第一部 第二章
「どこへ行っていたのよ」
そうお母様が私の遺体のある客間に来るなり叫んだ。
「いや、自分の部屋に……」
私がしどろもどろで答えた。
「はあ……だから、いけないのよね。スタンリー公爵家って……」
そう母がそうため息をついた。
どうしても王国の最高位の為身分が合いにくいのと辺境で敵地の近くで敵と戦う役目を持っているのと魔王クルシュの管理もあるので、我がスタンリー公爵家は結婚が非常に難しい。
嫁いで来るような酔狂な家が無いのだ。
何しろ、同格の家もないため、伯爵家くらいまでで探すことになる。
そうすると、伯爵家とか貴族の娘は嫌がってこんな辺境に来ない。
武で売っている公爵家なので、余計に近寄らない。
結果として、分家とかから婚姻相手を探すことになる。
そんなわけで、母にもスタンリー公爵家の血が流れているのだ。
だから、普通に死んだ人間が見えたりするわけだ。
「え? お嬢様が? 」
そうメイドのキャシィ達があたりを見回していた。
「おうおう、やっと爺ちゃんのとこに来たか」
そう大喜びで古い軍装と勲章を付けたおじい様が両手を拡げて大喜びで現れた。
勿論、おじい様は死んでいる。
「いい加減に父さんは逝くとこに逝けよ」
お父様が冷やかに答えた。
「いつまで居る気ですか? 」
お母様も冷たい。
我々の世界では亡くなればそれは天界と言うヴァルハラに逝くのだが、我が家はその辺フリーダムであった。
「いやいや、冷たいな! お前達っ! 」
おじい様が酷く傷ついたように答えた。
「そんな場合じゃ無いんです! そもそも、娘は死んでも生き返ります! 」
そうお母様が断言したので、メイドのキャシィ達だけでなく私もびっくりした。
「ええええ? 」
「このスタンリー公爵家だけは何でもあるのよね」
そう皆が騒いでいた。
いや、確かにそうだけど。
ぶっちゃけ、それは魔王クルシュが手伝っているに他ならない。
「え? 私、生き返るの? 」
そう私が魔王クルシュを見た。
「お前に死なれたら困るから、俺があらかじめスタンリー公爵のお前の父と相談して反魂の御業をかけておいた。しばらくはかかるが生き返るだろう」
そう魔王クルシュが笑った。
「いつも、そうやって助けてくれるけど何かあるの? 」
私がそう聞いた。
「いや、まあ、いろいろとな……」
そう魔王クルシュが目を反らせた。
「私、貴方の事、全くタイプじゃ無いんだけど」
そう私がそう話すと魔王クルシュがゲハッと言ってその場に倒れ込んだ。
「おおおっ! 魔王クルシュ殿っ! 魔王クルシュ殿っ! 」
祖父が必死に魔王クルシュを揺り動かしていた。
「お前……そういうだな。相手の気持ちを何となく分かってて、直球とかだな……」
お父様が本気で呆れた顔をした。
「だから、婚約破棄されるのよ」
そう母親まで泣きそうに呟いた。
いや、まさか、あの魔王クルシュがそうとは思えなかったんだけど。
「あの……遊んでいる場合ではないのでは? 」
辺境軍の将軍でもある叔父様がいつの間に部屋に居てそう突っ込んできた。
「そ、そうだな」
お父様がそう思いなおした。
「叔父様。勝てそうなの? 」
「勝てるわけ無いじゃん」
そう叔父様はあっさりと答えた。
根は悪く無いのだけど、叔父様は正直に言ってしまうので、あまり軍事には向いていないと思う。
それを聞いてお父様とお母様ががっくりと項垂れた。
叔父様の分析能力だけは凄いのでしょうがないのだが。
「まあでも、魔王クルシュ殿が居るからな」
そう叔父様は笑った。
思いっきり笑える話だが、私がベットから落ちそうになった時に救ってくれてから魔王クルシュは普通に屋敷にいた。
そして、その時にオルス帝国に攻め込まれたのだが、魔王クルシュが教えてくれた作戦で勝った。
ぶっちゃけ、ここの所のスタンリー公爵家の勝ちは全部魔王クルシュの作戦能力の御蔭だった。
どこが武のスタンリー公爵家なのだが笑うしかない。
「では、お義父様。約束は守ってくださいね」
そう倒れていた魔王クルシュが立ち上がってそう答えた。
「お義父様? って……え? 」
私が不安な顔でお父様とお母様を見た。
そしたら、目を反らしやんの。
ま、まさか……。
「売ったの? 私を売ったの? 」
そう私が叫んだ。
そしたら、お父様とお母様がさらに目を反らした。
「我らは王家に近いこの国の大貴族。ならば政略結婚と言うのはある事なのだぞ」
そうおじい様がうんうんと頷いたので殴った。
「ふざけんなぁぁぁ! 相手は魔王やんけぇぇぇぇ! 」
私がそう叫ぶと、ササササとお父様もお母様も魔王も叔父様すら部屋からいつの間にか消えた。
ま、マジで娘を売ったのか?
信じられない。
私が衝撃のあまりお父様とお母様を探すが姿が見つからない。
スタンリー公爵家は逃げ上手とか言われる所以である。
戦争で戦う事は、まず生き残る事。
生きていれば必ずいつかは勝てると言うのがスタンリー公爵家の家訓でもある。
でも、その為に私が生贄とかトンデモナイ。
「婚約破棄されたばかりの娘を生贄に差し出すなぁぁぁ! 」
私が絶叫した。
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その時点でオブライエン侯爵家は自分達の貴族の軍では無く、国王直属の近衛兵を動かすことで、国王の意志としてのスタンリー公爵家の討伐を国民に知らしめようと意図していた。
だが、国家の危機を常に守って来たスタンリー公爵家の討伐は近衛兵の将軍が拒否した。
そこで、オブライエン侯爵家は虎の子の魔王クルシュが公爵家の娘のルイーザに施していた特殊な魔法の痕跡から、魔王クルシュの封印をスタンリー公爵家が解いた責任を問う事にして、近衛兵の将軍を解任して強行しようとした。
だが、魔王クルシュをスタンリー公爵家が封印している事は極秘の話で、しかも数百年前の話の為、普段から死者とか見えるスタンリー公爵家とオブライエン侯爵家でもない限り理解できないので、ドン引きされるだけで終わった。
仕方なしに、近衛兵を諦め、篭絡した国王にアルフォソ王子を旗印にして攻める事を無理矢理納得させて、自分に近い貴族の連合軍を作り王都を南下した。
これがオブライエン侯爵家とオルス帝国の挟み撃ちの決定的な時間の遅れをもたらし、スタンリー公爵家にとっての各個撃破のまたとないチャンスをもたらしたのに、ルイーザが魔王クルシュと父母を探し回るので、スタンリー公爵家の出陣も遅れていた。