ルイーザ 第七部 第二章
最近の魔王クルシュは朝五時過ぎには日が昇りだす前に起きていた。
彼は山の奥の洞窟で仙人のような生活を始めていた。
そばには柴犬に似た野犬の子供を大切に育てていた。
雌でルイーザと名付けていた。
「ふふふふ、ルイーザ元気かな? 」
そう言いながら、谷川の水で顔を洗った後にその子犬のルイーザを撫でた。
「キャンキャン」
雌犬のルイーザは嬉しそうに吠えた。
「ふふふふふふふふふふふふふ。気持ち悪くないよね。大きくなって近所の変態のおじさんとかお前は思わないよね……。そうだよね……」
そう言いながら雌犬の子犬のルイーザを撫でた。
ルイーザは嬉しそうにしていた。
そうしたら、ハラリと涙を流した。
「昔はおじさんおじさんと慕ってくれたのに……」
魔王クルシュが涙を流し続けていた。
雌犬の子犬のルイーザは落ちこんだ魔王クルシュを元気づけようと一生懸命まわりをチョコチョコしていた。
魔王クルシュは涙をひとしきり流すと川に浸かって、手を土手に突っ込むように漁る。
「朝食を作ろうな」
魔王クルシュは元気な雌の子犬のルイーザに声を掛けた。
魔王クルシュは修験道を真似したのか、そば粉を大量に持ってきて、蕎麦がきにして食べていた。
だが、これでは、栄養は偏るし、子犬も食べるものでは無い。
それで、雌犬の子犬のルイーザの為に最初の計画をやめて魚を採るようになっていた。
蕎麦粉を持って来たのは、いわゆる山の修験者にある五穀を絶つためであった。
肉と魚をやめて菜食主義者として修行するのは良くあるが、修験道ではさらに進めて五穀を絶つものも多い。
それは穀物の美味いものを捨てて、人間の原点に戻るためのやり方なのだ。
修験道は江戸時代辺りは凄く厳しくて、修行途中で挫けたら脇差で自決したり、真冬の川の水を氷を破って汲んで被り、それによって背中があかぎれとかのでかいのが出来てぱっくりと大きく割れても、激痛の中でそれを続けて夜中にみそぎして、山の洞窟などの寝泊まりしている場所でも、激痛に呻きながら睡眠もまともに取れずに死ぬまでやるものもいた。
だが、見れる人なんかによると、昔はもっとラフで簡単で、今の日本人がやるようなキャンプみたいなノリでやっている人もいたようだ。
何しろ、昔は娯楽が無いのだ。
清少納言の話なんかだと、僧侶の祈祷とかはコンサートで歌手が歌っているノリで宮廷の官女は見ていたようだし。
神仏とつながるとか深い方向に行くまでは案外軽い人もいたのではないかと言う感じだ。
で、この雌犬の子犬を拾ったばかりに魔王クルシュの自分を見つめなおす為の山籠もりはすでに雌犬の子犬のルイーザを育てる為のものに変質してしまった。
水温が下がってあまり動かなくなった魚は、探るように手で触って、土手に押しつけるように両手で掴まえられた。
原始的な方法だが、意外と掴まえられるものなのだ。
で、それを内臓を抜いて串を刺して、蕎麦粉と一緒に持って来た塩を振りかけて、焚火の遠火で焼く。
いつの間にか、本人の修行の為が、雌犬の子犬のルイーザの為の生活になるほど、やはりルイーザに未練たっぷりなのだった。
何しろ、六王時代からずっと待っていたのだ。
そりゃ、すぐには諦められない。
「ああ、危ないぞ、ルイーザ! 」
美味しい魚を食べて、まだまだやんちゃな子犬の雌犬のルイーザが川に落ちそうになったのを慌てて掬いあげた。
そして、それはちょうど説得しようと訪ねて来たクリス部隊長とスタンリー公爵の目に止まってしまった。




