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98. 分離

 リリィがアンジェラのところから消えた直後、日本のアズラィールからアンジェラに電話が入った。昨夜遅い時間に、ホールの真ん中に一人全裸で置き去りになっている者があり、どうやらそれがルカではないかと言う。また、日本のリリィとアンジェラの部屋に腹部に穴のある血まみれの服が落ちていたというのだ。

 これらのことからリリィは一人で最後の一人ルカを回収しに行き、その後何かがあったんだと考えられる。

「他には、何かなかったか?さっき一度戻ってきたんだが、様子がすごく変だったんだ。実は、二日前からアンドレがいなくなった。」

「どういうことだ?アンドレがいなくなったというのは…。」

「手がかりがないんだが、おそらく身を引くつもりで姿を消したんだと思う。」

「身を引くって…?どういう意味だ。」

「アンドレもリリィを愛しているんだよ。でもリリィは受け入れられないと考えていて。」

「…。アンドレの行先にどこか心当たりはないのか?」

「何も持って出ていないんだ。翼はあるが、飛んで移動するのは非現実的だ。一人では転移もできない。」

「そういえば、さっき左徠が、リリィはダイニングでライラから小さい球みたいなものを受け取っていたと言っていた。」

「そ、それはあの未徠の腹にライラが埋め込んだやつか?」

「たぶん、同じものだと思う。」

「まずいな…。」

「何かわかったのか?」

「あれによっておかしい行動をとっただろ?あと、核を育てて儀式をするつもりなんじゃないかと思ったんだよ。」

「なぜだ?」

「ルシフェルに願いを叶えてもらうためだ。」

「願い?」

「あぁ、リリィはアンドレが死んだと思っているんだろうな。生き返らせたいと願ってるんだ。」

 そして、アンジェラは自分が行けない場所にリリィが逃げ込んでいるのではないかと思っていることをアズラィールに言った。封印の間や、アフロディーテの洞窟だ。どんなにもがいても、今のアンジェラにはそこに到達することはできない。

 アンジェラはアズラィールに、ライラにリリィの居場所がわからないか聞いてくれと頼み電話を切った。


 その頃、ユートレア城の王の間でリリィは爆睡していた。

 とにかく眠い。目が開けていられなかった。

 深い眠りの中で、夢を見た。

 あの、でかいおっさんになったライルとおねえさんのリリィが夢の中でけんかをしている夢だ。

「リリィ、なんでそんな危ないものをおなかに入れたりしたんだ。」

「仕方ないじゃない。アンドレを生き返らせるためよ。」

「生き返る保証もないし、それよりなんで死んだって決めつけるんだ?」

「ライルはアンドレが死んでないって思っているわけ?」

「そうだよ。死体も血痕もなにもないだろ?」

「あ、そういえば、そうね。」

「リリィ、君は勝手すぎるよ。」

「だってこんなこと、誰に相談すればいいのよ…。あんただって、今は夢の中だから自分と自分が別々に思考を持ってて意見が違うことを話せてるってわかってるでしょ?

 これは現実ではありえないのよ!」

「じゃあ、別々の体に入って行動すればいいんじゃないか?」

「そんな都合のいいことできるわけないじゃない、馬鹿じゃないの?」

「悪いけど、僕はアンジェラのところに帰る。」

「ちょ、ちょっと置いていかないでよ。」

 なかなか馬鹿らしいやり取りを繰り広げているなぁ…と自分で思う、そんな夢だった。そう思いながらも夢の中で二人は転移を試みた。


 深夜、アンジェラはベッドの中で目をつむって色々と考えをまとめていた。

 まずはアンドレを探す方が先か…。

 寝返りを打って体勢を変えた時、ベッドのブランケットの中から光の粒子が漏れた。

「うっ。どういう出方をしているんだリリィ。とにかく、帰って来たんだね。よかった。」

 そう言いながら、ブランケットをめくると、ベッドの中からでかいおっさんになったライルが這い出てきた。

「また、元に戻れなくなったのか?」

「アンジェラ、それが…その…。」

 ライルとアンジェラの間から、もぞもぞと何かが出てきた。

「え?リリィ?」

 三歳児くらいの例のちびっこリリィだった。

「く、くるちい。せまい。」

「ライル、どういうことだ?」

「リリィが核をお腹に入れたから、一人に二つの核になったせいか、頭の中が混乱しちゃって、夢の中で大喧嘩になって、転移して気づいたら分離してた。」

「アンジェラ~、さむいよ~。」

 ちびっこリリィがアンジェラにすり寄っていく。

「ちょっと、僕のアンジェラにくっつかないでよ。」

「ねぇ、君たち、どうして何も着ていないの?」

「さぁ?」

「ライルが、ぬいだ。」

「だってピッチピチだったんだよ。」

「もう一つ聞いていいかな?」

「なに?」

「なんでそんなに大きさが違うのかな?」

「僕のは元々の核で、そっちのちび助のはライラにもらったやつだからかな?」

「それで、どうして家出なんてしたのかな?」

「だって、アンドレがリリィのせいで死んじゃった。」

「だから、死んだ証拠はないって言ってるだろ?」

「よし、わかった。まず、ライルはパジャマ着て。リリィは服やパジャマを買ってきてもらうから少しそのままベッドにいて。それから、アンドレは死んでないと思う。すねてるだけだと思うよ。」

「ほんと?」

「あぁ。リリィが心から帰ってきてほしいって願えば、帰ってくるよ。」

「わかった。」

 リリィが目を瞑ってベッドの中でブツブツ何か言っている。

 きっと神に祈りでも捧げているつもりなのだろう。アンジェラはクスッと笑うとライルにパジャマを渡し、パジャマを着たらクローゼットに来るように言った。


 ライルがクローゼットの中に入ると、アンジェラは電気をつけて全身が映る大きな姿見の前に立った。そして、ライルに聞いた。

「私の姿はいつもの通りだと思うか?」

「うん、どこにも変わったところはないけど。」

「ライルはアンドレに帰ってきてほしいと願うか?」

「願っているよ。アンドレがいないとダメだってわかった。」

「アンドレが、リリィに彼だけを愛してほしいと言ったらどうする?」

「二人に分かれたから、どっちか選んでもらおうかな?」

「そ、それは斬新な意見だが、私が困るな…。」

「そうか…そういうことなんだね。僕とリリィが別の個体になって、今は別の人格があるけど、お互いは自分自身だってわかってる。」

 そう、今は逆の立場を体験してるんだ。ライルはそう思った。

 アンジェラはパジャマの上を脱いだ。

「あ、アンジェラこんなところで?僕、多分女の子に戻れないから…。」

 顔を真っ赤にしてライルが俯く。アンジェラがクスッと笑って、「見てて」と言った。

 姿見に映ったアンジェラの姿に少し違和感があった。

「あれ?鏡の方は腹筋がバキバキに割れてる。」

 アンジェラは、姿見に手をつくとちょっと笑いながら鏡に向かって言った。

「アンドレ、早く出てこい。おまえのリリィがベッドの中で祈ってるぞ。」

 青い光の粒子がアンジェラの横に出現し実体化していく。

 恥ずかしそうに顔を赤らめてアンドレが戻ってきた。

「アンドレ、よかった。」

 ライルは涙を目にためて、アンドレに抱き着いた。

 アンドレも同じようにライルに抱き着いた。しかし、アンドレはアンジェラの方を見て聞いた。

「どうして私のリリィがベッドの中にいるほうなんですか?」

「あっちが暴走してる方、アンドレ推しリリィみたいだ。」

 アンジェラがライルの方を見るとライルは頷いた。

 アンドレはすごい勢いでベッドに潜っていった。こわい。

 ベッドの中で「キャー、アンドレー。生きてたー。」と喜ぶ声がした。

 その直後に「ギャハギャハ」とちびっこリリィの笑い声が聞こえてきた。

 多分、全身にキスされてくすぐったいのだとは思うが…。

「幼児相手にやりすぎないようにな。」

 アンジェラは冷静にそう言った。そして、ライルの頬に手を当てて、聞いた。

「どうして、女の子になれないと思うんだ?」

「なんとなく。」

 じゃあ試してみよう。とアンジェラがキスをしたら、やっぱり二秒でおねえさんリリィに戻った…。


 アンドレは家出をするつもりだったが、お別れの挨拶をするときに、「アンジェラになりたい」と思ったらしい。

 その強い念は新しい能力を生んだようで、相手の細胞に入り込み同化できるらしい。

 そして、ずっとアンジェラの中でアンジェラとして見ていたということだ。


 二時間後にはかわいい三歳児用の洋服も届いた。

 そこで、おねえさんリリィが三人に忠告する。

「ちび助は、ブラック・リリィだから気を付けて。」

「言わなくてもいいのに。」

 ちびっこリリィがほっぺたを膨らまして文句を言う。

「そのブラック・リリィってなに?」

 アンドレに聞かれ、おねえさんリリィが説明すると、分離するときにポジティブな部分とネガティブな部分が、それぞれライルとちびっこリリィに分かれちゃったらしい。

 そのため、ちびっこリリィは基本超わがままだというのだ。

「ま、三歳児と言えば三歳児らしい状態とも言えるけど。精神年齢、見たまんまなのでご注意ください。」

「アンジェラ、アイス食べたい。」

 人の話も聞いていないようだ。

「アンドレ、アイスだって。」

「こっちにおいで、アイス食べにキッチンに行こう。」

「うん。」

 ちびっこリリィを抱っこしてアンドレはキッチンへ移動した。

 どっからどう見ても親子。若いパパという感じだ。アンジェラと二人でキッチンの様子を覗き見る。

「はい、あーん。」

「あーん。」

「あ、お鼻についちゃった。」

 ペロッ。とアンドレがちびっこリリィの鼻を舐める。

「あ、お口の周りにもついちゃった。」

 ペロッ。とアンドレは口の周りも舐める。

「キャハハー。」

 やっていることは若いバカップル並みだが、とても楽しそうだ。

「これは、日本では見せられないな。」

 アンジェラが渋い顔をしてつぶやいた。後から聞いたのだが、ユートレアの王妃のところへ行ったときにリリィがちびっこになったのを見て、アンドレは顔を真っ赤にして身もだえていたらしい。もしかして、ロリコン?


 突然、アズラィールからの電話が鳴った。

「アンジェラ、ライラが言うにはリリィがおかしくなってるっていうんだ。」

「あぁ、今目の前で繰り広げられているものを見ればわかるよ。連絡が遅れてすまない。週末には一度みんなで行くことにするよ。」

「じゃあ、その時にルカに説明をしてもらえるとありがたい。」

「わかった。」

 大騒ぎした割に変な落としどころで収まったのだった。


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