86. 暗闇
僕は真っ暗闇の中にいた。握った手を開くとさっき掴んだ二つの石が光っている。
それを見るとまた涙がどんどんあふれてきた。
涙がこぼれて、また石にぽたりと落ちる。涙が落ちると石がすこしずつ大きくなって、しばらくすると直径5㎝くらいの大きさになった。
白かった石が段々金色になって来た。不思議だな。でも元々涙だから、涙とくっついて大きくなるのかな…。涙が少しおさまって冷静さを取り戻した時、僕は恐怖に襲われた。
ここはどこだろう?光っている石がなければ、真っ暗闇の穴の中に一人入っているという感じだ。
洞窟だろうか?立ち上がると身長の倍くらいの高さのあるトンネル状の穴だとわかった。
光る石のおかげでどうにかぼんやりと周りが見えてきた。
表面が鍾乳洞の様にツルツルで、光る石が最初に白かったような、そんな色をしている。
光る石を両手に持ち、先へと進んだ。
三百メートルほど行ったところで、突き当りになった。そこは、少し広い円形の広場の様になっている。真ん中には魔法陣が書かれていた。
穴から見て突き当りの部分に何か像のようなものが彫られている。
近づいてみてみると、手に持っていた石の明滅に合わせ、その像も光始めた。
あ、これはアフロディーテだ。この前調べたばかりである。
石を一つ手のひらにのせ、灯りの代わりに像の側に近づけた。
その時、石は吸い込まれるようにその像の中に消えた。
「え?どうなってるんだろう?まぁ、僕にはあまり関係ないや。」
石を手放すと真っ暗になってしまうため、僕は石を持ったまま転移した。つもりだった。
「あれ?」
転移ができない。想像を絶する恐怖が僕を襲った…。もしかしたら、僕はこのままここでずっと…。
「うぇーん。アンジェラ~。ごめんなさい~」
僕は思わず石を手離してワンワン泣いて泣きじゃくってしまった。
アフロディーテの像にもう一つの石が吸い込まれ、真っ暗闇になる。
もう帰れない。僕は思考を停止したような状態になり、意識がどんどんと薄れて行った。