ルイーザ 第十部 第ニ章
何とか異常な鉄砲水の洪水を避けて、自分が用意した艦船に乗ったカルディアス帝達であったが、海の上で暗い顔をしていた。
「参ったな」
カルディアス帝がまたしても呟いた。
「あいつら、やはり逃げてたのかよ」
「信じられませんね。こないだの災害で漁船があちこちに陸揚げされていたとは言え、こんな首尾よくそれを使えるなんて……」
コンラート皇帝とロイド法王が呻く。
大量の漁船に分散して教王の配下達が乗っていた。
それは、カルディアス帝の艦隊のいる場所から離れて、遠くの海を迂回して、別の陸地を目指して進んでいた。
「随分と水龍神ラトゥースには酷い目にあっていたから、それで準備していたのか? 」
「可能性はあるな。そもそもオルス帝国の北部が水龍神ラトゥースによって滅茶苦茶にされたのは見ているわけだから、当然、それに対しての対策はすると言う事だろう。お前もしてたしな」
カルディアス帝の愚痴にコンラート皇帝が答えた。
「とすると、お前も艦隊を用意していたのか? 」
「ああ、このタイミングでうちの艦隊を回すことは出来なかったがな。今、それを呼ぼうか呼ぶまいか迷っている」
コンラート皇帝が暗い顔をしていた。
「だよな。うちもその後の艦隊での戦いを考えていたのだが、あれだけ助かっていたのを見ると逃げるべきだよな」
「私もそう思います」
カルディアス帝の冷やかな言葉にロイド法王が頷いた。
「いやいや、待ってください。何でですか? 相手は漁船に乗っているんですよ。弓兵と四大守護者とやらも向こうに居ますが、こちらだって軍艦ですし、神の加護がある貴方達がいるじゃないですか」
そう必死になってクリトラオスが今こそ戦機と騒ぐ。
「いやいや、助かりすぎてるのがまずいんだ」
「ああ、分かりますねぇ」
「絶対にこれでもかが来るだろ……」
カルディアス帝達が凄く暗い顔でぼそりと呟いた。
「な、何を言ってるんですか? 」
「いや、水龍神ラトゥースはそう言う性格だから……」
そうカルディアス帝がため息ついた。
「とにかく、離れましょう」
「もう、遅いかもしれないけどな。俺が連絡しないと、うちの艦隊は来ないから、うちの艦隊はとりあえず様子見という事で……」
ロイド法王とコンラート皇帝がそう話す。
「いやいや、そんな馬鹿な……」
クリトラオスが眩暈を起こしているような顔をした。
だが、その時に一陣の風が吹いた。
海の向こうに異様な黒々とした雲が拡がりだす。
「あーあーあーあーあー」
「変わんないなぁ。あの女神様は」
カルディアス帝とコンラート皇帝が悲しい顔をした。
そして、その異変を感じたのだろうか。
教王の方側の漁船団が一斉にスピードをあげて陸地に向かっていく。
「とにかく、あの漁船団から離れて回避運動を……」
カルディアス帝が指示を出して漁船団から離れる方へ艦隊の舵を切った。
「今度は嵐かな? 」
「困ったものですね」
コンラート皇帝とロイド法王の諦観した言葉が辛い。
次々と黒く染まった雲がこちらに向かって来るとともに海が荒れて来た。
その出現した嵐はまっすぐに教王の漁船団に向かっていた。
木の葉のように漁船が波を舞いながら進んでいく。
漁船とは思えない凄まじいスピードだ。
かくして、水龍神ラトゥースのこれでもかが始まった。
慣れない船の揺れで、カルディアス帝の兵士達はゲーゲー吐いていた。




