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92. ちびっこリリィと先王の決断

 十一月五日土曜日。

 イタリア時間の朝十時。

 アンジェラとアンドレと僕の三人で朝食を済ませ、今日の予定を打ち合わせる。


「最初にメリーナの動向を探っておきたいですね。今のところ何も証拠が見つかっていないので。」

 アンドレが最初に気になっているユートレア小国の問題のことを話しだした。

「確かにそうだね。早く証拠を見つけてアンドレのお母上にお知らせしたいね。」

 僕が言うと、嬉しそうに頷いた。アンジェラもニッコリ微笑んで同意してくれた。

 もしかしたら、アンドレの両親が亡くならない未来もあるかもしれないもんね。

 最初にアンドレの母上が亡くなる一か月前くらいからのメリーナの動向を探ることになった。僕は二人にちょっと提案をした。

「メリーナの下にいるやつらの中に命令を下されている者がいたら、白状させらるかもしれないので、そっち方面を徹底的にやろうよ。」

「そうだな。本人が直接全部やるとは思えないな。」

 僕たちは三人で過去のユートレア小国へ転移し、メリーナの嫁ぎ先である隣国の城へ行った。テラスの様な場所を狙って降りる。

「アンドレ、メリーナが自国から連れて行った召使いとか下僕とかいる?」

「はい、多分三人はいるかと思います。」

「ここから確認できる人物を教えて。」

 アンドレの知っているメリーナの息のかかった者を確認した。一人は部屋付きのメイドのジュネ。そして、小間使いのダグ。最後は、ユートレア小国の王城で元々下僕長をしていたカイエン。

 三人はそれぞれ持ち場が違うようだ。


 僕はアンジェラとアンドレに、まずはジュネに僕が赤い目で命令し、不穏な動きがないかを聞こうと提案した。二人とも同意してくれたので、夜中になる頃メイドが生活している場所へと向かった。寝ているジュネの背後にそっと回り、首筋に手を当てる。まずは情報収集から。彼女の記憶を一通りもらう。

 その上で、目を覚ますように手をたたく。パンッ。

 ハッとして目が覚めたジュネの真正面から目を見てささやく。

「騒がないで。ジュネ、メリーナはユートレア王妃やユートレア王を殺そうとしているのかな?」

 ジュネの目に赤い輪が浮き出る。

「メリーナ様は王妃様を憎んでいらっしゃいます。」

「どうしてか教えて。」

「オスカー殿下の御子を産んだからでございます。」

「それで、メリーナはどうしたいとか言ってた?」

「ゆるさない。と。兄上は私のものだ。とおっしゃって…。」

「具体的には?」

「私は知りません。カイエンに毒を用意するように言っているのは聞きました。」

「いつ?」

「二週間ほど前です。」

「じゃあ、質問を変えるね。王妃の産んだ王子を殺した理由は?」

「同じ理由でございます。メリーナ様は自分がオスカー殿下の御子を産むつもりだと…。」

「そうか…ありがとう。君は僕に会ったことは今すぐに忘れるよ。でも、メリーナがオスカーや王妃を殺そうとしていることがわかったら、このリボンを机の上に置いてくれる?また聞きにくるよ。」

「はい。」

「じゃ、いい夢を…。」

 僕は青いリボンを彼女の枕元に置き、彼女の首筋に手を当て、大好きなお菓子がいっぱい食べられる夢を見せてあげた。じゃあ、次はカイエンだ。

 僕はカイエンの寝室で同じようにカイエンから情報を得た。

 カイエンからの情報で、精神が不安定になる薬を手配するように言われ、三日前に渡したらしい。

 さあ、どうやって王妃に伝え、回避したものか…。


「いいこと思いついちゃった~。てへへ。」

 僕がニヤニヤしながらアンジェラとアンドレに言うと二人はものすごく興味を持った様子で、僕に近づいてきた。

「リリィ、どうするつもりだ?」

「メリーナが何か持って王妃のところに来るでしょ?」

「そうだな、きっと。」

「その時に、自分で飲めって命令しちゃう。あ、ごめん。ブラック・リリィでちゃった。ふふっ。あるいは、その場で命令する。自分の計画を王と王妃に白状して責任を取る。」

「リリィ…。ありがとう。」

 アンドレが僕にお礼を言った。

「え?」

「私はメリーナを殺してでも母上を助けたいと思ってた。」

「殺さなくても大丈夫だよ。アンドレは気にしなくていい。僕がやる。アンドレの母上に事前に承諾をお願いしよう。僕が、将来のアンドレの婚約者になる人だから、お城に滞在して常に一緒にいることを許可するって。」

「リリィ…。」

 アンジェラが泣きそうな顔をする。

「アンジェラが面白くないのはわかってる。ごめんね。でもわかって、二人とも大切なの。でも、愛しているのはアンジェラの方が大きいから、わかって。ね。」


 その後、僕らは一度現代に戻り、僕の衣装をアンジェラに用意してもらった。王家に嫁いでも文句言われないくらいの上品な服と、一部編み込んでまとめた髪型。アメジスト色のグラデーションの入ったドレスがとってもかわいい。

 僕たちは三人でアンドレの母の部屋に転移し、事情を説明した。

 王にメリーナ本人の自白を聞かせて判断してもらおうと。

 そのために僕を将来のアンドレの嫁候補として、王妃の部屋に入らせてもらうってことで。

「そうねぇ、アンドレのお嫁さんにしてはちょっと大きすぎるかしら…。」

 そう言われ、顔が赤くなる。

「確かに…。年上すぎるか…。」

 うーん、変化できるかやってみようかな?チラッとアンジェラたちを見たけど、あんまり気にしていない様子…。

 きっと変化へんげに関しては反対するだろうし。見てないうちにやっちゃえ、えいっ。

 くるっと回って、変化にトライした。

「まぁ、なんてかわいらしい…。」

 王妃がそう言ったところで、アンジェラとアンドレが気づく…。

「リリィ…。」

 アンジェラは困惑気味。アンドレはキラキラの瞳で。僕を見つめている。

 僕は三歳くらいのちびっこリリィになっていた。洋服も靴もサイズがちゃんと合っていて、子供に着せるような雰囲気ではない服だったが、まるで花の妖精の様だと後でアンジェラが言っていた。王妃が僕を見て言った。

「本当にアンドレのお嫁さんになってほしいわ。」

 アンドレと僕が赤面し、アンジェラが慌てて僕を確保する。

「ダメだ。リリィは僕の妻だ。」

 王妃が嬉しそうに笑った時、五歳のアンドレが王妃の部屋に入って来た。

 アンジェラに抱っこされている僕を見て、ちびっこアンドレが目を輝かせて言った。

「リリィ、僕のお嫁さんになってくれるの?」

 アンドレ、すごい、大きさがこんなに変わっても僕を認識している。アンジェラが僕を抱えたまま後ずさりする。

「ダメだ、ダメだ。僕のだ。」

「アンジェラ、落ち着け。私はリリィをアンジェラから取ったりしない。」

 大人のアンドレがアンジェラをなだめる。

 アンジェラが冷や汗をかきながらも、僕をソファに座らせる。

 王妃が使用人を呼び、王に王妃の部屋に来てもらうよう伝えた。アンジェラとアンドレは棚の陰に隠れた。

 事前に話が済んでいるようで、王がすぐにやって来た。

 僕がちびっこリリィの状態で、ソファに座り、横のちびっこアンドレと手を繋いでいるのを見て、オスカー王は目を細めて言った。

「お前がアンドレのいう天使だという証拠を見せろ。」

 あぁ、苦手。この人。この前もこの人に剣で切られたし。

「剣で斬ったりしない?」

「さぁ、どうかな。」

「そういう言い方するなら無理だよ。僕、帰る。」

 僕は翼を出して、イタリアの家に転移した。

 すぐにアンジェラとアンドレが一体化して追いかけて来た。

「リリィ…。」

 二人は分離し、クローゼットの中で泣いている僕にアンジェラが優しく手を差し伸べる。

「おいで。」

「もう、行かない。」

 ちびっこリリィのままの僕は、ぐずり始めてしまった。

「リリィ、わがまま言ってないで、早く行こう。」

「わがまま?」

 僕はショックを受けた。僕がわがままを言った?こわかっただけなのに、あのおじさんは前に僕を斬った。痛いのもつらいのも嫌だ。

 その時アンドレがアンジェラを制した。

「アンジェラ、無理強いは良くない。リリィは怖がっているだけだ。行かなくてもいい。さぁ、リリィ、泣かないで私の天使。」

 僕はアンドレの差し出す手を掴もうと立ち上がった。

 でも、手を取ることはなかった。

 自分の意に反して、僕は一人でユートレアの王妃の部屋に戻った。王はまだそこにいた。王妃に促され、王は奥の部屋のドアを少し開けて待機していた。

「リリィ、大丈夫なの?」

「うん。今日で終わりにしたいから、頑張る。」

 そこへ、メリーナが訪ねてきた。

「あら、見たことのない子ね。」

「アンドレの妃になっていただく予定のお嬢様なのよ。ね、リリィ。」

「リリィはアンジェラの奥さんだから、アンドレとは結婚しないよ。」

「あらあら、また断られちゃったわ。ほほほ。」

 メリーナが王妃に持参したお茶をすすめる。

 僕は、そこでメリーナに質問する。

「ねぇ、こっち見て。」

 メリーナがこっちを見た。赤い目を使って質問をする。

「そのお茶に入ってるものは、何?」

「このお茶には精神をおかしくする毒が入ってるのよ。」

「へぇ、それを飲んだらどうなるの?」

「そうねぇ、死にたくなっちゃうんじゃないかしら。」

「何のために王妃様に飲ませるの?」

「それは、兄上を私のものにするためよ。みんな殺してやるわ。アンドレも。」

「だから、王妃様の赤ちゃんも殺したの?」

「そうよ、兄上が私以外と子供を作るなんて許せないわ。」

「そうなんだ。じゃあ、王様に意見を聞いた方がいいね。」

「意見ですって、さっきから何を訳の分からない質問に答えさせてるのよ。本当のこと、べらべらしゃべっちゃったじゃない。」

 そこにオスカー王が出てきた。オスカーはメリーナを一瞬で斬り殺した。

「…。僕の事も殺すの?」

「さあ、どうかな。」

「もう、こわいから来ない。」

 僕は、そのまま日本の家の自室のクローゼットの中に転移した。

「うぇっ、うぇっ。えーん。」

 一人でぐずぐず泣いてたら、ドアがノックされた。

 何回も、何回も…。ちびっこになってて情緒が不安定になっていた僕は、思わずドアを開けてしまった。

 そこにいたのは徠夢だった。

「誰かな?」

「とうちゃま?」

「ライルなのか?」

「うん。ぐすっ。」

「どうしてそんな小さくなってるんだ?」

「ぐずっ。ひっく。うぇっ。」

「…。」

「もう、帰る。」

「…。」

 僕は走ってそこから逃げた。

「ライル、待ちなさい。」

 僕は足がもつれて階段から転げ落ちた。

 体中の骨が折れ、内臓に刺さり、肺の中に血がたまって息もできなくなる。

「げふっ。」

 口から血が出てもうしゃべることもできない。視界がどんどん暗くなって意識がなくなる…。


 あ、あれ?ここは、どこかな?あ、日本の家のクローゼットの中だ。

 また、予知夢を見たんだろうか。

 僕はクローゼットから出て、日記を取り出した。

『十一月五日、土曜日。

 ここ最近、自分が殺される夢ばかり見る。

 今日は階段から転落して全身骨折で死亡。

 先週は刃物で刺され、大量出血で死亡。

 その前は、入水自殺。

 僕が要らない人間だから、そんな夢ばかり見るのかな?

 アンジェラにわがまま言うなって言われちゃった。

 わがままだったのかな?こわかっただけなのに。

 父様は僕のことなんてもう覚えていないみたいだし。

 あと二人助けるまで、もう少しだから、がんばろう。』

 書き終えたところで、ドアがドンドンとノックされた。

「誰?」

「…。」

 来た。夢と同じになるのかな?試してみたいけど、今日はやめておこう。

 さっきの夢で、自分の口の中からあふれ出る血の味が思い出されて少し冷静になった。


 僕のことをわがままと言ったアンジェラに会う気にはなれなかった。

「あ、そうだ。絵描いてもらおう。」

 僕はイタリアの家のアトリエに転移した。

 今から六十年くらい前のその場所だ。

「あれ…いない。」

 ベッドルームに行ってみる。あ、寝てる。つまんないなぁ。

 ちびっこのまま顔をのぞき込んだり、アンジェラの髪の毛を触ったり、ベッドの中にもぐったりして…。きゃ。また全裸で寝てる。

 アンジェラが寝返りをうって僕の方に向いた。げっ、見ちゃった。

「ねぇ、何でベッドの中で見てるの?」

 げげ、起きてる。

「見てない。」

「なんだか今日はいつもよりかわいらしいね。」

「でしょ?見せにきたのに、アトリエにいなかったから。」

 調子に乗ってシーツから出たら捕獲された。

 ぎゅ~ってされて、頬ずりされて、おでこにチューされた。

「本当にかわいいなぁ。」

 アンジェラが目を細めて言う。僕の顔が赤くなる。

「うわきって言われたら困るから帰る。」

「ずっとここにいてもいいんだよ。」

「僕のアンジェラが多分心配してるから帰る。」

「そうか…じゃあ仕方ないな。」

「あ、あの。僕ってわがままかな?」

「さぁ、わかんないけど。女の子は少しわがままな方がかわいいんじゃないかな?」

「…?」

「私はわがまま言ってもらいたいタイプだからね。どう?ずっとここにいない?どんなわがまま言ってもゆるしてあげるよ。」

「ありがと。ちょっと気が晴れた。帰る。」

 僕は現代のイタリアの家に転移した。

 アンジェラはまた倉庫の中でお酒を飲んでいた。目を瞑ったまま床にすわっている。

 近づくと捕獲された。目瞑ってたのに…。

 ぎゅ~ってされて、頬ずりされて、唇にチューされた。

「むむむ~。」

 僕は大人の姿に戻った。アンジェラの目が少し開いて、さらに激しくチューされた。

 そのままベッドに連れて行かれて、抱き合った。

 アンジェラが小さい声で僕にささやいた。

「これからは、わがままは私だけに言いなさい。」

「えー?意味わかんない。」

「どんなわがままでも聞いてあげるから。ね。」

「うそばっか。」

「うそじゃないよ。」

「じゃあね~、グランドピアノ買って。」

「いいよ。テラスを改造して、サンルームにしてあげよう。そうすれば、日本に帰らなくてもピアノが弾けるからな。」

「アンジェラ、知ってたの?僕が日本に帰りたくないって。」

「あぁ、徠夢は最近おかしいだろ?お前にやたらと辛く当たる。」

「うん。多分僕の事もう覚えてないんだと思う。嫌われてるみたい。だから、こわい。」

 アンジェラは僕を抱きしめて頭をなでながら言った。

「お前には、私がいるから大丈夫だよ。他の誰がどう言おうと、私はお前の味方だからね。」

「ありがと。」

 過去のアンジェラも今のアンジェラもぶれてない。

 いつでも僕の味方だ。



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