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88. 初恋?

 アンジェラと僕は封印の間の円卓の上に出た。魔法陣によって転送されたのだ。

「よかった…。」

 戻ってこれた。僕たちは抱きしめ合ったまま、家へと転移した。

 アンジェラはアンドレに無事帰ってきたことを知らせ、アンドレはアンジェラの代わりに父様とうさまに連絡してくれた。

「ねぇ、アンジェラ。今日は二人きりになりたいな。」

 アンジェラは黙って僕のいう事を聞いてくれた。ずっとくっついたまま抱き合っていたら、そのまま眠ってしまった。

 夜中に目が覚めて、薄暗い部屋の中でアンジェラの顔を見てホッとする。

 アンジェラの長いまつ毛に指先を触れたとき、僕は指先から光の粒子となりその場から転移してしまった。


「ん?」

「え?」

 僕はずいぶんと小さいアンジェラのまつ毛を触っていた。

 その時だ、後ろから投げられた石が僕の頭に当たった。ガツッ。

「う、いってー。」

 後ろを振り返ると四、五人の男の子が慌てて逃げていく。

 アンジェラの方に向き直ると、大きな瞳でキョトンとこちらを見上げている。

「こんにちは。」

「おねえちゃん日本語話せるの?」

 満面の笑みで僕に話しかけるアンジェラ。

「うん。日本人だからね。」

「じゃあ、僕と一緒だね。」

 そう言ってクスッと笑うアンジェラがとても愛おしく思った。

「アンジェラは今何才?」

「僕、八歳。おねえちゃん、どうして僕の名前知ってるの?」

「親戚なんだよ。日本の。」

「え、じゃあライルお兄ちゃんも知ってる?」

「あ、うん。よく知ってるよ。」

「そうなんだ、会いたいなぁ。」

 アンジェラの表情が曇った。

「さっきの石って、誰が投げたの?」

「同じクラスの子たち。」

「どうして?」

「僕のドイツ語が下手だって言って、いつも投げてくるんだ。僕の物とかも隠すし。そういえば、さっき結構大きいの当たってたでしょ?大丈夫?」

 後頭部に手をやってみると血がべっとりついていた。

 思わずくらっとしてしまった。

「大丈夫?おねえちゃん。僕の家すぐそこだから、行こう。」

 手を引っ張られて、アンジェラの家に行った。

 アンナおばさんの家だ。すぐに自分で傷を癒し、洗面所を借りて血を洗い流す。よかったよ、アンジェラにあの石が当たらなくて…。

 あと、スケスケのネグリジェ着てなくてよかった。

 洗面所から出ると、アンジェラが絵を描いていた。

「アンジェラ、やっぱり絵が上手だね。」

「ありがと。でも、もう少しで描けなくなるんだ。」

「どうして?」

「ほら、この色鉛筆。ここにはこういうのは売ってないの。」

 僕が持たせた色鉛筆だ、もう3cmくらいの短さになっているものもある。そうか、この時代にそういうものは売っていなかったのか…。

「あ、じゃあ僕が買ってきてあげるよ。それとも一緒に買いに行く?」

「え、一緒に連れて行ってくれるの?」

「うん、いいよ。ちょっと着替えて、お金持ってくるから待っててくれる?」

「わかった。じゃあ、ここで待ってるね。」

 僕は現代の日本の家の自室に飛び、服を着替え、貯金箱に入っていたお金を全部出してポーチに入れた。父様にもお小遣いをもらおう。

 ちょうど昼休みで帰ってきていた父様にお願いしてお小遣いをもらった。

 すぐにさっきのアンジェラのところに戻る。

「おまたせ~。」

「あ、おねえちゃん。」

 そこにはアンナおばさんもいた。驚いて翼が出てしまった。

「わっ。」

 アンジェラが頬を赤らめて、僕の方に近づいてくる。

 アンナおばさんも一瞬驚いたみたいだけど、黙ってこちらを見ている。

「こ、こんにちは。アンナおばさん。一年ぶりくらいでしょうか。先日はアズラィールを連れに来まして、おかげさまでアズラィールは病気も治って今は元気に日本で暮らしています。」

 あんなおばさんにみんなで写ったスマホの写真を見せる。

「天使様、女の子になったのかい?」

「あ、はい。実はそうなんです。好きな人ができて、それで。」

「ふふふ。よかったね。お幸せに。」

「ありがとうございます。あの、なにか困ったことがあれば、伝えます。」

「そうだね。徠牙は今アンジェラという名前で学校に行ってるんだけどね、ドイツ語がうまく発音できなくていじめられてるんだ。かわいそうに。」

「あ、それなら僕がなんとかできます。アンジェラ、こっち来て。」

 アンジェラを呼んで頭に触り、大人のアンジェラやアズラィールの持っているドイツ語の言語能力をアンジェラにコピーする。

「多分、これで話せるようになるよ。じゃ、ちょっと画材を買いに日本に行ってきます。」

 そう言って、僕と八歳のアンジェラは現代日本の大きな画材店で色鉛筆や水彩絵の具や筆、スケッチブックなどを大人買いして、またドイツに戻った。

「あ、あの…おねえちゃんは天使様なの?」

「あ、さっきの聞こえてた?そう、今はリリィって呼ばれてるけど、僕は徠牙が知ってるライルだよ。」

「え?ライルお兄ちゃんがおねえちゃんになったの?」

「そう。変でしょ?しかも大きくなっちゃった。すごくすごく大切な人と出会って、好きになったからなんだ。」

「そうなんだ。僕も大きくなったらおねえちゃんみたいに素敵な人と出会えるかな?」

「百二十四年後にね、出会うよ。」

「わかった。天使様が言うなら本当だね。」

「あ、そうだ。さっきの石投げた子たち、どこにいるか教えてくれる?」

「どうして?」

「アンジェラは僕の大切な人だから意地悪しないで。って言っておきたいんだ。」

「でも…。」

「大丈夫。僕のいう事は絶対だからね。みんな聞いてくれるはずだよ。」

 そう言って、アンジェラに案内させ、僕は悪ガキどもが遊んでいる地区へ行った。アンジェラには家に帰らせ、いじめっ子四人に声をかける。

「ねえ、君たち。アンジェラと同じクラスの子?」

「そうだけど、あ、さっき石がぶつかった女じゃないか?」

「やべ。逃げるぞ。」

「ちょとだけ、こっち見て?」

 子供たちはこっちを向かないで走り去ろうとしている。

「そういうつもりなら、こうするよ。」

 僕が翼を出し空に浮き、嵐を呼び、手を振り下ろしたら、一番遠くにいたいじめっ子の体に雷の矢がささり、地面に固定された。

「わ、た、助けてくれっ。お前、誰だ?」

「見たまんま、天使に決まってるじゃない。あんたたちにはこれから天罰が下るんだ。死にたくなかったら、こっちを見ろ。」

 四人とも僕の方を見た。

「お前たち、アンジェラを今度イジメたら殺すわよ。今後は一生彼に優しく接し、彼のために力を尽くしなさい。」

 僕は赤い目を使って彼らに命令した。四人の目に赤い輪が浮かんだ。

 僕は雷の矢を解き、その場からアンジェラの家に転移した。


「アンジェラ、もうあの子たち意地悪しないって。だから安心してね。」

「うん、ありがと。おねえちゃん。」

「じゃ、またね。」

「もういっちゃうの?また来てくれる?」

「そうだな…アンジェラが困ったときにきっと来ると思う。」

「うん。じゃあ、またね。」

 少年アンジェラのキラキラ輝く瞳を見て、僕もうれしくなった。

 僕は、家に転移して戻った。


 あ、パジャマを日本に置いてきた。ま、いっか。父様に頼んで洗濯しておいてもらおう。とりあえず今は別のを着よう。

 着替えてからベッドにもぐりこむ…。

「どこに行ってた?」

 うっ、やばい、起きてる。口調がこわい。

「あ、あのちょっと色鉛筆を買いに行ってて。」

「色鉛筆?」

「え、あ、うん。ごめんなさい。アンジェラのまつ毛触ったらちょーっと飛んでね。ドイツのアンナおばさんのところで色鉛筆が売ってないっていうから、父様にお小遣いをもらって、日本のお店に買いに行ったんだ。」

「な、なにを夜中にやっているのかと思ったら…。ぐすっ。」

 アンジェラ、久しぶりの号泣。

「泣かないでよ~。浮気もしてないし。チューもしてないし、たまたま行っちゃったところで、おせっかいやいたけど、アンジェラが泣くことなんてしてないよ~。」

 アンジェラは僕がつぶれちゃうんじゃないかって言うくらいぎゅーって抱きしめた。

「く、くるし~。」

「あ、ごめん。夢の中で昔のこと思い出したんだ。」

「僕にとっては、さっき起きた事実だけどね。」

「そうか。百二十四年後って言ってたな。」

「あ、具体的すぎた?」

「ふざけてるんだと思ってただけだよ。」

「ひどいな。あんなキラキラな目で見つめられたらドキドキしちゃったよ。八歳児に。もう。ふざけてると思われてたなんて…。ひどい。」

「愛してるよ、遠い遠い昔からずっと…。」

「え?どういうこと?」

「私は大好きなライルがリリィっていう名前になったっていう天使様に恋したんだ。」

「ひぇ~、恥ずかしい。」

 翼がバサッと出てしまった。

「私の初恋だ。」

 恥ずかしすぎる…。夜が明けるまでもう少し…。




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