとする、久しぶりに良い気分だ」


だがルシエルが帰った後、

まだ熱が完全にひかなかったのだろう、酷い夢をみた。


初めて出会ったのは、子供の頃のパーティだった、

見た目の美しさだけではない、気高い魂に惹かれたのだ。

(ええ、王子が一番最初に見つけたのです)


ルシエルは、王家からの婚約に承諾して、恥ずかしそうに笑いかけてくれた。

(そうです、ルシエルは王子の事を愛しているのです)


たまに怒った顔も可愛かった、だが義理の兄の話をするあいつは嫌いだった。

(そうです、王子もルシエルもだまされたのです)


殺す気など初めから無かった。

(ええ、だって王子の物ですもの)


だがもう手遅れだ。

(ええ可哀想なルシエル、貴方への愛を忘れさせられて、染められていく、

貴方以外の男の物になっていく、貴方は奪われてしまったのです)


ふざけるな、私は民達の為に血反吐を吐く努力をしてきたんだ、私から奪うな。

ルシエルは、ルシエルだけは俺の側にいてくれ!!


(取り戻したいですか?)

ああ。


(ならば、この石をあの女に飲ませなさい)

この石を飲ませれば良いのか。


(ええ、そうすれば、あの女の心も体も貴方のもの、手遅れになる前に)

ああ、誰にも渡さない。


「キャハハ」


どこかで聖女の笑い声が聞こえた。

その次の朝聖女は死んでいた。


私の手には、妖しく光る黒い石が握らされていた。










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