ぼくのちいさな無花果
僕には娘がいない。だからそばにおいて観察をしてみたい。
もちろん、娘がいれば衣食住や教育の世話をすることになるけど、それは十分可能だ。僕だって犬を飼った事ぐらいはある。
でも犬ではだめなんだ。動物にだってほほえみはあるけれども、人間のそれには叶わない。
鳴き声だってそうだ。人間の女の子の放つ喃語は、どんな動物の赤ちゃんにだって勝つことができない。
つまり僕が幼女に求める性質は顔と声である。
モバイル端末で僕の好みに合う幼女を検索してみる。検索にあたっては、検索アプリが僕の保管した画像フォルダについて、そのデータをアプリが利用する事に許可をするだけだ。
検索といっても、女の子がずらっと並んだサムネイルを選ぶのではなく、自分のアバターを作る様に、画面上で好みのパーツ(髪型、顔の輪郭、肌の色、目の形と色、鼻や口の形と位置など)を選びながら好みを絞る。最後にそれらのパーツから必然的に決まる声と性格をシミュレーションで確認して、決定ボタンを押すだけだ。
今日は、長い金髪の青い瞳で切れ長の目尻、そして顎の細い口の小さな女の子を作ってみた。シミュレーションを開始すると、意外と生意気な声で喋る。気に入らなかったので、茶色い瞳で眠そうな目をした口の大きな女の子を作った。今度は従順そうだが物足りない。仕方ないのでランダムボタンを押して生成した、すると、灰色の瞳で理知的な目の、口が顎から少し離れて目鼻とコンパクトにまとまった顔の子ができた。喋り方はほどほどに僕の声の抑揚を察知して、適切な会話のテンポに合わせてくれる様である。
僕はその頃をクラウドに保存して、手元のモバイル端末に常駐させた。
程なく女の子が画面に現れて、僕の端末の画像フォルダを検索し始めた。検索が終わると、女の子は僕のことをじろじろ見始めた。
「あなたの好みは私になって行きます。」
「君が僕の好みになるんじゃないのか」
「違います、あなたが私を好きになります」
あまりに大胆というか、確信に満ちた言い方なので、ぼくはその女の子が人間の幼女だと錯覚した。
「君は僕を好きにならないのか」
「あなたは自分を好きですか?」
「あまり意識はない」
「それでは理想の女の子がまだ見えていませんね」
「つべこべ言うなよ」
「少し探索が必要ですね」
生意気だけど、消すには惜しい見栄えと声。
なお、僕の端末のローカル画像フォルダの内容はこうだ。
¥科学¥動物¥画像¥ようじょ
¥ゲーム
ファイルなんて概念がいつまで続くのやら分からないけど、未だになくなっていないから、保管とバックアップは僕の日課として欠かせない。毎日そうするので同じ顔の幼女が無数に格納されている。
別に僕は成人女性が嫌いという訳ではない。好きではある。ただし顔と声が良ければ。でも小さな女の子の直接耳たぶに共振する声には抗い難い。産毛同士が擦れ合った。