朝ミルク
次の朝、パソコンと幼女を起動した。
「おはようございます」
スカートをつまみ上げて足を交差させ、軽く会釈。カーテシーと言うんだ。検索したから知っている。
「で、朝ごはんは?」
「え?」
「あなたが作るんでしょ」
「映像がご飯を食べるのか」
「あなた、おままごとした事ないの?モテないでしょ?」
「男はそんな事しない」
「というか家事できるの?」
「不可能とは言えない」
「偉い人の言い方みたいね」
「あんましできない」
「ところでシーザー」
「アーサーだけど」
「冷蔵庫に卵があったでしょ、目玉焼きにして。あと食パンがテーブルにある。ミルクはあっためてね」
「いつ中身を見たんだ」
「見なくても知ってるの」
「どうやって」
「細かい事はいいでしょ。作ってよぅ」
僕は二人分の朝食を作った。自分の前と画面の前に配膳した。
「あーん」
醤油をかけた目玉焼きを右手に持った箸で千切り、画面に差し出す。箸が液晶パネルにぶつかる。醤油が画面を伝い垂れ落ちる。すかさず左手でティッシュを取り、拭う。押された箇所の色が変わる。
次の瞬間、目玉焼きが箸から消えた。見ると画面の少女が目玉焼きをおいしそうに食べている。
「食べてる…?」
「ええ、ちゃんと味覚だってあるのよ」
「ミルクはどうすんだ」
固形物と違い、ミルクは液体だ。画面に掛ける訳にもいくまい。
「いいよ、かけて」
「パソコン壊れる」
「やってみなさいって」
僕は人肌に温まったミルクのカップを右手で持ち、左手にティッシュを構え、画面に向けミルクをかけた。
驚くことに、ミルクは画面の中へとこぼれた。




