第二部 第二章
第二部となってますが、幕間的な話だと思ってくださいませ。
七章まで続きます。
「すいません。愛するルイーザ様。私の肉体の封印を解いていただけませんか? 」
そう魔王クルシュがルイーザの部屋の扉の外から哀願した。
だが、中からは無言だ。
「お願いします! 俺の肉体の封印を何卒っ! 」
土下座までして必死に魔王クルシュが頼んだ。
「いやいや。魔王と言うものが情けないなぁ」
そこに通りがかったスタンリー公爵の叔父の将軍とクリス部隊長がため息をついた。
「いやいや、バルカスの力を持ってる愛するルイーザしか封印を解けないんだよ? 」
魔王クルシュが必死だ。
「いやいや、まずは凄く失礼な事をしたんだから、そっちを謝らないと」
そうクリス部隊長が魔王クルシュに呆れて話す。
「父親としては、すでにルイーザと婚約まで許したんだ。あの駄目押しはいらんと思うんだが」
騒がしかったのか、ルイーザの父親のスタンリー公爵が来てそう話す。
横には執事のオルバンもいた。
「いや、ルイーザは魅力的だ! 絶対に他人に渡さない為にしょうがなかったんだよぉ! 」
そう扉の向こうのルイーザに魔王クルシュが叫んだ。
「あんな潰し方したら、魅力があっても全部台無しじゃないですか」
そうクリス部隊長が苦笑した。
「潰したんじゃ無いんだ! 君の魅力を解放しただけだ! 」
魔王クルシュの空しい叫び声が響く。
「どんな魅力やねん」
「ゲロ吐かせて、暴力振るわせて、魅力じゃ無いよ。絶対」
叔父の将軍とスタンリー公爵がドン引きした。
「いや、あれが良いんじゃないか」
そう魔王クルシュがぽっと赤くなった。
「変態だ」
「変態だ」
騒ぎで来たアルバート守備隊長とテイラー部隊長も騒がしかったので来てそれぞれが呟いた。
「フルチンでプラプラされたのにねぇ」
そうアルバート守備隊長が呟く。
「いや、あれも愛の証だよ」
そう魔王クルシュが微笑んだら、ドアが開いて仁王立ちしているルイーザが居た。
「舐めてんの? 」
ルイーザが魔王クルシュを睨んだ。
「くぅぅぅ! 」
魔王クルシュが嬉しそうだ。
「変態だ」
「変態だ」
「変態だよね」
そう皆が呟いた。
「そもそも、今のままで良いじゃない。何で駄目なのよ」
ルイーザがそう魔王クルシュが睨み据えた。
「身体が無いと夜這いが出来ない」
そう魔王クルシュが話した途端にルイーザの蹴りで魔王クルシュの金玉が蹴り上げられた。
「おぅぅぅ! 」
魔王クルシュがのたうち回る。
それを見ていたスタンリー公爵を始め各部隊長が股間を抑えて震えあがった。
「魂だけなのに痛いのか」
「バルカスの力が加わってるからじゃないですかね」
そうスタンリー公爵の困惑した言葉に、叔父の将軍が解説していた。
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「言わない事では無い」
そう国王が愚痴った。
オブライエン侯爵の訃報が入り、国王が舌打ちした。
王子は衛兵に守られて逃げて来ているとの連絡も入り、国王の側近は胸を撫でおろしていたが、国王は殺気立ったままだった。
「何故、この国が国名を名乗れないのかを皆は覚えておらぬからな」
そう国王が一人で呟いた。
この国は、元は魔王クルシュが作った国で、その罰で国名を名乗れなくなったのだ。
それゆえに、あの国とか呼ばれる。
それはこの国の罰。
国王は武王の血筋では無い、当時縛王と言われたものの血を引いていた。
武王の国を奪い、そして、縛王自らの血筋を入れた今の王家は魔王クルシュ……かっての武王のものであった国も名声も何もかも奪った事もあり、武王関係に対しては非常に敏感であった。
実は武に長けただけで無く治世も素晴らしかった武王を魔王として、嘘の歴史で隠して、それに反感を持つものは全て粛清して来た。
もはや三百年も経ち、臣下は本当の事を覚えているものもいなくなったが王家は違う。
もし、魔王クルシュとして貶められた武王が再起すれば、間違いなく王家は滅ぼされる。
それゆえに脈々と王になった時の口伝で伝えられてきたのだ。
オブライエン侯爵から武王の魂が封印を解いて動いていると言う話はすでに十年以上前から国王は知っていたのだ。
だが、それを敢えて無視していた。
最悪は何らかの形で武王である魔王クルシュと和解も考えていた。
随分とお花畑の話ではあるが、報告から魔王クルシュはそれほど現王家に憎悪を持っているわけでは無いのを何度も確認していた。
縛王も今の王家とは直接のつながりが無くなって、すでに200年は経っていた。
だから、王家には縛王との確執もルイーザの前世である麗王に武王が執着していた話なども、もはや伝わっていなくて、王子ととりあえず婚約はさせて何とか封印をしているスタンリー公爵家をコントロールしようとしていた。
もともと、国王にはスタンリー公爵家と戦う気は無かったのに、いつの間にか国政を専横していたオブライエン侯爵にここまで引きずられるとは思わなかったのだ。
勿論、全てはオブライエン侯爵に専横を許した国王が悪いのだが、そう言う考え方は優秀だった先王と比べて、今の国王は持っていなかった。
それゆえに国王は苦り切った顔で呻いていた。