99. ブラック・リリィ
十一月十二日土曜日。
日本時間の午後三時。
アズラィールと約束したこともあり、四人で日本に転移した。
名前が同じだと呼びにくいので、大きい方をリリィとちびっこの方をリリアナと言う名前で呼ぶことにした。
アンドレはリリアナ担当、頼まなくてもべったりくっついているので問題はないと思うが、何しろ日本の実家には徠人という災いの元がいる。気を付けなければ…。
行く前にリリアナに今までの全部の記憶をコピーする。
まずは自室に転移し、少し休憩したあと、ルカの部屋に向かう。
リリアナがリリィのワンピースの裾を引っ張った。
「ねぇ、リリィのパパってさ…」
「それ、思いっきりリリアナの父親のことも指してるからね。」
「あっ、そっか…。」
「どうしたの?」
「なんかおかしくない?」
「え?」
リリアナから詳しく話を聞くと、記憶をコピーしたときに彼の言動に違和感を感じたらしい。何か愛情を感じるトリガーを利用して憎しみを増幅するような催眠術にかかってそうだと言う。
僕は、それはどうかわからないけど、父様はある日突然僕に冷たく接するようになったとだけリリアナに説明した。
「花火大会の時に浴衣買ってもらった時には、やさしい普通の父様だったのに。」
催眠術か、心境の変化なのかは僕にはわからない。
僕としては術にかかっていてもいなくても、彼はもはや僕の味方ではない。
現時点では脅威として扱うべき存在だ。
リリアナは僕の能力をすべて持っている。
転移、予知、癒し、天候操作、懐柔、物理攻撃。多分、僕よりもパワーは高いくらいかもしれない。そして、まだ誰にも言っていないが、リリアナは命を助けたりしなくても触れた相手の能力のコピーができる。
僕とアンジェラはルカの部屋に入った。僕は、今まで他の帰還者にしてきたように言語等の情報や、拉致された経緯についての記憶などをコピーした。
ルカはおとなしい性格の様だが、船乗りだったからかとてもがっしりとした体躯をしている。人って環境で変わるんだねぇ…。頭の中でそう考えていると、直接僕の頭の中に話しかけてくる声が聞こえた。
『ねぇねぇ、リリィ。やばいやつ来た。』
『え?徠人?』
『そう。逃げて。』
部屋の外でアンドレに抱っこされてたリリアナが教えてくれたのだ。僕はアンジェラの手を取りその場からホールに転移した。
徠人は手にロープを持っているのが見えた。首でも締めようと思ったのか…。
僕の姿が見えなくなったからか、部屋に戻っていったようだ。
アンドレを連れてリリアナが僕とアンジェラの傍に転移してきた。
ちょうどそこへライラが徠輝の手を引っ張ってやってきた。
「おねえちゃん、ライラも学校に行くことになったんだよ。」
「よかったね、ライラ。」
「うん。おねえちゃんのおかげ。」
「勉強がんばってね。」
「うん。ところで、その小さいのは…。え、うそ…。」
「これはね、リリアナ。かわいいでしょ?仲良くしてあげてね。」
「黒いの使ったんでしょ?でも使い方間違ってる。ブラック・リリィ。」
リリアナはアンドレの胸に顔をうずめて警戒している。アンドレは周りが目に入らないようで超デレデレ。
そこに徠夢が来た。徠夢はリリアナを見て固まった後、リリィの頬を思い切り叩いた。
パンッ。
「オマエって子は…。」
「徠夢、何するんだ…。リリィが何をしたっていうんだ。」
アンジェラが間に入って制止する。徠夢が怒鳴る。
「もう子供まで作ってたのか!」
「何言ってるんだよ、この子はリリィの子供じゃない。考えたらわかるだろう?」
「アンジェラ、もういい。帰ろう。」
僕がそういった時、リリアナが翼を出しアンドレの腕の中から飛び出した。
「とうちゃま?」
首を傾げて徠夢の前でリリアナが言った。
「お、お前、この前夢の中で見た。」
「おこっちゃいやよ。」
アンドレがリリアナに近づいて両手を広げるとリリアナも両手を広げてアンドレの腕の中に納まった。
「おうちに帰ろ。」
リリアナに促され四人で転移した。




