2.現状の把握
ルシエルは浜辺の砂浜で目を覚ました。
少し時間がかかったが必死に状況を思い出すと
断片的にではあるが段々ハッキリと状況を
思い出してきた。
自分がいわれのない罪で断罪された事
罰は離島にある監獄に入れられる事
聖女がバカンスついでについて来た為に当初の船から
中規模ではあるが豪華な船を改造して
船底に牢屋を作り押し込められた事
急な突貫工事のせいか
台風による嵐に耐えられずに船底から浸水して沈没した事。
壊れた船底から命からがら逃げ出した事。
巻き込まれない様に出来るだけ船から離れる為に必死に泳いだ事。
遠くに小型の避難用の船が目に入り
船の上ではあの女とその取り巻きが騒ぎながら乗っており
明らかに定員オーバーの船の上で
嵐の中で無駄に暴れているので
船の中に水が入り少しずつ傾き始めていた事。
自分が覚えているのはそこまでであった
今の状況を考えると船が沈んだ地点から
運良くさほど遠くない島の浜辺に打ち上げられたのであろう。
(・・・運良くか、この島が何処の島かによるわね)
王国の管理する島であれば、さほど時間が経たないうちに
兵士に捕まり、当初の予定通りに監獄に入れられてしまうだろう。
流れ着いた島にもよるが、兵士の常駐する様な島では
逃げる事も隠れる事も不可能で
単純に投獄される前に死にかけただけ損である。
ルシエルは、期待と不安を胸に
自分にだけ使える『鑑定』を島に対して使った。
『鑑定』を唱えると頭の中に
ぼんやりとした島のイメージが浮かび
大体の島の様子が理解出来た。
(・・・ついているわ)
冤罪をかけられ離島に遭難した不運な状況のなかでは
現在の状況は、かなり都合が良い
兵士もいなければ、人が住む建物も船着場も無い
この様子であれば王国の管理外の島なのであろう
定期的に兵士が様子を見にくる可能性はかなり減った。
また本当に小さな島かと思っていたが
そこそこに大きく十分に食料が確保できて
水飲み場や雨露を凌げる洞窟も何箇所かありそうだ。
細かな様子までは現在の自分の能力では分からないが
人間以外の生物もかなり住んでおり、
点在する生物の場所から考えられるのは
大集落で固まってコロニーを作る様な高度な魔物はいないであろう事
そして圧倒的に脅威となる様な大型の怪物もいないであろう事。
自分の能力と僅かばかりではあるが前世の知識があれば
少なくとも直ぐに死んでしまうとかいう事態からは逃れられそうだ。
自分の流れついた島の状態はある程度把握した。
次に考え無ければならない事は協力者を作る事。
脱出した船があの船一隻だった事から
恐らく自分以外に助かる可能性があるのは
あの女とその愉快な仲間達である。
あの女が無人島に自分以外の女が流れ着いたと知れば
まず間違い無く、その女を排除しようとする事は
火を見るより明らかだ。
女王様気取りでハーレム王国を築こうとするに違いない。
あのまま行けば王国の王妃になれたので
女王様気取りもあながち間違いでは無いのだが。
しかも生き残っているのが私と知れば、
嬉々として殺そうとするであろう。
思い出そうと努力したが、あの女にそこまで恨まれる覚えが全くない。
確かに私が転生する前のルシエルの性格は相当酷いもので
リリーナの件が無くとも、お先真っ暗な人生を歩みそうではあったが。
だが、あそこまでの高い殺意を抱かせる程かと考えると
そこまでの何かがあった様なシチュエーションは
とんと覚えがないのである。
出来るだけ早く協力者を作らないといけない。
幸いと言っては何であるが、魔術契約により
あの女も私には近づけない、直接殺される事はないであろう。
心の底からやりたくは無いが
最悪はこの体を使ってでも色仕掛けで落とすしかない。
子供の頃と違って、自分の容姿は散々に批評されたが
体のラインやスタイルはかなり良いと思う。
最悪の相手であれば油断させて殺すだけ
あの断罪の場で助けてくれるどころか
一言でも優しい言葉をかけてくれた人などいないのだから。
まあ容姿を除いても私の性格が最悪だったので仕方ないと言えば仕方ないが
転生したての私からすればいい迷惑だ。
あの女がいくら脳みそピンクでも
四人の男全員から同様に溺愛されるほどのものでは無いであろう。
あの女ではハーレムエンドなどとても無理だったのだ。
それが現在の状況、私ならあそこまで有利なカードを揃えたのなら
断罪相手など放置一択である。
間違い無く優先度が生まれてあぶれる男が出るはずだ。
上手くその男をコントロールできれば
自分であればその男を操って
あの女の殺意を管理できる様になるはずだ。
あの女の件を抜きにしても
最悪一人は協力者を作らないと
木材を二人で両端を持って運ぶ事も
自分が病気になった際に新鮮な水を確保する事すらもできない
また自分は知らないが
あの女と私に特別な能力があって
あの流れになったという事は
恐らくこの世界は乙女ゲームか何かであるだろう
だとすれば攻略キャラにはかなり使える能力があるはず
ここまで考えて直ぐに実行に移る事にした。
最初は下手に考えるより、スピードが勝負。
早めに動いてあの女から可能な限り人材と資材を奪うのだ。
命がかかっている以上は綺麗事など言ってられない
ましてや相手は自分を嬉々として殺そうとしている女。
仁義なき戦いの始まりである。