第三部 第二章
そして、実際に魔王クルシュは王城に居た。
前回に悲鳴を上げて逃げたしたのが敗走のきっかけになったせいで、すでに国王も悪し様に罵り、アルフォソ王子は部屋に閉じこもるだけになってしまっていた。
さらに、オブライエン侯爵の長子フランクは負けたものの宰相のバイロンの政治的な行動で、その敗走にも関わらずオブライエン侯爵家を継ぐ事が決まっていた。
それで、宰相のバイロンはオブライエン侯爵の長子フランクを侯爵にする為にさらにアルフォソ王子を批判することで正統性を訴えた、そのせいで王子は居る場所が無くなってしまっていた。
元々、アルフォソ王子はオブライエン侯爵家に嫁いだ他国の王の娘の血を引いている事もあって、名前が少し系統が違う事もあって、元々一歩置かれていたのがさらに酷くなっていた。
メイドすら話しかけないし近づかないようになっていたのだ。
それを魔王クルシュが目を付けた。
可愛そうなアルフォソ王子、とか言って嫌がらせを止める様な魔王クルシュでは無く、逆に大喜びで追い詰めていた。
昨晩も王子の部屋の窓を外からガタガタ言わせたり、鳥を絞めた後の血を使って、壁に血まみれの手の跡を演出したり、大活躍だった。
アルフォソ王子は最初は悲鳴を上げて召使や衛兵を叫ぶように呼んだが、さらにそれが王子の立場を追い詰めた。
衛兵の中にはだから最初に逃げだすんだと吐き捨てる始末である。
「ふふふふふふ、これで奴は再起不能だ」
そう魔王クルシュはほくそ笑んだ。
かっては武王と名乗り恐れられるほどの人並み外れた武術の腕と鍛え抜かれた体躯は昔から碌なことに使われていなかったが、今回もまた生前のように馬鹿な事をしていた。
彼は潜入の能力も優れていたが、それは戦争に使うよりは、嫌がらせに使う性格であったのだ。
確かに悪い噂を流されて武王としての立場は魔王に置き換えられたが、それは多分に本人の行動によるものだった。
敵よりも仲間を驚かせる為に、前夜に1人で汗みどろになって、罠を仕掛けるのが彼のいつもの事だったのだ。
そして、すっかりアルフォソ王子が夜に叫んでも誰も来なくなったので、さらに魔王クルシュは喜んでいそいそと王城の外から壁伝いに移動していた。
だが、その日は様子が違った。
王城の気配がおかしい。
何かがいる様な気配がした。
「なるほど、本当に何かいるのか? 」
そう魔王クルシュが窓の外から中を見た。
何か白く光るものがいる。
どうも、魔王クルシュが最初に封印から離脱したように魂だけで歩いているものがいるようだ。
しかも、それは少年のようだ。
品の良い貴族の服を着ていた。
それを一目見て魔王クルシュが窓を叩き割って中に入った。
それは魔王クルシュが知ってるものだった。
「貴様……」
魔王クルシュが絞り出すようにそう呟いた。
「ほう、やはり封印を離脱したか」
その少年は半透明な身体を揺らがせながら、そう冷やかに笑った。
「……縛王」
そう魔王クルシュが右手を挙げるとそこに雷光が集まり、あの長大な斬馬刀を出した。
「雷撃を使うための剣か? 本来のお前の能力は水だろうに」
そう縛王が苦笑した。
「黙れ! 麗王の仇を取らせてもらう! 」
「だろうな。他の連中はお前に執着しているものはない。あれから三百年経っているからな。もう、皆、あの時の思いは忘れてしまっている。だが、お前は違う。だから、私がやるしかない。しかたあるまい」
そう縛王は淡々と語った。
「何を偉そうに! 元々幼馴染だったのに貴様が裏切ったのでは無いかっ! 」
「それはこの世界に来る前の話だ」
「そうやって冷静に否定するのか! 貴様が俺達を嵌めたのはその幼馴染の関係からでは無いかっ! 」
「ふむ。そうであったかな? 」
そう縛王が不思議そうな顔で首を傾げた。
「ふざけるなっ! 」
それが魔王クルシュを激高させた。
魔王クルシュが斬馬刀を一閃させた。
それによって、周りの壁ごと縛王を斬った。
だが、縛王は平然としていた。
いや、呆れていた。




