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ルイーザ 第十二部 第七章

「ポロポロ逃げてますよ」


 クリトラオスがそう告げる。


「なななな、何やってんだぁぁぁ! 」


 もう艦艇が望遠鏡がいらない距離まで詰めていて、それを見ていたカルディアス帝は頭を抱えていた。


「麗王は真っ裸の魔王クルシュの方にキレていますね。まあ、酒と武の神のバルカス神にキレてるんでしょうが」


「まあ、泡を吹いてるもんな。魔王クルシュ」


 そう苦笑しながらロイド法王の言葉にコンラート皇帝が笑いながら話す。


「おいおい! せっかくの必殺の状況だったのにっ! 」


「まあまあ、もう、海兵隊を降ろしてるから」


 そう舌打ちするカルディアス帝に対してコンラート皇帝が宥めるように、自分の艦隊から次々と小舟が降ろされて海兵隊が完全武装で教団の追撃戦に入らせた。


「まあ、どの道、もう限界ですよ。スタンリー公爵軍は。相当無茶苦茶して来たみたいですね」


 ロイド法王がふらふらになった騎馬兵が限界にきて騎馬を陸揚げさせてへたばって立てなくなってしまうスタンリー公爵軍の精兵を見て呟いた。


 流石にここまでの無茶な進軍と奇襲攻撃と、何より海上攻撃はすっかりスタンリー公爵軍の騎馬兵をへたばらせていた。


 実に進軍して来た強行軍としてのその距離とボウガンの最接近の火力による奇襲からそのまま騎馬による海上攻撃は、事実上、この世界の戦史に残るような戦いであった。


 へたばって当たり前なのだ。


 だが、一人だけへたばらずに漁船の上で刀で相手を斬ろうとして両手で掴まれてにらみ合いを続けている二人がいた。


 それは麗王と酒と武の神のバルカス神に操られた魔王クルシュであった。


「死ねっ! 死んでしまえっ! 」


「愛しの(りょう)君が死んでしまうよ」


「やかましいわぁぁぁぁ! 許せる限度があるわぁぁぁぁ! 」


 凄まじい二人の罵り合いが延々と続いていた。


「どうするんですか? あれ? 」


 クリトラオスが旗艦の上でカルディアス帝に聞いた。


「もういいよ。追撃の方が大事だし」


「まあ、それはこっちでやるよ。こっちは無傷の海兵だしな」


 そうコンラート皇帝が苦笑した。


「いや、そうも言ってられない。逃げたらまた洗脳で兵士を増やされる」


「まあ、そのあたりも計算して、どの程度の洗脳の香があるかどうか知りませんが、我々の方で追加で香を手に入れるのは無理なようにしておきました。だから、向こうも無限に兵を増やすのは難しいでしょう」


 そうロイド法王がちゃっかりと答えた。


 こういう所は本当に抜け目がないのだった。


 それゆえ、皆が一目置いているのだ。


「まあ、追撃して奇襲されても仕方ないしな。今日はいろいろあり過ぎた。疲れているお前達は追撃はちょっとやめて置け。敵の守護神が海神バルバトースだけとは限らないしな」


 そうコンラート皇帝も抜け目がなく警戒しているのが分かった。


「いや、お前らが少女漫画だの、ボーイズラブだのワクワクしなかったら、ここまで揉めないで終わっただろうが! 」


 憤懣やるかたなくカルディアス帝が叫んだ。


「いやいや、数百年振りにインパクトがあったので……」


「確かに、久しぶりに見ると凄い感動的な背景の風景だったからな……」


「素晴らしかったです」


「やかましいわぁぁぁ! 」


 クリトラオスが目を輝かせて言ったのでカルディアス帝が我慢できずにコブラツイストをかけた。


「ぐあああああああああ! 」


「ぬおおおおおおおおお! 」


 艦艇の上ではクリトラオスの悲鳴と、漁船の上では酒と武の神のバルカス神が魔王クルシュの身体を使って未だに真剣白刃どりのまま麗王と睨み合っていた。


 かくして、絶好のチャンスははかなくも酒と武の神のバルカス神によって破壊されてしまった。


 これが今後、どういう風に動くのか全然分からなかった。


 


 


 これでこの第十二部は終わりです。


 次回は来月の投稿になります。


 いつも、読んでいただいてありがとうございます。

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