第一部 第十章 終わり
「嘘よっ! 」
ルイーザが絶叫した。
それと同時にアルフォソ王子の作った封印がルイーザの爆発した力ではじけ飛んだ。
「何っ! 」
オブライエン侯爵が驚いたようにそれを見た。
「やっぱりな! 途中までしか見ていなかったんだな! それなら、攻めてきた理由が分かる! 」
そう城壁の上の方から声がする。
すでに下半身は消えて、上半身だけ薄く残っている魔王クルシュがそこに城壁に掴まっていた。
「ど、どういうことだ! 」
オブライエン侯爵が叫んだ。
それと同時に魔王クルシュが両手だけで城壁を登り切った。
封印が戻って来たせいか、薄く下半身が戻る。
「ルイーザ! ありがとう! お前は前世の時からいつだって俺の勝利の女神だ! 愛している! ずっと永遠に! 」
そう魔王クルシュが感極まったようにルイーザにキスをした。
「ああ、本当にするんだ……」
「は? 」
ルイーザの隣のスタンリー公爵がそう漏らしたので、アルバート守備隊長が驚いた。
「え? 」
キスをされたルイーザが驚いたように呻く。
と言うのは、それはキスで無かったのだ。
ルイーザの口に酒が口移しで注ぎ込まれていた。
ルイーザが顔が真っ赤になって、ぐらりと揺れた。
「渡すんだ! 公爵! 」
魔王クルシュが叫ぶと少し悩んだが、スタンリー公爵が瓶をルイーザに渡した。
それは酒が入った瓶だった。
「ウィィィィィ! 」
ルイーザが唸る。
そして、酒の入った瓶を飲み干しだした。
「な、何が起こってんだ? 」
アルバート守備隊長が茫然とそれを見ていた。
「何を一体……」
勿論、城下のオブライエン侯爵も同じだった。
「くはぁっ! 」
ルイーザが城郭を一瞬にして飛び降りるとオブライエン侯爵の前にルイーザがスタリと降りた。
真っ青になったアルフォソ王子は側近たちに連れられて逃げた。
その瞬間にオブライエン侯爵の騎士達が次々と空を舞って行った。
ルイーザが掌底で跳ね飛ばしたのだ。
「ええええと、勝てると聞いてたけど……ルイーザに酒と武の神のバルカスが力を貸して半分乗り移った状態になって、それに酒を与える事で勝つって言ってたよね」
そうスタンリー公爵が魔王クルシュに聞いた。
「そうだ! 」
「思ってたのと違うんだけど。バルカスの力でバーンと相手が終わるんじゃないの? 」
「これから終わるのさ。バルカスの武と酒の神と言うのは実は嘘だ。実は武と酒乱の神なのだ」
「え? 」
次々とオブライエン侯爵の騎士達がルイーザの攻撃で空を飛んでいく中で、スタンリー公爵が唖然とした。
一方、次々と空を部下が飛んでいく中、動揺しながら皆を叱咤してオブライエン侯爵が槍を構えた。
「ふはははははは、お前の負けだ! お前は予知を……全てを見通す目で途中までしか見ていなかったのだ! 」
身体が封印が壊れたおかげで元に戻って裸に近い魔王クルシュが叫んだ。
「黙れっ! わしはまだ全てを見通す目が残っている。いくらバルカスの力を持つ娘と言えど、この目があればどこを攻撃してくるか分かるのだっ! 」
オブライエン侯爵がルイーザの打撃を避けながら叫んだ。
「オエエエエエエ! 」
酒を飲んで激しく動いたせいかルイーザが吐いた。
その大量の吐しゃ物がオブライエン侯爵の顔にかかった。
それが大量過ぎて避けれなかったのだ。
「あああああ! 目が! 目が見えないっ! 」
それがオブライエン侯爵の最後の言葉だった。
その後のルイーザの渾身の打撃を食らってオブライエン侯爵は甲冑を粉砕されて死亡した。
「ひでぇ」
屋上から見ていたアルバート守備隊長が呻く。
その後は酔っ払ったルイーザが逃げ惑うオブライエン侯爵軍の騎士と貴族達を次々と粉砕して跳ね飛ばしていく。
「ちょっと! 何、これ? 」
「どういう事なん? 」
叔父の将軍とクルス部隊長達が修羅場を避けて、城郭に逃げ込むと魔王クルシュとスタンリー公爵の所に来て皆が眼下に広がる修羅場を見て魔王クルシュに突っ込んだ。
「ふはははは、これこそが酒乱の神のバルカスの真骨頂だ」
魔王クルシュがそう誇らしげに叫んだ。
「いや、真骨頂は良いけど、えええ? 」
「すげぇな! 無茶苦茶強えぇ! 果たして公爵令嬢として、これが正しいのかどうかは知らんけど……」
包帯を巻いて肩を負傷したヘンリー部隊長がテイラー部隊長とともに城壁に上がってきて、そう魔王クルシュに話した。
「そうなんだよね……」
スタンリー公爵が娘の修羅場を見て茫然としている。
「一応、もしもの事を考えて、門は閉めときましたが……」
そうテイラー部隊長がスタンリー公爵と叔父の将軍に告げる。
「いや、扱い酷いな」
「娘なんだけどォォォ! 」
そうあまりの修羅場で叔父の将軍とスタンリー公爵が呟いた。
「ふふふふふふふ、これで完全勝利だ。これでルイーザの退路を完全に断ったのだ」
「いや、お嬢の退路ってどう言う事? 」
そうクルス部隊長が呻く。
「ふふふ、これで、ルイーザは酒乱と暴力とゲロ吐きで王国全土で有名になるだろう。もはや、誰もルイーザと結婚しようと言うものは出てくるまい」
魔王クルシュがにっこりと微笑んだ。
「は? 」
「え? 」
全員が一斉に固まった。
「さらに、魔王クルシュとキスとか噂が流れたら、どこの修道院も入れてくれないだろう。もはや、ルイーザは俺と結婚するしか他に道は無い」
「ちょっと! そっち? 」
「えげつなっ! 」
「ひぃぃぃいぃぃぃぃぃぃ! 私のルイーザがっ! 」
叔父の将軍とか部隊長が騒ぐ中で、スタンリー公爵が娘の不憫さに泣いた。
「安心してください! お義父さん! 俺がルイーザを幸せにして見せます! 」
そう真っ裸に近い魔王クルシュがぴしっと立ち上がって叫んだ。
目をキラキラさせたフルチンの魔王クルシュにそう言われて、スタンリー公爵がガックリと肩を落とした。
「いや、すでに不幸の塊だよね。お嬢」
「本当だ」
部隊長がひそひそと話す。
その時、城壁が軋んだ。
何かが何かを壁に突き刺して登ってきていた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ! 」
下を覗いた、クルス部隊長が悲鳴を上げて逃げた。
それでいろいろと察した皆が蜘蛛の子を散らすように逃げた。
父親のスタンリー公爵すら逃げた。
「吐いたらすっきりしたせいか、全部聞こえちゃったぁぁぁああ! 」
そう、吐いて頭がすっきりしたけど、まだ酒が残っているバルカスの力を持つルイーザが登ってきていたのだ。
魔王クルシュの前で殺気立ったルイーザが手をパキパキと鳴らした。
「何か言う事は? 」
「俺が君を絶対に幸せにするよ! 」
そうルイーザに聞かれて、魔王クルシュが優しく微笑んだ。
「もう救いようがないくらい不幸なんだけどぉぉぉぉぉ! 」
そうルイーザが魔王クルシュの首を左手で掴んで持ち上げると右手でパンチングマシーンのように顔面を殴り続けた。
全てが終わった戦場でただ城壁でルイーザに殴られ続ける魔王クルシュの姿が遠くからも見えた。
「魔王クルシュはフルチンなんだけどな」
「ルイーザも怒りが凄すぎて気が付いて無いんだろ」
そう城壁のくるりと回った反対側から覗きながらスタンリー公爵と叔父の将軍がが見て呟いた。
「お嬢の左手で吊り下げられて、顔を右手で殴られ続けたせいで、魔王クルシュのフルチンが左右に揺れて、二人を祝福するウエディングベルのようだな」
「……嫌なウエディングベルだな」
ジェームズ部隊長の言葉にクルス部隊長が呻いた。
こうして、王国のオブライエン侯爵とスタンリー公爵の内戦は魔王クルシュのおかげてスタンリー公爵の圧勝となった。
こうして後に王国のみならず、大陸全土で覇王と呼ばれる事になる魔王クルシュと、のちに魔王クルシュの最愛の妃になるルイーザの不幸な恋の関係は今始まったのだ。
これで一旦終わりです。
月1くらいで書き溜めして投稿しようかと思ってます。
何か、反応が無いんで滑りまくったかなと思ってるんですが、応援を何卒宜しくお願いします。




