第二部 第五章
「で、またしても今度はオブライエン侯爵の長男のフランクが王子と共にこちら攻めて来るようですが」
そうジョージ部隊長が報告した。
一番年上の為に、諜報とか相手の情報を集めたりするのは彼の仕事だった。
「まだ、私のルイーザに未練が……」
魔王クルシュが鬼のような顔で悔しそうに呻いた。
「いや……」
「それは……」
他の部隊長達はルイーザがいるので、そこから先は話せない。
「はあ、もう良いよ。アルフォソ王子様の話は……」
深い深いため息をついてルイーザが呟いた。
「おおおおおおおおおおおおおお! やっとやっと、俺の気持ちにっ……」
「ねえわ! 」
そう言うと又も魔王クルシュの股間を激しくルイーザが蹴った。
「うぅぅぅぅぅ。ご褒美ぃぃぃぃ」
魔王クルシュが痛そうなのと嬉しそうなのが混じった複雑な顔をした。
そのせいで、さらに皆がドン引いた。
「えええと。頼むから、元は王子の婚約者で彼が国王になったら后になってたわけだから……。その……もう少し淑女としてだね……」
スタンリー公爵が悲しそうに娘を見た。
「いや、もう。終わった事だし」
凄く寂しそうな目で窓の外を見た。
「大丈夫。俺がいるよ」
そう言った途端、魔王クルシュの顔にルイーザの蹴りが加えられた。
「うひひぃぃ」
魔王クルシュが血を吹き出しながら嬉しそうだった。
それを部隊長のクルス達がぞっとした顔で見ていた。
「なんだろう。あんまり……こう……幸せな未来が見えて来ないね」
ルイーザと魔王クルシュを見て叔父の将軍が呟いた。
「いや、俺的には嬉しいんだけどな」
そう魔王クルシュが笑った。
「変態だ」
「変題だよ」
「変態が止まらないな」
クルス部隊長やアルバート守備隊長とかが呻く。
「いや、一番大好きな人だったからな。三百年以上前だが……」
そう魔王クルシュが懐かしそうに呟いた。
「いやいや、私はその人じゃないって何度も言ったよね。そんな記憶なんか無いもの」
ルイーザが呆れたような顔で話す。
「ああ、良いんだ。こんな感じだったんだよ。俺も意地を張って愛してるって言わなかったんだ。幼馴染でずっと一緒だったから。いつでも言えると思ったから……でも、そうじゃ無いんだよな。気が付いた時にはもう言っても返事が貰えなくなってしまった」
そう魔王クルシュが淡々と呟いた。
「え? 」
ルイーザが凄く驚いた顔をした。
「人はさあ。言える時に言っておかないと駄目なんだ。だから、俺は毎日ルイーザには言うよ。愛してる」
魔王クルシュが凄くしんみりとした顔で笑った。
「いきなり、そう言う方向で来られるとこちらも困りますよね」
そう叔父の将軍が苦笑した。
「まあ、いろいろあったんだね。詳しくは聞いて無いけど」
そうスタンリー公爵が苦笑した。
「いや、まあ良いんですけれとね。なんか神宝を持ち出したとか、妙な噂が王家から出ているんで、それだけが心配なんですがね」
しんみりとした雰囲気を壊すかのようにジョージ部隊長がさらに追加の情報を出した。
「ああ、それは想定してる」
そう魔王クルシュが笑った。
その目が生き生きとして、それを待っていたかのようだ。
その目に皆が一瞬飲まれて黙る。
「ま、まあ良いんですけどね。で、魔王クルシュさんは何がしたいんです? 」
ふと目を細めて、ジョージ部隊長が念を押すように聞いた。
「いや、ルイーザと結婚したい」
「また、それですか……」
絶句したようにジョージ部隊長が苦笑した。
「いや、まあ。ルイーザが了承したら良いんだけどね。そっから先を聞きたいんだと思うよ。私も聞きたいし」
そう叔父の将軍がそう聞いた。
「とりあえず、今度は六王に負けない。いや四王か? 」
そう魔王クルシュが呟いた。
「六王支配とか、今やうちの家とか王家とかごく一部しか知らないもんな」
困ったようにスタンリー公爵が呟いた。
「六王支配? 」
「何、それ? 」
部隊長達が不思議そうな顔をした。
「いや、神話の範疇だけど、昔は世界は六人の王に支配されていたって話さ。もう神話が適当に抹消されたりして、その六王に支配されていたって話しか残って無いんだけどね。実は」
そうスタンリー公爵が苦笑した。
「で、魔王クルシュってのは実は六王の一人なの? 」
叔父の将軍がそう、ふと聞いた。
「ああ。嵌められた」
そう魔王クルシュが答えたので部隊長達がざわりとした。
「つまり、復讐すると? 」
ジョージ部隊長が冷やかに聞いた。
「いや、今度はちゃんとやり直したい。それだけだよ」
そう魔王クルシュが苦笑した。