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87. 女神の意図すること

 時を同じくして、アンジェラは日本の徠夢らいむに電話をかけ、リリィが行っていないかを確認していた。

「いない?そうか。悪いな。あぁ、もし行ったらどこにも行かないように言ってくれ。」

 アンジェラはそう言って電話を切った。

 アンジェラはアンドレに合体して探してくれるよう頼んだ。

 アンドレはもちろん承諾し、二人はあちこち探し回った。

 封印の間、城の王の間、ニコラスの教会、日本の家も、しかしリリィは見つからなかった。リリィが消えてから半日が過ぎた。

 どこか違う時間に行っているのだろうか…。

 アンジェラは少し強い口調で言ってしまったことをとても後悔した。

「こんなことになるなんて…。」

 後悔してもリリィは見つからない。アンジェラはライラに電話をかけた。

「ら、ライラ、リリィがどこにいるか教えて欲しいんだ。唐揚げでもたこ焼きでもいくらでも買ってやるから教えてくれ。」

「ねぇ、でかいアンジェラ、唐揚げとたこ焼きは買ってもらいたいけど。消えたものはもう見つからない。だから、無理。」

「消えた、もの?」

「そう、この世界の中にはいない。」

「どういう意味だ?」

「無くなったとか、死んだとかいう方がわかりやすい?」

「なっ…。」

 アンジェラとアンドレはこの上のない悲しみの中、壊される前のルシフェルの亡骸のある封印の間へと転移した。

 その場所はいつも変わらず、静かで寒暖差もなく、落ち着ける空間だ。

 少し冷静さを取り戻したアンジェラはアンドレとの合体を解き、ルシフェルに話しかける。

「ルシフェル、どうしてリリィを奪うんだ。私の元に返してくれ。」

 ルシフェルの亡骸は当然のごとく反応しない。

 ルシフェルの目の前にひざまずき、顔を寄せ頬を触って言った。

「返しておくれ。私のリリィ、愛する人を…。」

 ルシフェルの目が大きく開かれ、大粒の涙がこぼれ落ちリリィの持ち帰ったものと同じ発行する白い石となる。

「これを持って行けと言うのか?」

 ルシフェルの目は黙って閉じた。白い石を拾うと、心がかき乱された。悲しくて悲しくて、もう何が起きているのかもわからなくなるほど悲しくて、アンジェラからも大粒の涙があふれ出る。手のひらに乗せた石の上にも涙が落ちていっぱいになる。

「リリィ、こんな苦しい想いをしていたんだな。わかってやれなくてすまない。」

「アンジェラ、合体して一人になった方がいい。何があるかわからないだろ?」

「アンドレ、すまない。一度家に帰り、私は一人になりたい。」

「あぁ、アンジェラ。かわいそうに…。わかった。さあ帰ろう。」

 二人は家に戻り合体を解いた。その途端、石を両手に持っていたアンジェラの姿がリリィと同じように一瞬で消えた。白い石と共に…。


 アンジェラはその場所を見たことがあった。あのライラがライルと他の九人を戻した時にまゆに入った人たちがぶら下がっていた場所だ。もっと狭いかと思っていたが、あの時は奥にこんな場所があるなんて気づかなかった。。

 白い石の明滅を頼りに、洞窟の中を先に進む。

 先に進んで行くにつれ、白い石の輝きは増し、少し広い場所に出たときにはその部屋全体が白く輝いていた。

「リリィ!大丈夫か?」

 アンジェラが床に横たわるリリィに駆け寄り、息を確認する。どうやらぐっすりと眠っている様だ。アンジェラは壁面に掘られた像があることに気づいた。

「アフロディーテ…?」

 この場所はなんなんだ…。理解できないことが多すぎる。しかし、まずは自分のできることをしよう。アンジェラには、身ひとつしかない。アンジェラはリリィの横に腰をおろし、リリィを抱き寄せた。

「あぁ、またこの腕に君を抱けるなんて、幸せだ。」

 心の底から、再会を喜び、このまま二人でこの場に閉じ込められてもいいとさえ思った。

 リリィがうっすらと目を開ける。

「あ…あ、アンジェラ、ごめんね。もう会えないかと思った。」

「私も悪かった。あんなに悲しい気持ちになっているなんて、思いもしなかった。」

 すっかり明るくなった洞窟の中を見渡すと真ん中に封印の間にあるような円卓があるのがわかった。僕たちは二人でその上に腰を掛けた。 

 僕たちはそこで黙ったまま抱き合った。二人だけの時間、お互いの存在の大きさ、伝わってくる体温…。

 二人が長いキスをした時だ、アフロディーテ像の口から小さな光の粒が出てきた。さっきの石とは違い、ものすごく小さな発行体だ。それは飛んで円卓の中央の小さな穴に入った。

 アンジェラがその穴を手で触れてみると、円卓の縁に魔法陣が現れた。

「アンジェラ、これって…。」

「封印の間に繋がっているのか?」

「わかんない。でも僕の能力ではここからどこへも転移できなかったよ。それに呪文もわからない。」

「とりあえず、魔法陣の中に体全体が入るように乗ってみよう。」

 僕も同意し、円卓の上に二人で乗り座った。

 魔法陣の紋様がぐるぐると回転を始めた。二人は離れないようにしっかりと抱き合った。

 二人の体は白く輝く光の粒子に包まれてその場から消えた。



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