ルイーザ 第十二部 第五章
そこに凄まじい速度で馬をそれぞれ一頭別で連れた騎馬隊が進撃して来た。
それは麗王であった。
麗王は少ない軍団をさらに半分に減らして、馬を一頭交代で乗れるようにして、さらに絞った精兵を連れて最速で追って来ていた。
実にスタンリー公爵家の精兵ぞろいを集めたら、叔父である将軍が選ばれなかったのは悲しい事実であるが、一番若手で指揮能力が高いクリス部隊長とベテランのテイラー部隊長の二枚看板である。
戦場が近づくと、全ての騎兵がもう一頭の馬を手放した。
そして、それは信じがたい速度で海神バルバトースの神殿の裏手から突撃を開始した。
本来なら、まだ結界を張ってあるはずが、ドキドキして岩の陰から覗き見をしていた為に、ドキドキしすぎて結界を忘れて、完全に海神バルバトースの防御が無くなっていたのが仇になった。
魔王クルシュが考案した接近で一撃必殺のボウガンを使用した攻撃である。
敵が集中している場所で一撃必殺で最大級の火力を叩きつける、実は島津の戦国時代の作戦であった。
ボウガンと火縄銃の違いはあるものの、本来騎馬武者は卑怯な武器を持たないと鉄砲を嫌っていたが、島津家では逆に全員が腰に長さを切り詰めた火縄銃をいつでも撃てる状態で所持しており、それを必殺の状況で全員で近い距離で使うのだ。
この火力を釣り野伏せと言われる相手をおびき寄せて一気に潰す戦術の要で使う。
幕末に薩摩武士に斬られた斬り口を見た外国人医師が、こんな斬り口は剣では無理だとため息をついた異常な威力の薩摩示現流はまだ江戸時代に入ってからであって、大量の鉄砲の集中投入が実は戦国時代の島津の強さの一つだったのだ。
それをボウガンで行った魔王クルシュの必殺の攻撃作戦はここで遺憾なく発揮された。
教王の漁船団は水龍神ラトゥースの攻撃を回避する為と海神バルバトースの結界の防御を信頼していた為に、神殿の岸に近い所に集結していた。
それが裏目に出た。
まさか来るはずの無い神殿側からの奇襲であり、王国最強と言われたスンタリー公爵家の最大の攻撃力がそこで遺憾なく発揮された。
しかも、皆は魔王クルシュの中の酒と武の神バルカス神とアルフォソ王子の中の教王の異様な異様な戦いに集中していた。
何しろ、海神バルバトースすら防御ほったらかしで覗いて見てたくらいである。
それで、次々とボウガンの矢を至近距離で受けて絶叫して漁船団に乗る兵が死んでいく。
しかも、その攻撃がもう一撃入った。
それぞれが連れていた馬は邪魔なので突撃前に一旦放したが、それに積んでいたボウガンは持って来ていて、二段攻撃できるようにしていた。
動揺する兵達の間にボウガンの最接近した二撃目が入る。
馬で海に飛び込んで相手の船の近くに行けるほどの近さであった。
そのボウガンの威力は鉄砲に負けるものでは無かった。
四大守護者ですら負傷した。
油断していた<黒きもの>と<青きもの>が負傷したのだ。
そして、もっと教団にとって不幸なことが起こった。
スタンリー公爵軍は強兵であるが、今回は二分にした兵力のさらに半分と少数精鋭の部隊であった。
それゆえに、強敵に対して無謀と言える奇襲を行うという事で、皆が相当に気を入れて襲撃していた。
「大丈夫かっ! 」
裸の魔王クルシュを見て麗王が叫んだ。
酒と武の神のバルカス神が自分の守護神であるので無茶をするのを知っていたから急いで追ってきたのだ。
「え? 」
「は? 」
レバーを殴られながらマウントパンチを繰り返していた魔王クルシュの中の酒と武の神のバルカス神とアルフォソ王子の中の教王が唖然として麗王を見た。
それは男同士で乳繰り合っているようにも見える戦いであった。
「ああああああああああああ! 」
麗王は憤激して剣を抜いた。
それにスタンリー公爵軍も続いた。
全員が騎馬なのに海にある漁船団に抜剣して突撃すると言う異様な攻撃が始まった。




