ルイーザ 第七部 第五章
投稿終わったと思ってました。
すいません。
「こないだ会ってから、十日くらいだったよね」
そう天幕の中で椅子に腰かけて、魔王クルシュの変わり果てた姿を見てポツポツとロイド法王が話す。
優しく話しかけるのは前世と合わせて、長い宗教活動の習慣だった。
こうやって話しかけて、相手の言いたい事を聞く。
反論はしてはいけない。
まずは相手の話したいこと、積もりに積もった気持ちを静かに聞く。
そうやって、落ち着くのを待ってから話す。
全てを肯定的にとらえて否定的な話はしない。
彼の場合、ガルビュートの加護もあるので、その力で病気を治すなりは簡単に出来た。
「あの、犬の方は……」
側近の僧侶がそう犬を抱いたままなのを、何とか離そうと話しかけた。
「いや。これはルイーザだから」
そう魔王クルシュが僧侶の犬を抱こうとした手を拒否して、そのように答えたのでロイド法王の目が見開いた。
ヤバいと思ったのだろう。
だが、それは側近の僧侶達にとっても初めて見る動揺したロイド法王の姿だったので驚愕していた。
長い経験で、ロイド法王は困った人や心を病んだ人、病気の人をたくさん見て来た。
生まれ変わる前もその前もやっていたので、それはとてもとても長い経験だ。
だが、前世をともにした友人が壊れているのは初めてだった。
縛王は壊れている男だが、それは信念のある壊れ方だった。
だが、魔王クルシュの壊れたのは自分も目の前で見た、前世から恋愛関係にあり、この世界に転生しても愛し続けた女性に拒否された為だ。
根本は恋愛の相談で無ければならなくて、それは彼にとって長い年月をかけた経験をもってしても不得手だった。
「ええええええと……」
困惑しきった顔でロイド法王が黙る。
側近の僧侶は普段の完璧なロイド法王の姿を見ている事もあって、敬愛する自分達のロイド法王が困惑しているのを少し新鮮な顔で見ていた。
「ルイーザが寄りを戻してくれるように、像を岩に彫って祈りを捧げていたんだけど、何故か像が割れて駄目だったんだ。それで、気が付いたんだけど、ルイーザに祈りを捧げるんじゃなくて、俺の愛する人だった麗王に捧げないと駄目だって気が付いたんだ。それで、もう一度、麗王を掘りなおして祈りを捧げていたんだけど……」
そう魔王クルシュが淡々と話す。
「なるほど」
といつものように相槌を打ったロイド法王だが、目が泳いでいた。
非常に困惑しているのが分かった。
側近の僧侶達は常にどのような問題でも鮮やかに対応していく、まさに法王の中の法王であったロイド法王の困惑した姿にちょっと感動していた。
あのロイド法王でも困惑するんだ……と。
「多分、祈りが間違っているんだと思う。俺の祈りのやり方がおかしいんだと思う。再び自分が精魂込めて彫った麗王の像が崩れてしまった。それで、頭を剃って精進したらとやってみたんだけど、解決にならない。それで、ここに来てどうやったら良いか教えてもらおうと思って。化王……いや、ロイド法王なら祈りの方法を知っているはずだと思いついて……」
そう魔王クルシュが真剣な顔でロイド法王を見た。
普段のロイド法王なら、まずは相手と良く話し合う事だ、貴方は麗王ととことんまで話し合って見るべきだなどと言うだろう。
だが、友人だっただけに麗王の性格を知っているだけに、あの麗王ならさらに容赦なくズバリと言うだろうから、こいつ死んじゃうよなって思って躊躇していた。
麗王に巡り合いたいと長い長い間魔王クルシュは祈り続けて、転生した麗王に巡り合った。
それで、やっと会えたと大切にして、麗王の為にその家を守り続けていた。
麗王にもう一度会って、また一緒に共に傍で生きていたい。
それだけが支えだった男がそれを麗王に否定されて憔悴し、再度の話し合いをすれば、麗王が昔の経験からさらに容赦の無い言葉を吐くのは目に見えていた。
「あ、あー、えーと」
ロイド法王の動揺した姿を新鮮な目で見ていた側近の僧侶を呼んだ。
側近の僧侶が耳を近づけた。
「あの……カルディアス帝を呼んできて」
そうロイド法王は囁いた。
側近の僧侶からしたら、初めての応援を頼むロイド法王だった。
それはあまりに新鮮で何故か目を輝かせて自分を見ている側近の僧侶をロイド法王は訝し気に見ていた。




