ルイーザ 第十三部 第三章
教王は教王で別の問題を抱えていた。
実は昔に、粘ったばかりに追いつめられた事があり、ちゃんと逃げる為の脱出路などの策は十二分に準備していた。
だから、すでに信じられないほど遠方の安全圏にいた。
彼らをずっとバックアップしている者達がいたのだ。
だから、恐らくコンラート皇帝の自慢の海兵隊は何も痕跡も見つけられずに混乱しているだろう。
それ自体は教王には自信があった。
だが、今は別の問題が起きた。
それは教王にとって恐怖に近い。
心臓がトゥンクトゥンクするのだ。
それも、魔王クルシュを思い出すとだ。
そのせいで戦う事を躊躇していた。
「どうします? 」
「永遠に生きるなんて簡単な事なのに、人間とは大変なもんですな」
<白きもの>は比較的に冷静に聞くが、<赤きもの>は皮肉っぽく見ていた。
魔のものにとっては呼吸のように出来る永遠の命が人間にとってこんなに難しいものだとは。
「リスクはあったのだ。最初から。彼らの永遠に続く命を受け入れることは混ざり合う事だ……。彼らの代々の魂……いや心をそのまま受け継ぐことになる。だから、より強く自分の考えを持たねばならない」
そう教王が言いながらも心臓はトゥンクトゥンク止まらなかった。
「いや、御奈神楓の武藤亮……魔王クルシュへの心を受け止める準備も心構えもあったのだ」
そう教王が言うと、トゥンクトゥンクだけでなく、バクバク心臓の音が言い始める。
「つまり、バクバクは計算通りだけど、トゥンクトゥンクは計算外だと」
冷やかに<白きもの>がつぶやくと、<赤きもの>が吹き出しそうになって伏せた。
「いや、普通、レバー握ってて惚れるってある? しかも、あんな男にだぞ? 」
「いや、それは人それぞれですから」
<白きもの>はどこまでも冷静だった。
そう、とんでもないことが起きていた。
身体に使ったアルフォソ王子が魔王クルシュに惚れてしまったのだ。
なので、魔王クルシュの事を考えると、御奈神楓とアルフォソ王子の動悸が止まらない。
「ついに多重人格の恋愛物語になった訳ですね」
<白きもの>が冷やかに言うと、とうとう耐えきれず<赤きもの>が腹を抱えて笑い出した。
「いや、仕方ないだろう? 」
「仕方ないでは済まないんですよ。貴方に力を貸している、あの御方がお怒りになられているんです」
<白きもの>がそう言うと、爆笑していた<赤きもの>も無機質な顔になって教王を見た。
「分かっている……分かっているとも……」
教王がそう答えた。
でも、トゥンクトゥンクもバクバクも止まってくれなかった。




