33.嵐の夜に 聖女リリーナ
漂流から十日程度が経ち聖女リリーナ側にも改善が見られた。
特に大きい改善が住居でダンの【解体】が思いの外応用が効いたのだ。
木材が均一に綺麗に解体出来たおかげで、組み木という建築技法程では無いが
木材に凹凸をつけて更に高度の高い鉱物を使って止め釘程度は作れたのだ。
ほったて小屋にすら及ばないが風雨をある程度凌げ、
地面からの虫の侵入もかなり抑えられた。
飲料水については魔法で作った水分だけ摂取すると体調が悪くなる事が体感出来た為に、
川の水をそのまま飲んでいたが、王太子のハーレックは時折腹痛に襲われた。
聖女の浄化魔法かせめて鍋があれば煮沸も出来たのだが、もはや聖女の力はほとんど発揮しない。
晴天が暫く続いた後に昼前からの豪雨に三人は小屋に篭っていた。
「腹が空いたな」
「申し訳ございません殿下、私が外で食べ物をとって来ます」
「よい、こんな雨の中外を彷徨いたら病気になってしまうではないか。
最後まで残ってくれた忠臣はお前だけだ。
国に帰ったら私の側近として支えてくれ。」
「殿下、勿体無いお言葉、死ぬまで殿下に仕えします。」
「ああ、頼むぞ」
ダンは感動の余り男泣きをしてしまった。
「ところで殿下、聖女様が先ほどから木やりを抱えてこちらを見て座っているんですが」
「多分あれだ、襲われるとでも思っているのであろう、気にするな」
「確かにご令嬢が所々破れたドレスで密室にいれば警戒もしますよね」
「・・・本当にそう思うか?
あれに森の中でいきなり出会ったら即座に逃げるぞ」
「ええ、まあ、はい確かに・・・・」
本来のヒロインは際立って美人では無いが、
人柄の良さからくる品のある美しさに能力の【魅力】が働いて、
どのキャラにも好かれる容姿をしていた。
今のヒロインは派手な厚化粧で痛めた肌と高慢な態度で
ギラギラとした獲物を狙う目をしているので、
野性的な魅力が能力による【魅力】で更に磨きがかかって、
よりワイルドな印象を周りに与えている。
「腹が空いたで思い出したのですが、最近筋肉が落ちて来てしまったんですよね」
「結局は体を作るのは良質なタンパク質だからな、僅かな魚だけでは補えん」
「今度狩りにでも出かけますか、聖女様もあの槍で野うさぎでも取ってくれませんかね・・・」
「期待するな、最近大人しく黙っていればそれで良いと思って来たところなんだ。
ほらお前が話し振るからこっち見て笑ってるぞ」
ーーーー聖女リリーナ
何なのよこの男どもは、
何でこの状況でこの絵面なのよ。
私だって別にこの状況でどうにかなるとも思っていないけど、
何で完全に男2、女1で分かれているのよ。
木やりまで持って、私男性怖いですアピールしてるのがいけないのかしら。
だけどそれにしたって男二人で談笑して途中で泣き出すってどう言う状況よ。
あれ?今私の話している?
仕方ないわね、取り敢えず微笑んであげるわ。
それにしても妖精国の王子様も海外の王子様も迎えに来ないわね。
デューク様も見かけないわ、ルイードの奴何やってんのよ。
まあ、そろそろあの女が飢えて死ぬ頃だろうし、ハーレムエンドも近いわね。
そんな馬鹿な事を考えている時間があるのなら、
彼女達はもう少しこの状況を考慮すべきだった。
川沿いの崖に生えている雑草がなぜ一部薙ぎ倒されているのか。
上流で豪雨があった場合に水位がどうなるのか。
古来より川の近くで文明が栄え、滅びる文明もあるのか。
上流で風雨によりせき止められていたいた水は、
泥を含み暴力的な威力で小屋を押し流した。
だが今回に限りこれは神の恩恵。
海岸に流れ着くコンテナを獲得するのに、一方的に悪役令嬢が有利だったから。
ヒロインにも勝利の道筋は用意された。
それを掴めるかはヒロイン次第。
☆評価ありがとうございました。
お知らせするのを忘れてましたので急遽投稿しました。
連載を決めた作品は、基本お昼休みごろ投稿する予定です。
次回は、木曜日のお昼ごろ投稿致します。




